銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者

潮崎 晶

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第2話:混迷は裏切りとともに

#05

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 ミノネリラ宙域で起き始めた大きなうねりを、今のノヴァルナに知るすべはなかった。いや例えその術があったとしても、何より今は、巨大なプラント衛星の制御に神経を集中しなければならない時だ。前方では『ホロウシュ』達と、キオ・スー軍の交戦による爆発光が断続的に輝く。

 サーマスタ=トゥーダの『シデンSC』が超電磁ライフルを放ち、キオ・スーの量産型『シデン』の腹部を撃ち抜く。ヴェール=イーテスが敵の振り下ろしたポジトロンパイクを、自らのポジトロンパイクで打ち防ぎ、前線で指揮を執るヨヴェ=カージェスが、手にしたQブレードで敵の『シデン』を、袈裟懸けに切り裂く。

 また先日のムラキルス星系攻防戦で専用機を失い、量産型『シデン』でこの戦いに参戦している『ホロウシュ』は、キオ・スーの宙雷戦隊に立ち向かっていた。

 軽巡航艦からの熾烈な迎撃砲火を掻い潜り、対艦徹甲弾を超電磁ライフルから撃ち込むタルディ・ワークス=ミルズ。さらにミルズ機を背後から追い抜いて飛び出した、セゾ=イーテスの機体が、軽巡の下から滑り出して来た駆逐艦の艦橋周辺に、弾丸を連続発射した。『ホロウシュ』達はみなよく戦い、BSIユニットも宙雷戦隊も、ノヴァルナの『センクウNX』へ近寄らせない。

「狙うはノヴァルナ殿下の機体だ。発射が可能な艦は、誘導弾を集中させろ!!」

 炎とスパークに包まれたキオ・スー軍軽巡の艦橋で、宙雷戦隊司令が叫ぶ。接近が困難ならば、大量の誘導弾で『センクウNX』を押し潰そうという算段だ。軽巡と駆逐艦が発射管を開き、次々と誘導弾を射出する。その直後、命令を出した司令官を乗せている軽巡航艦は、爆発を起こして砕け散った。

 撃ち出された誘導弾の数は74発。それまでに『ホロウシュ』の『シデン』へ向けて使用していたため、二個宙雷戦隊が一斉発射する数としては多くない。だが『センクウNX』はプラント衛星のコントロールを行っているため、大きな回避行動を取る事が出来ない。

「行ったぞ、ウイザードゼロツー、ゼロスリー!!」

 超電磁ライフルで敵の『シデン』のバックパックを破壊し、閃光で包んだヨヴェ=カージェスが振り返って、後方に控えるササーラとランに告げる。ササーラとランの機体がいる位置は、『ホロウシュ』とキオ・スー部隊の交戦地点とノヴァルナの『センクウNX』の中間であった。

「やれやれ…ミサイル撃ちは、得意じゃないんだがな」

 ランの機体と並んで宇宙空間に直立して浮かぶササーラは、センサー画面に表示された敵の誘導弾の群れを見て、どこか暢気な口調で言った。それに対しランは真面目な口調で窘める。誘導弾の到達まで三分も無い。

「無駄口を言う時間は終わりだ、ウイザードゼロツー」

 さらにランは超電磁ライフルを単発モードに切り替え、電子戦特化型『シデンSC-E』に乗るショウ=イクマを呼ぶ。イクマの機体はキオ・スー部隊との交戦には加わらず、少し離れた位置で、敵照準センサーに対する電子妨害を行っていた。

「ウイザードトゥエンティ」

「こちらウイザードトゥエンティ」

「これよりウイザードゼロツーと共に、敵の誘導弾に対する単発狙撃を行う。数が多い、そちらのイルミネーターで照準補正を頼む。至急だ」

「了解」

 敵の宙雷戦隊から一斉に誘導弾が発射された事は、無論、『センクウNX』に乗るノヴァルナや、その直掩任務に就いているキッツァート=ユーリス以下、シヴァ家のBSI中隊も確認していた。

 ここまで『ホロウシュ』達と、キオ・スー軍の激しい戦いを目の当たりにして、すでに緊張の極致に達していたキッツァートは、敵の宙雷戦隊が一斉発射した大量の誘導弾が、自分達を狙ったものだと気付いて、泡を食ったようにノヴァルナに告げる。

「ノ、ノヴァルナ様。て、敵の誘導弾があんなに!」

 ところがノヴァルナは、二十歳のキッツァートより三つも年下ながら、対照的に慌てる様子もない。

「ああ、ノープロブレムってヤツさ」

「は?」

 至って普通なノヴァルナの物言いに、キッツァートはポカンと口を開ける。

「まぁ見てな」

 そうノヴァルナが言った直後だった。ランとササーラの『シデンSC』が、超電磁ライフルを撃ち始める。単発の射撃を角度を変えながら素早く繰り返すと、照準もピタリ、誘導弾は片っ端から爆発しだした。

 ショウ=イクマの『シデンSC-E』とリンクし、複数の目標を同時にロックオンする、イルミネーター機能を強化したランとササーラの射撃は正確無比で、まるでトリガーを引くだけの単純作業だ。ただ射撃の間も誘導弾は飛んで行く。ランとササーラは合わせて25発を爆破したところで、機体を前に向かせたまま、後方へ―――ノヴァルナ機の方への移動を開始した。誘導弾と速度を合わせるためだ。

 機体を後退させながらのランとササーラの狙撃の前に、キオ・スー軍の誘導弾は次々と砕け散っていく。ノヴァルナはプラント衛星の前に陣取り、逃げ出す様子はない。立て続けに起きる爆発に周囲の機体は明るく照らし出され、それを演出する二機の鮮やかな手並みに、キッツァートは感嘆の声を上げる。

「凄い…」

 ただランもササーラも実際には、予想以上の苦労だったようで、全ての誘導弾を撃破し終えたのは『センクウNX』の直前だった。ノヴァルナは『センクウNX』の両腕を広げ、慣性で流れて来たランとササーラの、『シデンSC』の腰を後ろから支えて止めてやる。

「二人ともお疲れー」

 お気楽そうに声を掛けるノヴァルナに、ランはまるで自分自身の腰に手を回されたかのように、戸惑いがちに「あ…ありがとうございます」と応じる。するとキオ・スー軍の部隊は、この状況に引き返し始めた。撤退である事は間違いないのだが、最低限の目的は果たしたというのが理由の半分だ。

 その理由と言うのが、『ホロウシュ』が行っていたプラント衛星周辺の、電子妨害の解消である。宙雷戦隊がノヴァルナの『センクウNX』に対して行った、誘導弾の一斉発射に対処するため、ショウ=イクマの電子戦特化型『シデンSC-E』が電子妨害を中断した事によって、キオ・スー城へ向けて降下中のプラント衛星の正確な位置情報をはじめ、地上のキオ・スー側対宙基地がビーム砲撃を行うために必要な、各諸元を得る事が出来たのだ。

 ショウ=イクマ機がイルミネーターを、ランとササーラの機体にリンクさせていたのはほんの三十秒ほどであったが、全神経を集中させていたキオ・スー城が砲撃に必要なデータを取得するには充分な時間であった。キオ・スー城内の中央作戦室では、ダイ・ゼン=サーガイが戦術状況ホログラムを眺めてニタリと笑みを浮かべ、その背後で司令官席に座るディトモスがおもむろに頷く。

 戦術状況ホログラムには、電子妨害を受けていた時の大まかな数値と照準ポイントとは違い、正確な降下コース予想と最適狙撃点が浮かび上がって、ゆっくりと点滅している。

「狙撃点、東経36.583度。北緯24.188度、高度85300」

 オペレーターが狙撃点を言葉で報告すると、ダイ・ゼンは硬い口調で命じる。

「西海岸の砲台をナグヤ艦隊に向けている分、一点集中が必要だ。心せよ!」




▶#06につづく
 
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