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第13話:新たなる脅威
#21
しおりを挟む作戦などない…と言いながら、ハートスティンガー艦隊の攻撃は執拗であった。戦法はミディルツやフジッガと同じく、“三人衆軍”の前方を横切りながら、火力を叩き付け、別動隊として置いた各空母から発進させた艦載機で、波状攻撃を仕掛けるというものだが、こちらは今回が初戦の無傷の戦力である。そのためもあって一度だけでなく、三度も横断戦を挑んだ。
当然ながらハートスティンガー艦隊も大きな損害を被ったが、三人衆側も特に先陣を務めていたサッドバル=シジャークの第5艦隊は、ハートスティンガー艦隊が前を横切る度に集中攻撃を受け、損耗率が六十パーセントを超えて後方に下がらざるを得なくなった。
そして戦線を離脱したハートスティンガー艦隊は、やはりミディルツとフジッガと同じように、まだ戦闘可能な艦を引き連れ、“三人衆軍”のあとを追い始める。三人衆側の兵士からすれば、後から付いてくるミディルツらの部隊が、脱落艦を喰らう、ハイエナにあとをつけられているようで、不気味な事この上ない。
しかも“ミョルジ三人衆”の間では、このハートスティンガー艦隊の動きに、新たな罠の存在を疑い始めていた。
皇都惑星キヨウの直掩として温存されていたはずの、ハートスティンガー艦隊が強硬な攻勢に出て来た事で、どこかしらからの増援が自分達の想定以上に、早くも到着したのではないかという憶測である。
「もしキヨウに増援部隊が到着していた場合、後方から来ている敵の残存部隊と、挟撃される可能性がある…どうする?」
三人衆筆頭のナーガス=ミョルジは、思案顔で懸念を口にした。
「撤退もあり得る、という事か?…ここまで来て、だぞ」
些か不満げに応じるのはトゥールス=イヴァーネルだ。いつもの如くナーガスは総旗艦『シンヨウ』の艦橋におり、その両側にトゥールスと、ソーン=ミョルジのホログラムがいる。
「だが罠であるなら、深入りは禁物だぞ」
慎重派のソーンだが、状況的には正しい意見でもある。皇都攻略に失敗すれば、星系外縁部まで逃走し、超空間転移で脱出するまでの間に、追撃部隊からさらに大きな損害を受ける事になるはずだ。しかしそうは言っても、この機を逃すのは惜しいのも確かである。
「ううむ…」
思案顔を深める一方のナーガス。するとその時、総旗艦『シンヨウ』の通信オペレーターが、硬い口調で報告して来た。
「暗号通信らしきものを大量に傍受! 我が軍のものではありません!」
この暗号通信の傍受は、“ミョルジ三人衆”を大いに驚かせた。トゥールスのホログラムがすぐに反応する。
「その暗号通信の発信位置は!?」
やや間を置いて、位置を確認したオペレーターが返答した。
「我が軍の左やや後方、232マイナス16です」
「セッツー宙域方向か…可能性からすれば、イ・クーダあるいはイ・ターミの軍だろうが、早すぎるな」
オペレーターの報告からトゥールスは、セッツー宙域の独立管領の二家を予想するが、同時に到着が早すぎるのではないか?…という疑いを抱く。しかし疑いはあくまでも疑いであり、これが事実であった場合は由々しき事態だ。
「部隊の針路を変更する」
ナーガスがそう告げると、慎重派のソーンは「うむ」と大きく頷き、トゥールスは対照的に不承不承といった体で、軽く頷いた。
「艦隊針路036プラス72。天頂方向へ移動し、状況確認にあたる」
ナーガスの命令で、“三人衆軍”の九個艦隊は、一斉にその場から急上昇を開始する。謎の暗号通信を送って来た相手の正体を探るためである。その正体がセッツー宙域からの増援部隊であるならば、自分達を追って来るはずだ。
ところが“三人衆軍”が所定の位置に到着して、三十分以上が過ぎても、暗号通信は最初に傍受された位置から、一向に動こうとはしなかった。流石にこれはおかしいと感じたトゥールスは、ナーガスに威力偵察隊の派遣を意見具申。これを受けたナーガスは、無傷の第6艦隊を暗号通信の傍受地点へ差し向けた。
するとその地点にいたのは重巡3、駆逐艦6からなる小部隊が居ただけで、威力偵察隊が接近すると、一目散に逃げ出したのである。
実はこの小部隊は第五惑星ゴージョの公転軌道上で、“三人衆軍”を迎え撃ったタクンダール家の、残存部隊の一部だったのだ。簡単な迎撃行動を行っただけで、皇都惑星キヨウへ向けて撤退したように見せかけた、タクンダール家の残存部隊であったが、その途中でこの暗号通信を大量発信するための、小部隊を置いていったのだ。これもみなミディルツ・ヒュウム=アルケティからの依頼であった。“やれる事はなんでもやる”の想いに嘘偽りは無い。
だが…と、旗艦『アルバルドル』の司令官席に座るミディルツは思った。心理戦も含めて、これ以上の小細工は通用しないだろう。ここから先は、本物の援軍の到着まで、正面から殴り合うしかない。フジッガの第2防衛艦隊と、ハートスティンガーの第3防衛艦隊に通信を入れる。
「キヨウの手前で、星系防衛艦隊とタクンダール家の残存部隊と呼応。包囲戦を仕掛けまする。宜しくお頼み申す」
それからのおよそ二時間は、ミディルツら皇国側にとって試練の時間であった。数にものを言わせて突進して来る“三人衆軍”を、まるで闘牛士のように何度もいなし、すれ違いざまに砲火を浴びせる。
しかしそれは当然、自分達も敵の砲火を浴びる事になり、各艦の損害が、野火のようにジリジリと積み重なって来る。そしてその損害の蓄積が限界に達した時、破滅が訪れるのである。
「戦艦『レフデンドル』、通信途絶!」
「戦艦『ベド・ゼラーク』大破! 戦列より脱落!」
「重巡『ルイダス』爆発!」
「第16航宙戦隊より、艦載機損耗率64パーセント。組織的作戦行動不能」
「第39宙雷戦隊旗艦より入電、“ワガ隊、戦力半減スレド戦闘続行ス”」
第1防衛艦隊旗艦『アルバルドル』で指揮を執るミディルツの許に、味方の悲痛な報告が、立て続けにもたらされる。ミディルツはその一つ一つに「了解」と告げては、口を真一文字に結んだ。
そこに左舷側で戦っているフジッガから通信が入る。
「こちらはそろそろ、艦隊戦力が三分の一になる。ここはキヨウまで後退して、星系防衛艦隊の残りも戦力に加えるか?」
それに対し、外で起きた爆発の閃光に、硬い表情を浮かべた顔を照らし出されたミディルツは、「それはだめだ」と否定の言葉を口にした。
「キヨウで防衛線を組んでしまうと、敵の攻撃が惑星表面にも着弾して、一般市民を巻き込む恐れがある。ジョシュア陛下の治世となった今、それだけは避けねばならない!」
自然と強い口調になるミディルツ。今のシグシーマ銀河系を混乱させている戦国の世は、元はと言えば、およそ百年前の“オーニン・ノーラ戦役”で皇都惑星キヨウが戦場となり、全土が荒廃したからだとミディルツは考えていたのだ。そうであれば“ミョルジ三人衆”の軍を、キヨウに近寄らせたくはないのも無論の事だ。それにキヨウに被害が及ぶような事になれば、せっかく星帥皇の座に就けたジョシュアの権威が、早々に失われてしまうだろう。
ただミディルツの友人でもあるフジッガは、こういった反応は予測していたらしく、通信用スクリーンの画面の中で苦笑いを浮かべて応じた。
「貴殿のことだ、そう言うと思っていたさ」
これにハートスティンガーやタクンダール家の残存部隊を加え、そこから粘りに粘ってさらに一時間。彼等の努力は正しく報われた。
最初の援軍の到着である―――
▶#22につづく
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