銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第13話:新たなる脅威

#17

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 ミディルツとフジッガの動きは約二時間後、部隊の立て直しを終えつつあった、“ミョルジ三人衆”も察知するところとなった。第八惑星裏側の艦隊集結地の周辺に配置した哨戒駆逐艦が、ウォーダ軍の小部隊の接近を発見したのだ。

「敵の宙雷戦隊が一個だけだと?」

 三人衆のリーダー格ナーガスは、参謀の報告に眉をひそめた。先に再編を終えた敵が襲撃して来たなら、もっと戦力があっていいはずだ。

「陽動か…何かの罠か…今の段階では、読めんな」

 司令官席に座るホログラム像のトゥールス=イヴァーネルが、ナーガスの左側で意見を述べる。それに応じたのがナーガスの右側に、同じく司令官席に座るホログラム像を浮かべたソーン=ミョルジだった。

「しかしこのまま接近を許して、魚雷を撃たれるのも面倒だぞ」

 その言葉に頷き、「うむ。こちらも宙雷戦隊を、差し向けるか」と、ナーガスが呟いた直後、通信オペレーターが事態の急変を伝えて来る。

「哨戒駆逐艦『レヒート』より入電、“ワレ攻撃ヲ受ク”。発見した敵部隊から、攻撃を受けているようです!」

「なに?」

 すると別の通信オペレーターも緊急電を告げる。

「哨戒駆逐艦『デクゾン』も攻撃を受けているとの事。出現した敵宙雷戦隊が、分離した模様!」

 同時に総旗艦『シンヨウ』の戦術状況ホログラムが、攻撃を受けているという、二隻の哨戒駆逐艦の情報を表示した。艦隊集結地を球状に包むように配置した十二隻の駆逐艦のうち、艦名の出た二隻の位置が、戦闘によって大きくズレ始めているのが見える。

「クソッ。哨戒網潰しが目的だったか!」

 トゥールスのホログラムが吐き捨てるように言う。哨戒駆逐艦が居なくなれば、その空いた穴から敵の主力部隊が来る可能性が高い。ナーガイは少し慌てた様子で命令を発した。

「迎撃の宙雷戦隊二個を差し向けろ。急げ!」

 さらにトゥールスも、全部隊に補足の指示を出す。

「応急修理と補給が完了した艦は外側に、未了の艦は内側に。迎撃態勢をとれ!」



 この指示に焦りの色を浮かべたのが、対艦誘導弾を自分の旗艦に被弾した、オルグターツ=イースキーであった。三発の被弾のうち特に機関部を直撃した一発が、深刻なダメージを及ぼしている。

「修理はまだかァ!?」

 叩きつけるように詰問するオルグターツに、艦のダメージコントロールを担当する副長が顔を引き攣らせて報告する。

「重力子ジェネレーターの出力が上がりません。いま動いても最高速力は、通常の五十パーセント程度かと」
 
 艦の修理状況の遅さに、オルグターツは「何を!…」と激発しそうになる。しかしその時、ハッ!…と気付いて、司令官席の傍らに立つトモスを見上げた。何かを言いたげな眼を向けている参謀長に、オルグターツは軽く咳払いをして気持ちを落ち着け、オペレーターに告げる。

「出来るだけ修理を急げ。事態は急を要する!」

 すべてが思い通りであった…いや、そう思っていた、ミノネリラ宙域の支配者であった頃とは、今は違うのだ。顔を出しそうになるかつての傲慢さを、腹の底へ飲み下し、オルグターツは再びトモスを見る。それでいいのです…と言いたげな眼になったトモスが軽く頷く。



 しかしながら“ミョルジ三人衆”はここでも、ミディルツとフジッガの意図を、見抜くことはできなかった。

 哨戒網潰しをやっているウォーダ軍の宙雷戦隊を、撃破に向かった三人衆側の二個宙雷戦隊は、戦場へ到着した途端、激しい通信障害とセンサーの探知能力の低下に見舞われる。攻撃を受けた二隻の哨戒駆逐艦が、移動して出来た穴から侵入して来た、ミディルツの操縦するBSIユニットが、強力な電子戦を行い始めたからである。

 ミディルツの機体はBSHOではなく、旧サイドゥ家の親衛隊仕様BSIユニット『ライカSS』の、電子戦強化拡大型『ライカSS-ES』だった。
 これは通常の親衛隊仕様電子戦特化型『ライカSS-E』に、さらに電子戦能力の向上を施したもので、電子戦用の大型バックパックに、セパレートタイプの強化パーツを組み合わせる形になっている。およそ八年前にノヴァルナと初めて会った際にも乗っていた機体だが、その時はこの強化パーツは外していた。

 ミディルツは引き連れて来た護衛の小隊と、対艦攻撃装備のBSI部隊に通信を入れる。

「ランダムシフトは毎秒2500。リンク外れに注意せよ。全機攻撃開始!」

 三人衆側からの解析を妨害するため、EWS(電子戦システム)へのアクセスコードは一秒間に、2500回ランダム変更される。そのリンクが外れると味方であっても、通信障害やセンサーの機能低下が発生してしまうため、回復には一度後方へ下がる必要があった。電子戦強化拡大型『ライカSS-ES』と共に戦う場合の、重要な注意事項だ。

 ミディルツの言葉に「了解」と応じた指揮下のBSI部隊は、一斉に敵の宙雷戦隊との距離を詰めていく。ミディルツとフジッガの狙いは哨戒網ではなく、これを攻撃する事で出て来る、宙雷戦隊を叩く事だったのだ。




▶#18につづく
 
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