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第13話:新たなる脅威

#16

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 約四時間後、オルグターツの奮戦も空しく、戦線が膠着した“ミョルジ三人衆”は第八惑星裏側まで後退して、部隊の立て直しを図っていた。

 その要因は、タクンダール家の派遣部隊が思いの外、強力であった事だ。特にBSI部隊指揮官の二人が、自らの命と引き換えに死闘を演じ、ミョルジ側のオルグターツとエクスジア両艦隊のBSI部隊に、大打撃を与えたのが大きく影響している。二人の指揮官が、彼等の親衛隊や直卒BSI中隊と共に、オルグターツとエクスジアのBSI部隊の半数を相手取る間に、対艦攻撃を主体にした部隊が、BSI防御網を突破。大量の対艦誘導弾を撃ち放ったのである。

 このタクンダール家BSI部隊の目論見を見抜けなかった辺りが、オルグターツの将としての限界点であっただろうか。旗艦の司令官席から飛び上がるように立って、「しまったァ!」と叫んだ時には、味方の複数の艦から火柱が噴出していた。

 そこから必死に戦況の挽回を図ったものの、ここでオルグターツの身にも不運が降り掛かる。タクンダール側の旗艦を撃破もしくは行動不能に陥れて、打開策を探ろうと、麾下の艦隊を強引に前進させた矢先、自分の方が座乗する旗艦『ダーガット・ロア』が、タクンダールのBSIユニットから、三発の対艦誘導弾を喰らい、機関部に小さくない損害を被ってしまったのである。

 しかもその結果、連携を取ろうとしていたもう一人のミョルジ軍の武将、エクスジアの艦隊にまで損害の拡大が飛び火した。
 それに加え、タクンダール家の対艦攻撃部隊は、一部がナーガス=ミョルジの第1艦隊にまで到達。手当り次第に誘導弾を発射し、対艦徹甲弾を連射した。

 これで“ミョルジ三人衆”の軍は完全に浮き足立ち、ミディルツとフジッガの艦隊に対応していた、ソーンとガヴァラの艦隊も押され始めると、総司令官のナーガス=ミョルジは皇都攻略の強硬策を諦め、第八惑星裏側で部隊の再編を行うものして、全軍の一時撤収を命じたのである。

 ただ、対する皇都防衛側も、当然ながら相当規模の損害を受けており、第八惑星裏側へ撤退するミョルジ軍に、決定的な打撃を与えられずにいた。しかもこの状態はすぐに解決できそうになく、ナーガス=ミョルジも“どうしたものか…?”と、頭を抱えていたのであった。
 
 翻ってミディルツとフジッガのウォーダ軍艦隊であるが、こちらの方も第五惑星公転軌道へ後退して、部隊の立て直しを行っていた。ただしこちらは、時間を無駄にするつもりはない。

「フジッガ殿。そちらの状況は?」

 ミディルツの呼び掛けに、通信ホログラムスクリーンに映るフジッガは、一旦視線を外した。別のスクリーンが映し出している自分の艦隊の状況を、再確認したのだろう。視線を戻したフジッガは淡々と返答する。

「戦艦二隻が中破、重巡二隻を失った。小破状態の艦は何隻かあるが、まだまだ戦える」

 フジッガの艦隊は、三人衆側のビルティー=ガヴァラが指揮する第7艦隊と、砲撃戦に終始し、撤退を考えるほどの損害を受けてはいない。一方のミディルツ艦隊はソーン=ミョルジの艦隊に対し、分散機動戦を挑んだ事もあって、戦艦と重巡にかなりの損害を出していた。喪失した艦こそ無いが、全ての艦が中破以上の状況である。
 ただそれでもミディルツの闘志は衰えておらず、またそれを実践するための方策も用意していた。大口径砲を装備した戦艦や重巡、そして戦場の拡散に使用したBSI部隊は消耗したが、六隻の軽巡と十八隻の駆逐艦はほぼ無傷だ。今度はこれを使おうというのだ。

「わかったフジッガ殿。ではこれから敵部隊が集結地にしている、第八惑星の裏側に軽巡と駆逐艦で、波状攻撃を仕掛けようと思うがどうだろう?」

 これを聞いてフジッガも、武将の眼をギラリと光らせた。

「なるほど。先手を取っての嫌がらせか。タクンダール軍の、立て直しの時間も稼げるし、それはいい」

 フジッガの賛同を得て、ミディルツは強く頷いた。彼等皇都側の戦略は、周辺宙域の独立管領からの援軍が、到着するまでの時間稼ぎだ。そうであるなら、小部隊による波状攻撃は、効果的なはずである。さらにフジッガは自らの思い付きを、ミディルツに具申した。

「ミディルツ殿。ここは私の戦艦と重巡の部隊が前進して、波状攻撃の援護射撃を行う。貴殿は我が艦隊の空母も合わせて指揮し、残存BSI部隊で機動兵器戦を、仕掛けてはどうか?」

 文人武将と侮るなかれ。文芸に秀でる一方、戦場では武辺豊富なフジッガは、戦意も高くそう言い放つ。それに触発されたのか、ミディルツも冷静な口調の中に、焔の煌きを見せて応じる。

「いいだろう。それでは私も、自分のBSIで出るとしよう…」

 そんなミディルツの言葉に、“やはりおまえもそっち側の人間か…”と言いたげな眼をして、フジッガは頷いた………



▶#17につづく
 
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