338 / 374
第13話:新たなる脅威
#15
しおりを挟むこのミョルジ軍の、一気に第八惑星の裏側まで回り込む手は、効果があるように思われた。ミディルツ艦隊が風呂敷を広げるように戦場を広げても、その範囲には限界があるからだ。たとえ第八惑星に皇国軍の宙雷艇部隊が潜んでいても、七個もの基幹艦隊を阻止できるほどとは思えない。
戦場を次々と離脱していく自軍艦隊の艦列に、それを映像で見るナーガスは、ようやく息をついた気分であった。
ところがその直後、通信参謀が驚くべき報告をもたらした。皇都惑星キヨウに早くも援軍の第一陣が到着しつつあるというのだ。
「なに? どこの援軍だ!?」
落ち着けたところの表情を、早くも険しくして問い質すナーガス。問われた参謀はオペレーター席に早足で歩み寄り、複数の管制官から詳細な情報を集めた。言葉を交わし、何度か頷くと、ナーガスの元へ小走りに戻って来る。
「ナーガス様。敵の増援はワクサー宙域の、タクンダール家から派遣されていた部隊のようです」
「タクンダール家だと?」
眉をひそめ、ナーガスは言い放つ。ワクサー宙域はヤヴァルト宙域と隣接しているが、どちらかと言えば裏口的位置にあった。そのため、逆方向からキヨウへ侵攻しようとしている“三人衆”にとって、情報が少ないエリアになっていたのだ。それにタクンダール家は、隣国エテューゼの星大名アザン・グラン家と、長年にわたり係争を繰り返しており、ヤヴァルト宙域へ皇都防衛の戦力を派兵しているとは、予想していなかった。
「戦力は?」
等身大ホログラムのトゥールス=イヴァーネルが尋ねる。
「二個艦隊と思われます」と返答する参謀。
さらに詳細な情報が得られたらしく、総旗艦『シンヨウ』の艦橋中央に展開されている、戦術状況ホログラムに最新状況が反映される。どうやら増援のタクンダール家二個艦隊は、皇都惑星近郊に防衛線を引くのではなく、直接こちらを迎え撃ちに出て来るようだ。
「小賢しい連中だな」
トゥールスが忌々しそうに言うと、ナーガスも頷いて同意し所見を述べる。
「ああ。だが正面からぶつかって来るとも思えん。遅滞戦術をとられては面倒だからな。エクスジアの第5艦隊とオルグターツの第9艦隊を、先鋒として進ませて対応させ、我等は状況を見ながら皇都を目指そう」
「わかった。任せる」とトゥールス。
やがてミョルジ軍の皇都攻略部隊から、ザルバル=エクスジア率いる第5艦隊とオルグターツ=イースキー率いる第9艦隊が、速度を上げて前進を始めた。
ミョルジ軍第9艦隊司令官の座にあるオルグターツ=イースキーは、旗艦の航宙戦艦『ダーガット・ロア』の艦橋で、両眼を輝かせていた。自分に出番が回って来たからだ。
「戦艦、重巡、宙雷戦隊のォ、三列縦陣でいいかァ? トモス」
「はっ。良きご判断かと」
総参謀長の地位を与えている、トモス・ハート=ナーガイの賛意に、大きく頷くオルグターツ。色白で小太りな見た目は、ミノネリラ宙域で放蕩三昧の毎日を送っていた頃と、大して変わっていないが、顔つきは明らかに変わっている。
「さあオルグターツ様。御命令を」
トモスに促されて、オルグターツは「おう」と凛とした声で命じる。イントネーションのおかしな癖も無い。
「艦隊三列縦陣! これより敵艦隊への迎撃行動に入る。速度上げ!」
およそ一年前、領地であったミノネリラ宙域をノヴァルナに制圧され、捕らえられたオルグターツは、助命嘆願を乞うトモスの忠義心に免じて、生存を認められたものの、僅かばかりの金額を与えられただけで、着の身着のまま同然で領地から追放処分を受けた。
亡き父ギルターツの伝手を頼り、イーゴン教徒が治める自治星系ナナージーマに辿り着いたオルグターツだったが、住民達からの視線は冷たいものであった。ミノネリラ宙域領主時代の悪評が、この地にまで及んでいたからである。
そんな中、世間の冷風からの盾になってくれたのが、唯一人ミノネリラから同行して来た武将、トモス・ハート=ナーガイだった。
トモスの変わらぬ忠義心に気持ちを動かされたオルグターツは、ようやく心を入れ替え、傲慢の限りであった態度を改める。それがもはや手遅れであるとは分かっていても、妻や子を置いてまで自分について来てくれたトモスに対し、オルグターツに出来るたった一つの事であったからだ。
それからの日々、オルグターツはトモスを師と仰いで、軍事教練に打ち込んだ。艦隊指揮を学び、戦術・戦略を覚え、シミュレーションではあったが模擬戦を山のように積んだ。
そしてナナージーマの指導部にも、その変化を認められたオルグターツは、イーゴン衆の総本山オ・ザーカ星系のイシャー・ホーガンを通じ、“ミョルジ三人衆”の軍に、客将として迎え入れられたのである。ならばこの戦いは、新生オルグターツの初陣であり、おのずと気合が入るというものであった。
ただ意気込みこそ高くとも、哀しいかな実力が伴わない場合は、多々ある事でもある―――
▶#16につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者
潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/horror.png?id=d742d2f035dd0b8efefe)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる