銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第13話:新たなる脅威

#15

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 このミョルジ軍の、一気に第八惑星の裏側まで回り込む手は、効果があるように思われた。ミディルツ艦隊が風呂敷を広げるように戦場を広げても、その範囲には限界があるからだ。たとえ第八惑星に皇国軍の宙雷艇部隊が潜んでいても、七個もの基幹艦隊を阻止できるほどとは思えない。

 戦場を次々と離脱していく自軍艦隊の艦列に、それを映像で見るナーガスは、ようやく息をついた気分であった。
 ところがその直後、通信参謀が驚くべき報告をもたらした。皇都惑星キヨウに早くも援軍の第一陣が到着しつつあるというのだ。

「なに? どこの援軍だ!?」

 落ち着けたところの表情を、早くも険しくして問い質すナーガス。問われた参謀はオペレーター席に早足で歩み寄り、複数の管制官から詳細な情報を集めた。言葉を交わし、何度か頷くと、ナーガスの元へ小走りに戻って来る。

「ナーガス様。敵の増援はワクサー宙域の、タクンダール家から派遣されていた部隊のようです」

「タクンダール家だと?」

 眉をひそめ、ナーガスは言い放つ。ワクサー宙域はヤヴァルト宙域と隣接しているが、どちらかと言えば裏口的位置にあった。そのため、逆方向からキヨウへ侵攻しようとしている“三人衆”にとって、情報が少ないエリアになっていたのだ。それにタクンダール家は、隣国エテューゼの星大名アザン・グラン家と、長年にわたり係争を繰り返しており、ヤヴァルト宙域へ皇都防衛の戦力を派兵しているとは、予想していなかった。

「戦力は?」

 等身大ホログラムのトゥールス=イヴァーネルが尋ねる。

「二個艦隊と思われます」と返答する参謀。

 さらに詳細な情報が得られたらしく、総旗艦『シンヨウ』の艦橋中央に展開されている、戦術状況ホログラムに最新状況が反映される。どうやら増援のタクンダール家二個艦隊は、皇都惑星近郊に防衛線を引くのではなく、直接こちらを迎え撃ちに出て来るようだ。

「小賢しい連中だな」

 トゥールスが忌々しそうに言うと、ナーガスも頷いて同意し所見を述べる。

「ああ。だが正面からぶつかって来るとも思えん。遅滞戦術をとられては面倒だからな。エクスジアの第5艦隊とオルグターツの第9艦隊を、先鋒として進ませて対応させ、我等は状況を見ながら皇都を目指そう」

「わかった。任せる」とトゥールス。

 やがてミョルジ軍の皇都攻略部隊から、ザルバル=エクスジア率いる第5艦隊とオルグターツ=イースキー率いる第9艦隊が、速度を上げて前進を始めた。
 
 ミョルジ軍第9艦隊司令官の座にあるオルグターツ=イースキーは、旗艦の航宙戦艦『ダーガット・ロア』の艦橋で、両眼を輝かせていた。自分に出番が回って来たからだ。

「戦艦、重巡、宙雷戦隊のォ、三列縦陣でいいかァ? トモス」

「はっ。良きご判断かと」

 総参謀長の地位を与えている、トモス・ハート=ナーガイの賛意に、大きく頷くオルグターツ。色白で小太りな見た目は、ミノネリラ宙域で放蕩三昧の毎日を送っていた頃と、大して変わっていないが、顔つきは明らかに変わっている。

「さあオルグターツ様。御命令を」

 トモスに促されて、オルグターツは「おう」と凛とした声で命じる。イントネーションのおかしな癖も無い。

「艦隊三列縦陣! これより敵艦隊への迎撃行動に入る。速度上げ!」



 およそ一年前、領地であったミノネリラ宙域をノヴァルナに制圧され、捕らえられたオルグターツは、助命嘆願を乞うトモスの忠義心に免じて、生存を認められたものの、僅かばかりの金額を与えられただけで、着の身着のまま同然で領地から追放処分を受けた。

 亡き父ギルターツの伝手を頼り、イーゴン教徒が治める自治星系ナナージーマに辿り着いたオルグターツだったが、住民達からの視線は冷たいものであった。ミノネリラ宙域領主時代の悪評が、この地にまで及んでいたからである。
 そんな中、世間の冷風からの盾になってくれたのが、唯一人ミノネリラから同行して来た武将、トモス・ハート=ナーガイだった。

 トモスの変わらぬ忠義心に気持ちを動かされたオルグターツは、ようやく心を入れ替え、傲慢の限りであった態度を改める。それがもはや手遅れであるとは分かっていても、妻や子を置いてまで自分について来てくれたトモスに対し、オルグターツに出来るたった一つの事であったからだ。

 それからの日々、オルグターツはトモスを師と仰いで、軍事教練に打ち込んだ。艦隊指揮を学び、戦術・戦略を覚え、シミュレーションではあったが模擬戦を山のように積んだ。

 そしてナナージーマの指導部にも、その変化を認められたオルグターツは、イーゴン衆の総本山オ・ザーカ星系のイシャー・ホーガンを通じ、“ミョルジ三人衆”の軍に、客将として迎え入れられたのである。ならばこの戦いは、新生オルグターツの初陣であり、おのずと気合が入るというものであった。



ただ意気込みこそ高くとも、哀しいかな実力が伴わない場合は、多々ある事でもある―――




▶#16につづく
 
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