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第13話:新たなる脅威
#14
しおりを挟むソーン艦隊が矢印陣形を取ったのを見て、ミディルツはすぐさま自軍の陣形変更を命じる。
「艦隊全艦、単縦陣! 旋回しつつ敵艦隊を取り巻け。空母は全艦載機発艦!」
この命令に従い、ミディルツの第1防衛艦隊は、旗艦『アルバルドル』が率先する形で、見事な艦隊運動を行った。全艦が素早く一本棒に隊列を整えると、大きく円を描く動きを見せ、ソーン艦隊の矢印陣形に絡みついたのである。ノヴァルナがBSIの機動戦闘で、『ホロウシュ』達を従えて時折見せる渦巻戦術、“スパイラルフォーメーション”のいわば艦隊版だ。そこからさらに命令を出すミディルツ。
「全艦、全火器使用を許可。艦載機は発艦次第、小隊単位で敵攻略部隊へ向かえ!」
全火器の使用が許された事で、ミディルツ艦隊は主砲以外にも、副砲、対艦誘導弾、宇宙魚雷、さらにはCIWSの小口径ブラストキャノンに至る、あらゆる火力をソーン艦隊に叩きつけ始めた。無数の閃光が、これまで以上にソーン艦隊に発生して、戦闘が激しさを増す。戦艦がシールドを貫かれて直撃弾を喰らい、重巡が主砲塔を砕かれ、軽巡が艦体に大穴を穿たれ、駆逐艦が真っ二つになる。無論それはソーン艦隊に限った事ではない。反撃を受けたミディルツ艦隊にも、損害が増大してゆく。
だが損害比率から言えば、数的有利な基幹艦隊のソーン艦隊の方が大きい。実はこれには双方の艦隊の練度の差があった。ミディルツの第1防衛艦隊は、皇都防衛が目的の重要戦力であるため、ウォーダ軍の第1艦隊と第2艦隊という、最も練度の高い艦隊から、戦力を抽出して編制されていたのである。そうであればこれまでの見事な艦隊運動も、納得顔で頷けるというものであり、また編成後も新司令官のミディルツが、訓練に訓練を積み重ねていた。その結果が、ソーン艦隊の参謀の言葉に表れる。
「我が艦隊損害増大! 損耗率34パーセント」
「ぬう!」
腹立たしげに声を漏らすソーン=ミョルジ。するとその直後、ソーンの乗る艦隊旗艦が激しい衝撃に包まれた。ミディルツの旗艦である、『アルバルドル』の主砲ビームが艦橋付近に命中、外殻を覆うエネルギーシールドの一部を、剝ぎ取ったのだ。直撃は免れたものの、着弾箇所周辺のセンサー類が、電磁障害を受けて機能を麻痺。砲戦能力の低下を招いた。
これ以上の損害は、後方の皇都攻略部隊にも支障をきたす、と考えたソーンはこちらからもBSI部隊を発進させるよう命令する。
ソーン艦隊が艦載機を発艦させた事は、むしろ彼等にとってマイナス事案であった。艦隊戦の只中でBSIユニットなどの、艦載機同士の戦闘を展開させるのは、艦隊運動を妨げる結果を招く。そしてミディルツはこれが狙いだったのだ。
ウォーダ軍の主力BSIユニット『シデン・カイ』と、ミョルジ軍の主力BSIユニット『サギリ』。ウォーダ軍の主力ASGUL『ルーン・ゴート』と、ミョルジ軍の主力ASGUL『ラシェラム』。そして両軍の攻撃艇がドッグファイトを始めると、ソーン艦隊とさらにもう一つのビルティー=ガヴァラの艦隊も巻き込み、混戦状態が拡大してゆく。
ここで損害を出したくはないナーガス=ミョルジ以下、七個艦隊はこの混戦に巻き込まれるのを避けるため、想定以上の迂回コースを取る必要性に迫られた。総旗艦『シンヨウ』に座乗するナーガスは、ソーンの手際の悪さに顔をしかめる。
「く…こんな所で、悠長な事はやっておられんというのに!」
そう言ってナーガスは、第3艦隊を率いている三人衆の一人の、トゥールス=イヴァーネルに通信を入れた。
「トゥールス。ここは攻略部隊を分散させて、個々にキヨウを目指させるか?」
七個もの基幹艦隊が集団で航行するには、想像以上に広大な空間が必要である。それぞれが光速の20パーセント程度もの速度を出しているため、僅か十秒の時間であっても、宇宙艦は60万キロもの距離を移動するのだ。それが数百隻にもなる集団を形成するとなれば、例えば別世界に存在する地球という惑星の尺度で考えれば、火星と呼ばれるその次の惑星までの距離、およそ直径八千万キロの空間は必要となって来るのである。
だがソーンの失策で生じた混戦空域の広がりが、この集団の皇都惑星への最短距離移動を邪魔していた。そのためナーガスは集団航行を解除し、各艦隊が思い思いの航路でキヨウへ向かうべきではないかという判断だ。
しかしトゥールスはそれを否定した。
「いや駄目だ。敵の通信を傍受したところ、ここからキヨウまでの各惑星に、宙雷艇部隊が配備されているらしい。分散航路では個別に襲撃される可能性が高い」
トゥールスの意見に思案顔をしたナーガスは、意見を容れて新たな策を導き出す。
「ううむ…それもそうか。よし、多少時間はかかるが、ここは思い切って一旦第八惑星へ向かい、これを回り込んで、しかる後にキヨウを目指そう」
これは妙案のように思われた。第八惑星の裏側まで移動すれば、これを迎撃の主体としている、ミディルツとフジッガの艦隊もついて来ざるを得ず、多少の時間は要するが戦線を立て直す事が出来るはずだ。トゥールスもこれには同意した。
「よし。それでいこう」
▶#15につづく
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