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第13話:新たなる脅威

#12

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 一方、この“ミョルジ三人衆”軍団の侵攻に、ようやく出撃体制を整えたウォーダ家の、ヤヴァルト星系駐留軍三個艦隊は、星系防衛艦隊の撤退開始と入れ替わるように発進した。

 第1防衛艦隊司令官はミディルツ・ヒュウム=アルケティ。第2防衛艦隊司令官はフジッガ・ユーサ=ホルソミカ。そして第3防衛艦隊の司令官をマスクート・コロック=ハートスティンガーが務めており、このうち第3防衛艦隊は、皇都惑星キヨウ防衛の最後の切り札として、撤退して来る星系防衛艦隊と合わせ、キヨウ周辺に待機する事となっている。
 したがって星系防衛艦隊に続き、第二次迎撃戦を挑むのは、ミディルツとフジッガの二個艦隊だけと、圧倒的に不利な状況だ。

「ともかく、我らの目的は時間稼ぎ。援軍が来るまでの足止め、これに徹する事に限る」

 第1防衛艦隊旗艦である、戦艦『アルバルドル』の艦橋で、ミディルツ・ヒュウム=アルケティは、第2防衛艦隊旗艦『レガ・ラウンゼン』に乗るフジッガ・ユーサ=ホルソミカに、作戦の確認のための通信を入れていた。「わかっているさ」と頷くフジッガ。

 ヤヴァルト宙域防衛艦隊は、基幹艦隊編成ではないものの、これに準じた戦力を有しており、一個艦隊あたり戦艦5、重巡航艦4、軽巡航艦6、駆逐艦18、正規空母3と、それなりに強力ではある。しかしながらミョルジ側は、九個艦隊もの戦力を送り込んで来ており、正面から戦っても勝てる規模ではない。そこで彼等が頼みの綱としているのは、周辺宙域の独立管領の援軍であった。

 銀河皇国に降伏し忠誠を誓った事で、カウ・アーチ宙域に新たに複数の植民星系の領有を認められた、元ミョルジ家当主のヨゼフ・サキュダウ=ミョルジ。さらにセッツー宙域のイ・クーダ家とイ・ターミ家など、恒星間打撃艦隊を保有している独立管領などに対し、“ミョルジ三人衆”の軍がヤヴァルト宙域へ侵入すると同時に、緊急出動を要請した星帥皇室だが、完全に不意を突かれたために、即応できなかったのである。

 “ミョルジ三人衆”部隊の位置を、戦術状況ホログラムで確認しつつ、ミディルツはキリ…と奥歯を噛み鳴らした。“三人衆”がこれほど早く軍を立て直し、キヨウを目指して侵攻して来るとは思わなかった…いや、可能性を思っておくべきだったのだ。

「前哨駆逐艦『フェルセス22』より入電。“敵艦見ユ。ワレヨリノ方位、258プラス16距離8万2千”」

 オペレーターの報告に「了解」と応じたミディルツは、通信回線を開いたままであった友人のフジッガに告げた。

「我々の艦隊が先行する。貴殿は第九惑星方向へ迂回して、仕掛けてくれ」
 
同時刻:オウ・ルミル宙域ノーザ恒星群、アーザイル家本拠地オルダニカ城―――


「タクンダール家からの伝達。間違いないんだね?」


 真夜中の私室に、アーザイル家当主ナギ・マーサス=アーザイルの声が響く。それに対し、上半身のみのホログラムの女性当直士官は、形のいい唇を動かして「はい…間違いなく」と応じた。
 キヨウのあるヤヴァルト宙域と一部で隣接する、ワクサー宙域星大名タクンダール家は、ノヴァルナのウォーダ家との連携を表明しており、一部の艦隊をヤヴァルト宙域側へ派遣している。その派遣部隊が星帥皇室からの救援要請を受け、ウォーダ家との同盟関係にあるアーザイル家にも、情報を伝えて来たのである。

 当直士官の言葉に「分かった」と頷いたナギは、さらに問い掛けた。

「いま緊急出動スクランブル出来る艦隊は?」

「第8艦隊です」

「アトゥージアの艦隊だね。僕も乗るから、連絡を入れてくれ」

 それを聞いて当直士官は困惑した表情になる。

「若殿御自ら、ご出陣なさるのですか?」

「ああ。シャトルの用意を急いでくれ」

 穏やかだが、有無を言わさぬ強さを秘めた声に、当直士官の女性は「かしこまりました」と応じずにはいられない。そして士官との通信を終えると、それを待っていたらしい妻、フェアンの声が背後から聞こえて来た。

「ナギ…出陣するの?」

 ナギは「うん」と応じて後ろを振り返る。その視線の先には、ナイトガウン姿のフェアンがいた。妊娠も六ヵ月目に入り、腹部の膨らみも目立って来ている。しかしそれでも、ウォーダ家のアイドル的存在として、領民からの人気が高かった頃の美しさは、失われていない。

「ジョシュア陛下が危機なんだ…だけど、ノヴァルナ様はミノネリラに帰っておられて、すぐには動けないだろう。だから僕が先陣として行くよ。独断だけどね」

 そう言いながら、ナギは軍装への着替えを始める。フェアンはそれを手伝いながら呼び掛けた。

「ナギ…」

「ミノネリラからキヨウまでは、急いでも十日はかかるけど、ここからなら二日で到着出来る。今は少しでも戦力が必要な時だ…ノヴァルナ様のためにもね」

兄様にいさまのため?…ありがとう、ナギ」

 そこへ先ほどの女性士官から、第8艦隊と合流するためのシャトルの、準備状況の連絡が入る。

「シャトルの発進準備、間もなく完了致します」

 着替えを終えたナギは「了解。これからポートに向かう」と返答し、フェアンの右の頬に軽くくちづけをした………




▶#13につづく
 
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