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第13話:新たなる脅威

#10

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 新年早々キノッサがモルタナにブン殴られ、左眼の周りに青アザを作りはしたものの、ウォーダ家の皇国暦1564年の年明けは、恙なく始まったように思えた。


ところが1月の6日になって事態は急変する―――


 皇都キヨウから緊急連絡があり、前日の1月5日の午後、キヨウのある皇国首都星系ヤヴァルトに、ミョルジ家の艦隊が急襲を仕掛けて来たというのだ。そして現在の状況は、皇都防衛が任務のヤヴァルト宙域駐軍が、迎撃行動に入っているらしい。



 その連絡を受けノヴァルナは即断即決、腕を組み傲然と胸を反らして命じた。

「これからキヨウへ向かう!」

 この時のノヴァルナは総旗艦『ヒテン』に座乗。臨時編成の九隻の艦を率いて、新年の領域巡察を目的に、惑星バサラナルムを出かけたばかりであった。

「いっ…今からで、ございますか?」

 困惑気味に問うのはカッツ・ゴーンロッグ=シルバータ。総旗艦『ヒテン』の艦橋には他にシンモール=ザクバー、トゥ・シェイ=マーディンにナルマルザ=ササーラ。リーンテーツ=イナルヴァ。リカード=サイドゥ。そしてナルガヒルデ=ニーワスといったウォーダ家の重臣の一部に加え、領地のヤーマト宙域から新年の挨拶を兼ねて出向いて来た、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガが同乗していた。

「おうよ」

 軽く言い放つノヴァルナにナルガヒルデが、赤髪黒縁眼鏡の女性教師のような風貌で、注意を喚起する。

「しかし…このような臨時編成の巡察艦隊では、大した戦力にはなりませんが?」

 まさにその通りで総旗艦『ヒテン』の他は、同じ第1戦隊に所属する戦艦『ベルフォヴァ』に、第7艦隊の宇宙空母が一隻。第8艦隊の重巡航艦が二隻。第31艦隊の軽巡航艦が二隻と、第36艦隊の駆逐艦が三隻という、寄せ集めもいいところであった。
 しかもこれらの艦は『ヒテン』以外は、就役したばかりの新造艦で、実戦経験は皆無。今回の領域巡察も、半ば長距離の慣熟航宙を兼ねたものに、なるはずだったのだ。
 それでもノヴァルナは、承知の上だと言外に匂わせて、ナルガヒルデに言葉を返した。

「行くさ、それでもな」

 するとこのノヴァルナの言葉に、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガが、鷹揚に頷いて賛意を示す。

「良きご判断ですな。戦力は現地の防衛艦隊などで、どうにでもなりましょう。然るにそれ以上重要なのは、皇都の危機に陣頭指揮を執られるため、ノヴァルナ公ご自身が押っ取り刀で駆け付けたという事実。これで軍の士気は跳ね上がり、民は安堵の息を漏らしましょう」
 
 だが救援に向かうとしても、現実的に皇都キヨウまでの距離が問題である。ハーヴェンがその事を、静かな口調でノヴァルナに問い掛けた。

「ですがノヴァルナ様。艦隊の現在位置は、カノン・グティ星系最外縁部です。ここからキヨウに向かうとして、最短でも十日はかかります。十日後ともなれば、勝敗は決してしまっていると、思われますが…」

 さらにハーヴェンの上官であるキノッサも、真顔で意見を述べる。

「そうッス。今から星帥皇陛下に超空間ゲートの、緊急時連続使用を願い出ても、ゲートの操作は向こうで行うんスから、すぐに使えるってわけじゃないし…」

 恒星間を短時間で転移する超空間ゲートは、星帥皇室が運営権を独占しており、基本的に軍艦の使用は禁止されている。そしてこれは無断使用を禁止するために、ゲートの制御用AIが自動的に軍艦を識別。一定距離以内にゲートに接近した場合は、稼働を停止し、機能を一時的に凍結する仕組みになっている。

 したがって今回、ノヴァルナ達がキヨウ救援に向かうため、超空間ゲートを連続使用しようとしても、まず星帥皇室に許可を申請し、これを認めた星帥皇自らが、サイバーリンクで該当ゲートを操作。凍結機能を解除する必要があるのだ。

 これを聞いて、シルバータとザクバーが“そういえばそうだ…”という、困惑の表情を浮かべた。

 この件に関してはノヴァルナが皇都キヨウに駐留していた時、自分達の陣営にノヴァルナを取り込もうと、散々褒美の話を持ち掛けて来る上級貴族達に対し、“それなら、ミノネリラ星系からヤヴァルト星系までの、超空間ゲートの運営権を分与してくれ”と言い放ったものの、星帥皇室と上級貴族の特権を脅かす要求に、回答を先送りされたままであったのだ。
 もっともノヴァルナにすれば、小煩こうるさい上級貴族達を黙らせるための口実に過ぎず、分与が認められるとは思っていなかったのだが。

 そして、当のノヴァルナは家臣達の懸念に、不敵な笑みで応じた。

「心配すんな、俺達にはあるだろ?…“こんな事もあろうか”ってヤツがよ」

 ノヴァルナの言葉に一瞬顔を見合わせた家臣達だったが、すぐに全員が思い当たるものに気付いて、あっ!…という顔になった。それを見て、ノヴァルナは口許を大きく歪め、強気の表情で勝ち誇ったように言う。

「そうだ。“アレ”を使う! みんな、すぐに手配しろ!!」




▶#11につづく
 
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