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第13話:新たなる脅威
#09
しおりを挟む結果的にキノッサの第36基幹艦隊のBSI部隊指揮官は、ティヌート=ダイナンが任じられる事となった。元イル・ワークラン=ウォーダ家の武将で、キノッサの“一夜城作戦”において、マスクート・コロック=ハートスティンガーに誘われて参戦。三隻の重巡航艦を率いてキノッサを支援した男だ。あの時は重巡隊指揮官だったが、実はBSIパイロットとしての技量も高いらしい。
ダイナンは本来ヤヴァルト宙域駐留軍で、ハートスティンガーが司令官となる、第3防衛艦隊に配属される予定であったのだが、事情を聞いたハートスティンガーが転属させてくれたのである。
そして流石に十五歳のBSI部隊少女指揮官は、話題性はあっても実戦経験が不足しており、フェルデーサには副隊長のポストが与えられた。さらにマーディンからの取り成しもあって、親衛隊仕様の『シデン・カイXS』を得る厚遇ぶりだ。
やがて月も変わり、皇国暦1563年も残りあと一か月となる。
ノヴァルナもノアも、内政や編成変えを行った部隊の習熟訓練で、多忙な日々が続いた。しかしそんな中で慶事もある。トゥ・キーツ=キノッサとネイミア=マルストスの結婚式だ。
中立宙域の惑星ザーランダからネイミアの両親と親族も招いて、ギーフィー城内の中庭で行われた結婚式は、庶民上がりのキノッサの事であるから、控えめなものにするだろうという、ウォーダ家の家臣達の予想とは逆に、キノッサ本人曰く「基幹艦隊司令就任祝いも兼ねて」、派手なものとなった。
ファンファーレと共に金と銀の紙吹雪が大量に舞い、降り注ぐ中、それぞれ純白のスーツとドレスに身を包んだキノッサとネイミアは、手を繋いで入場して来る。
そこからホール前方中央の宣誓台へ進むと、まるで何かのスポーツ大会の選手宣誓のように、二人揃って片腕を高く挙げ、元気よく永遠の愛を誓った。するとその直後、宣誓台の一部が二人の背後で開き、真っ白な風船と真っ白な鳩が数多く飛び出したのである。
これに合わせてキノッサの直臣達から歓声と拍手が起こり、それは会場全体を包み込んだ。この時代の流れで、惑星キヨウの人類の間でかつて信仰された、古代宗教色の少ない結婚式で、元気の良さはキノッサとネイミアの二人に、似合っていると言っていい。
無論、ノヴァルナも参列したわけであるが、今回は“何かをやらかす”わけでもなく、珍しく普通に祝辞を述べただけに留まる。これについては、周囲で“ネタが思い浮かばなかった”とか、“直前になってノア姫に阻止された”といった噂が囁かれたのだが、実際は本当に忙しく、悪だくみをする暇がなかったのであった。
式を済ませたキノッサとネイミアは、十日をかけ中立宙域の二つの惑星を巡る、新婚旅行へと旅立った。
二つの惑星のうちの一つはサフロー。八年前にキノッサが、ノヴァルナの配下に加わる事が出来た、“水棲ラペジラル人奴隷売買事件”に関わる惑星である。そう聞くと印象が悪いように思いがちだが、実際のサフローは観光歓楽惑星で、大型アミューズメントパークの『ワンダーグリム』と、夜ごとに空一面を覆う『虹色流星雨』が、多くの人々に愛されている。
そしてもう一つの惑星が、五年前にノヴァルナの皇都見物に従って訪れたガヌーバ。こちらはキノッサとネイミアが出逢った、多数の温泉郷が有名な鉱山惑星だ。当時、中立宙域で複数の植民星系を不法占拠し、住民に恐怖政治を敷いていた私兵集団『ヴァンドルデン・フォース』の、討伐を引き受けてくれる相手を探しに来たネイミアは、この地でキノッサと知り合い、彼を通じてノヴァルナに、討伐を願い出たのである。
惑星サフローでは『ワンダーグリム』で子供のようにはしゃぎ、『虹色流星雨』でロマンティックな夜を過ごし、惑星ガヌーバでは以前にも泊まった温泉旅館『アルーマ天光閣』で、オ・カーミのエテルナ=トルクールと再会し、歓待を受けたキノッサとネイミアは、大量の土産を現地発送した上で、年の瀬も近い12月26日にバサラナルムへ帰って来た。
「…で、大量の土産が届いたのは、いいけどよ」
無事帰着した挨拶に、ギーフィー城の執務室を訪れたキノッサとネイミアに、ノヴァルナは机に片肘をつき、上目遣いで不満そうに言う。
「は? 何か不備がありましたッスか?」
「いや。土産については問題ねぇ。ガヌーバ名物の温泉まんじゅう辺りは、シウテの爺やナイドルの爺なんかの年寄連中が、喜んで喰ってた」
ノヴァルナの反応に、キノッサとネイミアは顔を見合わせた。
「じゃあ、何が?」とネイミア。
「てめーらが旅行に出たあとに届いた、結婚式の記念品だ」
「え?」
「あの『キノッサ家の金箔家紋入りティーカップセット』だってーの!」
キノッサとネイミアは結婚式の記念品として、出席者全員にキノッサが考案した自分の家紋、『銀河に千成瓢箪』を金箔で描いた、白磁のティーポットと四客分のカップ/ソーサーの紅茶セットを、送り付けてきたのである。しかもカップの家紋の反対側には、キノッサとネイミアのツーショット写真が、印刷されているご丁寧さだ。
「あーゆーのは、“結婚式で貰って困るものリスト”の、上位にランクインする代物だろーがよ!」
ノヴァルナは突き出した両腕をワナワナと震わせ、強く訴える。
ノヴァルナの訴えに対してキノッサは「そうなんスか?」と、自覚の無さそうな声で応じる。“駄目だこりゃ…”と首を振るノヴァルナ。そこにさらに、我が物顔で言い放つキノッサ。
「いやいや。これも俺っちが将来もっと出世したら、引く手あまたの“お宝アイテム”に化けるってもんス。大切に置いといてくださいッスよ!」
「へいへい。そいじゃまぁ、頑張って出世してくれや」
ノヴァルナは呆れ顔でそう応じると、何かを思い出したらしく、悪い表情に変えてキノッサに告げる。
「あー、それからな。モルタナのねーさんが、てめーが帰って来たら、ブン殴ってやるって息巻いてたぞ」
「い?…なんでッスか?」
降ってわいたような話にたじろぐ、キノッサとネイミア。対するノヴァルナは、ニヤニヤしながら理由を口にする。
「いや。てめーらが留守の間に、ねーさんとメシ喰う機会があったんだがな。そん時に、“ねーさんて虫が大の苦手なんだよな”って言ったら、急に血相を変えてさあ。“キノッサの野郎だね!アイツ、内緒にしとく約束だったのに!”って、怒りだしてな。そんでてめーが帰ったら、ブン殴る…って」
「げげ!」
モルタナ=クーギスが大の虫嫌いである事は、キノッサの“一夜城作戦”に彼女が手を貸した際に、発覚した事実であった。そしてこれはノヴァルナが知ると、要らぬ弱みを握られる事になるため、秘密にしておく約束だったのである。
だがノヴァルナはその後の、バイオノイド:エルヴィスとの対面を果たす、アルワジ宙域への旅の時に、すでにモルタナの虫嫌いを知っていた。妻のノアもだ。一年も経たずに約束は破られたという事だった。
ところがキノッサはノヴァルナに、この事実を教えたりはしていなかったのだ。約束を守っていたのである。そうなると、考えられるのは………
「ネ~~~イ~~~!」
キノッサは隣を振り向き、新妻の名を呼ぶ。しかし口の軽さが玉に瑕の新妻は、知らん顔であらぬ方向を見渡すだけだ。
「こっちを向くッス。ノヴァルナ様には教えちゃいけないって、あれほど言ったはずッスよ!」
「そうだっけ?」
あっけらかんと言い放つネイミアに、キノッサは思わずのけ反った。
「モルタナの姐さんは、ブン殴るって言ったら、ホントに殴るんスから!…ほとぼりが冷めるまで、逃げ回るしかないじゃないッスか!」
勘弁してくれ…と言いたげなキノッサだが、そこに悪い笑顔を浮かべたノヴァルナから、追い打ちがけられる。
「バカてめぇ。あと一週間もしねぇうちに新年だ。新年祝賀で嫌でも顔を合わせるだろーが。大人しくブン殴られとけ」
今ではモルタナもノヴァルナの家臣の一人だ。ギーフィー城で行われる新年の祝賀会には、当然出席するはずである。キノッサは天を仰いで「トホホ…」と嘆くしかなかった………
▶#10につづく
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