銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第13話:新たなる脅威

#07

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 必勝の信念を抱き、第二衛星の周囲を巡る岩塊の海に、機体を飛び込ませたフェルデーサは、すぐに左へ直角ターンをかけ、灰白色の岩塊の裏側へ回り込む。だがすぐにその岩陰を離脱するフェルデーサ。次の瞬間、マーディンのペイント弾が直撃したその岩塊は、粉々に砕け散った。ペイント弾であっても、エネルギーシールドを張っていない岩塊程度は砕く威力がある。

「くぅ!」

 重力子ダンパーで抑制できないほど、急激なGの負荷に耐えたフェルデーサは、素早く機体を急旋回させて、別の岩塊の陰に滑り込ませる。直前に銃撃で砕かれた岩塊の破片を回避するためだ。どころが回り込んだ岩塊の裏には、すでにマーディンの『シデン・カイXS』が待ち構えていた。近距離から左手一本で超電磁ライフルを向けるマーディンの機体。自分を狙う銃口が陽光に輝く。

「!!…ッ!」

 ただフェルデーサもこのマーディンの先回りは、頭の中でシミュレート済みだった。衝突警戒マーカーに囲まれた、間近にある複数の岩塊破片の中から、下方に位置する一つに咄嗟に、ヘルメットの視線照準を合わせる。そして振り抜いた『シデン・カイXS』の右脚が、岩塊破片を蹴り飛ばした。
 破片はマーディン機の銃身先端に命中。同時に発射された銃弾は、フェルデーサ機の左側頭部を掠めるに留まる。

“よし!”

 上手くいったと、フェルデーサは即座に自分から距離を詰めて、超電磁ライフルを向ける。ところがマーディンの方も、この一連の流れはシミュレート済みであった。跳ね上げられた左手のライフルはそのままに、バックパックのウエポンラックから、右手で握り取ったポジトロンパイクを振り上げて来る。あっ!…と驚愕したフェルデーサは、反射的に超電磁ライフルの銃身を盾代わりに突き出した。直後にガツン!と操縦桿へ伝わる衝撃。ピーッ!鳴り響く警告音。マーディン機のポジトロンパイクに、超電磁ライフルが破壊されたという判定だ。それでも機体への損害は免れた。

 しかし危機が去ったわけではない。マーディン機から次の斬撃が来る。間合いが近い。フェルデーサが機体を翻すと、胸部に僅かな裂傷判定。あと数十センチ深ければ、撃破判定だったろう。

“躱せた!”

 フェルデーサは回避行動を続けながら、腰のクァンタムブレードに手を掛ける。そこに新たな衝突警報。惑星ハラーシェの第二衛星の地表が、すぐそこまで迫っていた。このままでは激突だ。模擬戦であっても機体が破壊されれば、生命に危険が及ぶ。旗艦『ヴェルセイド』の艦橋でキノッサが叫ぶ。

「危ない!!」
 
「容赦は無しだ!」

 追い込むように間合いを詰め、ショルダータックルを喰らわせたマーディンは、さらにポジトロンパイクを振りかぶった。生死を賭けてこそ、見極められる境地というものがある。次の刹那、放たれるパイクの斬撃。実際には斬られなくとも、今の速度で地表に打ち据えられると、生きていられる保証はない。

“こんな…ことで!!”

 だが命の危機を感じた瞬間、研ぎ澄まされた感覚が、フェルデーサの技量レベルを押し上げた。
 クァンタムブレードの間合いでも、マーディンのポジトロンパイクによる打撃の方が早いと、瞬時に判断。自分からも踏み込んで距離を詰め、ブレードの刀身ではなくつかの部分で、パイクを握るマーディンの機体の手首を受け止める。

「!」

 僅かに眼を見開くマーディン。窮地に陥ってなお前に出てくるのは、主君ノヴァルナが得意の戦法だ。

“正解だ。前に出なければ、死んでいた”

 内心で頷くマーディン。しかもフェルデーサ機はブレードを握る手首を返すと、マーディンのパイクの柄を巻き込むようにして、反撃の刺突を放って来る。そのブレードの切っ先を、パイクを回転させて打ち払うマーディン。するとそこで互いの位置が入れ替わる。そしてこれがフェルデーサの狙いだった。マーディンの機体の背後に、第二衛星の地表。距離は僅かだ。フェルデーサは起動済みだったポジトロンパイクを右手に握り、左手のクァンタムブレードと“二刀流”で、マーディンに吶喊を仕掛ける。

「たぁあああああああああ!!!!」

 裂帛の気合で振るうポジトロンパイク。マーディンもパイクで弾き返す。その背後には第二衛星の灰白色の地表。後方への逃げ場はない。

“追い詰めた! 上下ならブレード、左右ならパイク!”

 後がないマーディンに対し、フェルデーサは相手の回避パターンへの対応を、自分に言い聞かせ、最後に“油断は禁物!”と付け加えた。ところが相手はマーディンである。今はBSHO『テンライGT』を拝領しているが、『ホロウシュ』筆頭などの経歴を過ごす間、『シデンSC』や『シデン・カイXS』に慣れ親しんで、機体性能の引き出し方は熟知している。
 マーディンはサイバーリンクによる姿勢制御と、小刻みなフットペダル操作による反転重力子放出を瞬時に行い、数秒の遅れが死を招く状況で、機体を最小半径で四分の三後方回転。腰を落として第二衛星の地表へ降り立った。驚くフェルデーサに、第二衛星地表をホバリング走行し始めたマーディン機が、銃撃を行う。




▶#08につづく
 
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