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第13話:新たなる脅威
#06
しおりを挟む一方、フェルデーサ側の旗艦『ヴェルセイド』の艦橋では、私室から出てきた参謀長のデュバル・ハーヴェン=ティカナックが、キノッサの傍らに歩み寄った。そのキノッサは司令官席から身を乗り出して、模擬戦の状況を映し出すホログラムスクリーンに見入っている。
「如何ですか、我らの麗しの戦士殿の戦いぶりは?」
問い掛けるハーヴェンに、キノッサは「いやぁ~」と苦笑いして、手指で後頭部を掻きながら振り向く。しかし具体的な事は答えずに、ハーヴェンに対する気遣いの言葉を口にした。
「もう、具合はいいッスか? 軍師どの」
「はい。ご心配をおかけして、申し訳ございません―――」
不治の病を得ているハーヴェンは、このところ体調不良の日が多く、今日も今まで私室で臥せっていたのだ。
「お二方の接戦に、わたくしも武人の血が滾りまして…」
私室のモニターで観戦していたハーヴェンも、フェルデーサの苦闘に居ても立っても居られなくなったのであろう。
「わたくしは、BSIユニットの機動戦闘に関しては、全くの素人なのですが…勝てるのですか? 我等の戦姫どのは」
それを聞き、キノッサは再び「いやぁ~」と言って頭を掻く。BSIユニットの操縦技術のみで勝敗を予想するには、パイロットとしての技量は中の中でしかないキノッサでは、何とも言えない。しかしその代わり、キノッサには確信している事があった。少し真剣な表情になって、自分の想いをハーヴェンに告げる。
「だけど、俺っちは信じているッスよ―――」
それはキノッサが、基幹艦隊司令官に任命されるに至り、BSI部隊戦力の底上げを図るため、自分主催でBSIパイロットの募集を兼ねた、トーナメント大会を開催した二週間前に遡る。
若くして民間人から基幹艦隊司令官へ登用された、キノッサ主催のトーナメント大会。優勝者には身分に関わらず、新設キノッサ艦隊のBSI部隊長の座が、約束される―――
「―――あの時見た、フェルデーサのギラギラした眼を!」
その大会で優勝した、弱冠十五歳の少女フェルデーサ=ゼノンゴークの、家の再興に対する執念にも似た強い意志を帯びた眼…それはかつて、己が立身出世を願ってノヴァルナの元へ参じた、キノッサ自身が輝かせていた眼と同じであった。
そうであるがゆえ、フェルデーサにBSHO搭乗者適性があると知ったキノッサは、自分自身のためにも彼女に賭ける気になった。いや、賭けざるを得なくなったのだ。
そのフェルデーサは機体をランダムに振りながら、後方からのマーディンの銃撃を回避しつつ、状況の打開に思考を巡らせていた。今はどうにか躱せているが、このままではいずれ銃撃を喰らって終わりだ。
“見え見えだけど、やっぱりあそこに行くしか!”
そう思ってフェルデーサが眼を遣ったのは、視界の右斜め下に映る、この第六惑星ハラーシェの第二衛星であった。南半球が大きく抉れ、その破片の大小の岩塊が漂うそこは、少なくとも一方的に銃撃を受ける恐れはなさそうだ。
しかしそれこそが、マーディンの狙いでもあるように思う。そうでなければこうあからさまに、自分を第二衛星の方向へ追い込む牽制射撃は、行わないはずだ。
するとその直後、ロックオン警報が響いて、フェルデーサは反射的に操縦桿を倒した。ヘルメット内に響く立体音響で、銃弾の飛んで来る予測コースが、分かる仕組みになっている。機体を激しくスクロールさせ、一発、二発、三発とギリギリで銃弾を回避したフェルデーサの『シデン・カイXS』は、バックパックに重力子パルスの光のリングを連続して黄色く輝かせ、そのまま第二衛星へ向かった。
「ここで倒れるわけにはいかない!」
声に出して決意を示したフェルデーサは、追尾してくるマーディンとの距離を注視しながら、ポジトロンパイクの起動準備を行う。
フェルデーサが必死であるのは、自分自身の立身出世のためだけではなかった。
生家のゼノンゴーク家は、主君がドゥ・ザン=サイドゥであった頃、すでに領地としてミノネリラ宙域の新興植民星系、カーモスを与えられていたのだ。
新興植民星系は完全に自立するまで社会構造的にも、経済的にも不安定だ。そしてゼノンゴーク家は、領有するそのカーモス星系が自立できる前に、当主のヒスルヴォを失ってしまったのである。そしてさらに二人の兄の相次ぐ戦死。これでゼノンゴーク家は没落寸前となった。
領主たる武将の没落は、領有する植民星系にも悪影響を及ぼす。ましてやゼノンゴーク家はイースキー家の武将として、新たなミノネリラ宙域の支配者、ウォーダ家に敵対した身である。ノヴァルナ自身はそういった事は気にしないが、彼の家臣によっては、意趣返しで風当たりを強くする者もいる。
そうして困窮した状況に追いやられた中で、新たにゼノンゴーク家の当主となったフェルデーサは、新任の基幹艦隊司令官トゥ・キーツ=キノッサが、BSHO適性もある優秀なBSIパイロットを集めていると知り、彼が主催した模擬戦トーナメント大会に、領地の植民星系の民の命運も共に賭けて挑んだのであった。
▶#07につづく
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