328 / 375
第13話:新たなる脅威
#05
しおりを挟むキノッサからの激励に「はい!」と強く応じるフェルデーサ。そこにモニター表示される模擬戦開始の合図。スロットルを開く双方の『シデン・カイXS』。全周囲モニターに流れる星の海の中で、フェルデーサは自分に言い聞かせた。
“落ち着け、あたし!”
次の刹那、近接警戒センサーが瞬時にマーディン機の接近を告げる。まるで稲妻のような機動だ。相手はベテラン、先手を取られて当然!…と自分に言い聞かせ、あえて小さくコースを変える。そのコース変更は小刻みに行うのが肝要。相手との距離の数値確認も怠ってはいけない。
“24…23…22…今!!”
距離を詰めて来るマーディン機との間合いを、実数値で読み取ったフェルデーサは、タイミングを見計らって、左右の操縦桿を一気に前後させた。最大限の素早さで機体を翻すフェルデーサの『シデン・カイXS』。その眼前には超電磁ライフルを構えた、マーディンの機体。フェルデーサの『シデン・カイXS』も、すでに超電磁ライフルを構えている。しかし―――
“駄目! これじゃ勝てない!”
瞬時に判断し、トリガーは引かずに機体に捻り込みをかけるフェルデーサ。その右のショルダーアーマーに、先手を打ったマーディンが放ったペイント弾が、青い塗料の筋を描く。コンピューターの判定は、“右肩の装甲を掠めただけで、戦闘の続行は可能”だ。体勢を立て直してライフルを撃つ。だがそこには、当然のようにマーディンの機体は無い。
しかしその一方で、このフェルデーサの一連の行動は、マーディンを頷かせるものであった。キノッサの言う通り、緊張していたのが解けてきたのだろう。俊敏さが増した上に、相手の動きに対する読みも悪くない。
「そう来なくては、面白くないからな」
微笑と共に呟いたトゥ・シェイ=マーディンは、『シデン・カイXS』を再加速させ、フェルデーサ機の頭上を取りにかかった。BSIユニットの頭上方向は、人型機動兵器に乗り慣れていない人間にとって、弱点となり得る位置取りである。
“馬鹿にして!”
マーディン機の行動を見て一瞬、腹を立てたフェルデーサだったが、すぐに“これは挑発も兼ねた動きだ”と思い直して、気持ちを鎮める。そんな事より迎撃だ。超電磁ライフルを構えて機体を縦方向へ半回転。マーディン機の未来予測位置へ、ペイント弾を扇状にバラ撒く。しかし相手には掠りもしない。むしろ眼にも留まらぬ超高速機動を行いながら、反撃の銃弾を放って来る。
「!!!!」
息を吞んで咄嗟に回避行動を取るフェルデーサ。機体の右太腿と左の二の腕に、掠めたペイント弾が一本ずつ、僅かに青い筋を引いた。
カウンターの銃撃がフェルデーサの機体表面を二発、微かに掠めただけなのを見たマーディンは、「ほう…」と感嘆の声を漏らす。
親衛隊仕様のBSIユニットは将官用のBSHOほどではないが、サイバーリンク深度は量産型より高く、人型機体の姿勢制御については、パイロットの“感覚”の鋭さがものを言う。つまり相手が手応えを感じたはずの攻撃を、紙一重で回避する事が出来る“感覚”だ。今の二発はマーディンにすれば―――
二発とも喰らうのは、並みのパイロット。
どちらか一発を躱して、もう一発を喰らうのは上級パイロット。
二発とも躱すのは、BSHO適性の高いエースパイロット。
という意味を含んだ必殺のカウンター攻撃であり、咄嗟の判断でありながら、二発の銃弾の僅かな隙間に、紙一重で機体を滑り込ませたフェルデーサの、秘めた資質が垣間見えた一瞬だった。
“よかろうキノッサ。おまえの人を見る眼を、認めてやろう!”
笑みを浮かべたマーディンは、牽制射撃を一連射行うとライフルの弾倉を交換、バラ撒かれた銃弾の回避に速度を落としたフェルデーサに対し、猛然と追い込みを仕掛ける。
直線的な動きの多いマーディンの追い込み。狙撃のチャンス!…と考え、フェルデーサはライフルを構えようとしたが、次の瞬間、閃いた。
“罠だわ!!”
操縦桿のトリガーボタンに添わせた親指を離し、機体を翻すと、最大加速で退避行動に移る。マーディンの狙いが銃撃戦ではなく、ギリギリの回避を繰り返して接近した上での、ポジトロンパイクやクァンタムブレードによる格闘戦に持ち込むのが、目的だと見抜いたからだ。
格闘戦なら自分も腕に自信があるフェルデーサだったが、それゆえに先手を取られる不利を理解しての、ここは逃げの一手である。
“正解だ。しかし、ここからどうする?”
距離を取ろうと引き離しにかかるフェルデーサ機を、マーディンは眼を細めて追撃する。どこか愉悦の感情が漂うのは『ホロウシュ』筆頭だった頃に、ノヴァルナが連れて来た新生『ホロウシュ』の若者達を、ラン・マリュウ=フォレスタや、ナルマルザ=ササーラ、ヨヴェ=カージェスと共に教育係として鍛え上げた日々を、思い出したからだ。
人を育てるという事は、自分自身を育てるという事にもなる。海のものとも山のものとも知れない荒くれ者の彼らを、『ホロウシュ』に相応しい戦士に育て上げた日々が、自分自身の成長の糧となったのであるから、その頃を思い出させるフェルデーサに対し、マーディンの感慨もひとしおだった。
▶#06につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説



絶世のディプロマット
一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。
レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。
レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。
※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる