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第13話:新たなる脅威

#04

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 そして三回目の対戦の開始を告げる、“READY GO!”の文字が全周囲モニターの前面に、赤く輝いた。第六惑星ハラーシェの“壊れた月”を背景に、二つの機体が一気に加速する。すぐさま超電磁ライフルを放ったのはマーディンだ。フェルデーサがコースをずらそうとした瞬間を狙って放ったそのペイント弾は、一戦目においては、それだけでいきなり勝敗を決してしまった。
 無論フェルデーサも警戒はしていたし、回避する自信もあったのだが、ロックオン警報が鳴り始めるのと同時の被弾という早業には、初見で対処は難し過ぎるというものだ。

 しかし二戦目では被弾しなかったし、同様の素早さで繰り出したマーディンの銃撃を、幾度かは躱すことが出来た。それだけでも大した順応力である。
 ただマーディンの方も三回目となると、単なる牽制射撃でしかない。コースを変更するフェルデーサ機に対し、自分の機体に急角度で捻り込みを行い、背後を取りに行く。

“なんて速さなの!”

 後方の近接警戒センサーがマーディンの接近を告げる警告音に、フェルデーサは唇を嚙んだ。同じ機体でありながら、マーディンの『シデン・カイXS』の方が圧倒的に速く感じる。やはり普段、摸擬戦で戦っている同僚達とは全く違う。咄嗟に操縦桿を倒し、機体を急降下させるフェルデーサ。次の瞬間、フェルデーサの『シデン・カイXS』が直進していた場合の未来位置を、マーディンのペイント弾が通過した。

「よし。躱せたか」

 マーディンはそう言って、自らの機体も急降下させる。発言が“躱したか”ではなく“躱せたか”なのは、それぐらいでなければ困る…といった気持ちが、あるからだろう。
 マーディンの機体の動きを読み、フェルデーサは急降下に入った直後、即座に自分の機体を振り向かせて二連射の銃撃を行った。マーディンが急降下に入った刹那の、ほんの僅かな直線運動を狙ったのだ。だが当たらない。マーディンは機体を横滑りさせながら急降下に入っていた。

“く…あれは意識的にできる動きじゃ無い!”

 超高速の機動戦闘では、コンマ数秒の動きが生死にかかわる。意識的に機体を横滑りさせたというより、体が自然と機体を操作した…そんな印象だ。そしてこのような悠長な感想を抱いている暇さえ、宇宙での戦闘は許さない。
 雑念が過ぎった一瞬後、マーディンの機体を表示しているマーカーが、全周囲モニター画面を真下へ飛んでいくように消える。

「しま―――」

 しまった!…といい終わらぬうちに、フェルデーサの機体に衝撃が走り、被撃破判定の音とともに、コクピットは赤い光に包まれた。
 
 パイロットスーツには体温調節機能があるのだが、フェルデーサは額に汗が滲むのを感じた。相手は元『ホロウシュ』筆頭として、常にノヴァルナ公とともに最前線に立っていた、エース中のエースであり、簡単には勝てないと思っていた。しかしこれほどまでに、力の差があったのは想像以上だ。

「これで三対〇。もうよかろう?」
 
 互いに距離を取ったところで、マーディンは通信回線を開いた。三戦とも圧勝となれば、これ以上は…という気にもなる。その言葉に歯を食い縛るフェルデーサ。ゼノンゴーク家を立て直すためにも、こんなところで立ち止まっていられない…そう思い、再戦を頼み込もうとした寸前、先に通信回線を開いたキノッサが、咳込むように訴えた。

「マーディン様。もう一戦! もう一戦、お願い申し上げます!!」

「キノッサ…」

 マーディンの笑い混じりの声が、フェルデーサのヘルメットにも伝わって来る。相手の性格を見抜き、どうせそう言って来るだろうと知っていた笑いだ。「キノッサ様…」と呟くフェルデーサ。

「今はまだ、フェルデーサは緊張してるだけッス。彼女の実力は、こんなもんじゃないッス!!」

 さらに訴えるキノッサに、真面目な口調で返すマーディン。

「緊張していようがしていまいが、実戦では関係ないぞ。戦いとは命のやり取り。その場で出せるものが、その者の実力の全てだ。そちらから申し込んだ以上、三戦すれば充分だろう」

「それは重々承知しております。しかしながら三戦して敗れても、その都度生き延びて、四戦目で勝つ可能性もあるわけでして…」

「キノッサ!」

「はいッ!!!!」

 きつい口調で呼びつけたマーディンだが、その顔はすぐに苦笑いになって、「変わらんな。おまえは」と穏やかに告げた。

「いいだろう。あと一戦、泣いても笑ってもこれが最後だ。いいな?」

 その言葉にフェルデーサは、「ありがとうございます!」と元気よく礼を言う。そして一旦ヘルメットを脱ぐと、両手で自分の頬をパチン!…と叩く。その合間にすかさず冗談を放り込むキノッサ。

「では四戦目は、勝った方が五億点という事で」

 これを聞いて「ハッハッハッ!」と、笑い声を上げるマーディン。しかしその眼は、次の模擬戦に向けて鋭い光を帯びてゆく。一方のフェルデーサも気持ちを整え直して、操縦桿を握る腕から敢えて力を抜いた。そこに届くキノッサからの通信。

「頑張るッス、フェルデーサ。俺っちが見込んだおまえなら、絶対やれるッス!」




▶#05につづく
 
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