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第12話:天下の駆け引き
#18
しおりを挟むノヴァルナとノア、そしてゲイラとの夕食を兼ねた会談は、それから一時間半ほど続き、ムツルー宙域周辺でダンティス家を取り巻く、モルガミス家やセターク家にウェルズーギ家、さらに皇国暦1589年の世界でノヴァルナが戦った、アッシナ家などに関する話も聞く事が出来た。
もっとも現在はまだ、ダンティス家も対外的に大きな戦いを起こしておらず、小競り合いと、外交のせめぎ合いを繰り返しているに、とどまっているようだ。
そして会談の最後に、ゲイラはノヴァルナに「ひとつ、真意をお尋ねしたいのですが…」と、真顔で切り出す。
「何なりと。私はナクナゴン卿に対しては、嘘偽りは申しません」
「ノヴァルナ様はこの度、“銀河布武”を公式に標榜されたそうですな?」
「はい」
「覇気に富んだお言葉ですが、要らぬ敵を作る、危険なお言葉でもあります…それをご理解された上での、ご発言と考えて宜しいのでしょうな?」
ゲイラが問い質したのは、先日ノヴァルナが公式にぶち上げた、“銀河布武”という、パワーワードについての真意であった。
聞き取りようによっては“銀河を武力で平伏させる”と、まるで全ての星大名に挑戦状を叩きつけたとも思える、過激な言葉であるのは間違いない。
酒の飲めないノヴァルナは、ワイン代わりに用意させたグレープジュースを一口啜ると、「無論です」と応じて続けた。
「私の“銀河布武”とはあくまでも、“銀河皇国を復興させるための武力を、我等ウォーダ家が担う”という意味です。強い印象を与えたのは、その決意を内外に示すためです」
「なるほど…」
「勿論の事、我等に賛同し、協力してくれる星大名は、どこであろうと、幾らでも歓迎致します。しかしながら…」
「しかしながら?」
「自らの星大名家と領国の利益のみを求め、必要以上の野心を抱く者は、この“銀河布武”の意味を曲解し、我等に対する開戦の口実にするはずです」
ゲイラの眼を真っ直ぐ見詰めて、静かに語って来るノヴァルナ。これを聴いたゲイラは「ふーむ…」と声を漏らしながら、難しい表情を浮かべる。眼の前の若き星大名が、危険を承知で賭けに出ようとしている覚悟を、感じ取ったからである。語る言葉の中身は分かるが、下手をすればまた新たに、強大な敵を生み出しかねず、そしてその可能性は高いと言わざるを得ない。
「銀河皇国はもう百年も、戦国の世を続けて来ました。同じ事をあと百年、続けるわけには参りません」
ノヴァルナは、きっぱりと告げた。
「新たな敵を生み出し、それらを倒してまで、戦国の世を終わらせる…それが、ノヴァルナ様のお覚悟なのですか?」
真剣な眼差しのゲイラに尋ねられ、ノヴァルナは一度、ノアと顔を見合わせてから、「仰る通りです」と応じる。
「残念ながら今の時代は非情です。軍事力という力の背景が無ければ、他家との話し合いもできません。しかも相応の戦力を保有していなければ、話し合いにおいても足元を見られるだけ。力無きものが沈黙を強いられる時代は、終わりにしなければならないのです」
「ノヴァルナ様…」
敢えて困難な道を歩まれるか…胸の内でそう呟いたゲイラは、それもまた良し、と思った。
皇都惑星キヨウを勢力下に収め、自分の息のかかったジョシュア・キーラレイ=アスルーガを、星帥皇の座に就けた事で、ノヴァルナはひとまず立ち止まってもいい時を迎えた。足場を固め、日和っている勢力に腰を据えて説得して味方に付け、自らの権力とウォーダの家勢を大きく飛躍させる伸長期、あるいは充電期と呼ぶべきものに入ってもいい時期である。
だがしかし、ノヴァルナ・ダン=ウォーダという若者にとってそれは、停滞であるらしい。ついて来られるものだけを従えて、さらに先に進むつもりなのだ。そしてその性急な歩みは無論、より大きな波乱を生み出すのを、認識した上の覚悟に基づいている。
するとノヴァルナはゲイラの想いに勘付いたかのか、ふと遠い眼をして呟くように言った。
「生前…爺が、私の後見人であった次席家老のセルシュ=ヒ・ラティオが、最期の瞬間に私に言い残したのです。“思いのままに征け”と。だから私は…立ち止まる事は致しません」
「………」
ノヴァルナの幼少の頃からの後見人であった、ナグヤ=ウォーダ家次席家老のセルシュ=ヒ・ラティオは皇国暦1556年、“恒星ムーラルの戦い”でイマーガラ家宰相のセッサーラ=タンゲンと、相討ちとなって六十有余年の生涯を終えた。
ノヴァルナにとって悲しみに満ちたその別れは同時に、自分自身が感じた使命に対し真摯に、そして停滞する事無く邁進する事への、誓いとなったのである。
無言で考える眼をしていたゲイラは、「ノヴァルナ様のお覚悟、承りました」と大きく頷いた。おそらくノヴァルナ自身が想像している以上に、困難が待ち受けているであろうが、最後までこの意志は貫き通されるであろう。
「この上は、ノヴァルナ様の武運長久を祈らせて頂きます」
そう告げて三人の会食は終わりを迎えた………
▶#19につづく
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