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第12話:天下の駆け引き

#11

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「わ…わたくしですか?」

 まさかとは思うが、またいきなり「うっそぴょーん」とか、言い出しかねないのがノヴァルナである。ナルガヒルデは探るような眼で、確認を取った。しかし当のノヴァルナは本気も本気。粋な物言いと笑顔を見せる。

「おう。おまえは俺がまだ、誰にも信用されないナグヤの阿呆あほうだった頃から、俺を信じてついて来てくれたからな。その褒美ってワケだ」

 これを聞いてナルガヒルデは頬を紅潮させた。これもまた彼女にしては、珍しい反応だ。そこで彼女の隣を歩いていたイナルヴァが、興味深そうに尋ねる。

「長年の功に報いるのが、新城の総普請奉行とは、面白い話ですな」

 するとノヴァルナは笑顔の種類を、不敵なものに取り替えて、イナルヴァの問いに答えた。

「ナルガって奴は金銀財宝を褒美にやっても、本心からは喜ばないからな。そんなもんよりも、後世に残るような大仕事を与えた方がいいって事さ」

 そう聞いたイナルヴァは、あらためてナルガヒルデに振り向く。赤髪の女性武将は確かに、どこか嬉しそうであった。この辺りはノヴァルナの、上手い人心掌握術といったところであろう。ただ、オウ・ルミル宙域のコーガ恒星群には、いまだにジョーディー=ロッガを当主とするロッガ家の残存勢力が、一定数の戦力を維持したまま潜んでおり、こちらとも決着をつけておく必要がある。

「ナルガ。そんでもってな―――」

 さらにノヴァルナは、新たな城についての構想を、ナルガヒルデに伝える。ところがこれは、少々突拍子もない話であった。

「一般の観光客を呼べる城にしてくれ」

「は!?」

 思いがけないノヴァルナの指示に、ナルガヒルデだけでなく、ミディルツやイナルヴァも声を漏らす。

「観光客を呼べる城…にございますか?」

 呆気に取られた口調で、問い質して来たのはシルバータだった。

「おう。まぁ、決意の表れ…ってこった」

 意味不明なノヴァルナの返答に、全員が首を傾げる。それを見たノヴァルナは、決意が何に対してかを明かした。

「戦国の世が終わって、銀河が平和になりゃあな、城なんてぇのは、見世みせもんにしかならなくなんだろ。だったらその日のために、せいぜい観光客を楽しませるようにしとこうってワケさ。見物料を頂戴する程度にはな」

 それは冗談のような理由ではある。しかしこういった時のノヴァルナは結構、真剣な気持ちを語っている事が多い。
 
“ノヴァルナ様は本気で、この戦乱の世を終わらせるおつもりなのだ…”

 ノヴァルナがナルガヒルデを知るように、ナルガヒルデもまたノヴァルナという主君を知っている。冗談めかした“観光客を呼べる城”の言葉も、その背後にある本気の決意を、しっかりと感じ取っていた。

 哀しいかな現実的に、この世界から争いをゼロにする事は不可能なのは、誰でも理解している話だ。しかしそれでも、現在発生しているすべての争いの終結と、以後の争いの根絶は不可能であっても、それらを出来る限り減らす事は、可能なはずである。それを自分達の主君は、本気で為そうとしているのだ。
 アデューティス城はそんなノヴァルナの志を、形とするものである。早くからその器量を見抜き、信じて忠義を尽くして来たナルガヒルデにとって、確かにこれは大きな任務であると同時に、大きな褒美と言えるだろう。

「…かしこまりました。このニーワス、必ずや殿下のご期待に添えるだけの城を、建設してご覧に入れましょう」

「おう。いずれ、おまえを補佐する連中も揃える。しっかり頼まぁ」

 気合を込めたナルガヒルデの受諾の言葉に、ノヴァルナは殊更陽気な声で返答した。肩の力は抜いていけ…という励ましなのかもしれない。

 するとそこにミディルツが声を掛けて来た。

「間もなく建設が始まる、ニージョン宇宙城が完成すれば、アデューティス星系との連絡路の確保で、皇都惑星キヨウの防衛も万全となりましょう。ですが、問題はそれまでの間を、どのように対処するかでしょう」

 ミディルツの言っている事は道理である。現在の状況ではノヴァルナも、キヨウ周辺にいつまでも留まっている事は出来ない。時期的にはそろそろ、自分の領地のミノネリラ宙域に戻って、オ・ワーリ宙域と合わせた領国経営を、再開しなければならないからだ。現在は留守居として残して来た、シウテ・サッド=リンをはじめとする家老達が、問題なく統治を代行しているようだが、そうかといって、いつまでも放置していいものではない。

 その一方で、ヤヴァルト宙域周辺から駆逐はしたが、アーワーガ宙域へ撤退したミョルジ家や、先ほど取り上げたロッガ家の明らかな敵対勢力。さらにロッガ家と同盟関係にあったイーセ宙域のキルバルター家や、新星帥皇ジョシュアの上洛に非協力的であった、エテューゼ宙域のアザン・グラン家に、ヤヴァルト宙域と隣接するタンバール宙域に分散した各独立管領といった、旗色を鮮明にしていない勢力など、不安定要素も消え去ってはいないのだ。



▶#12につづく
 
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