308 / 344
第12話:天下の駆け引き
#10
しおりを挟む皇国暦1563年8月10日。二週間のオウ・ルミル宙域巡察から、キヨウへ帰還したノヴァルナは、巡察に使用した第1特務艦隊旗艦『クォルガルード』から、総旗艦『ヒテン』へと移動した。
今回のオウ・ルミル宙域巡察は、自分の領地であるミノネリラ宙域と、皇都惑星キヨウを有するヤヴァルト宙域との、今後の連絡路の接続を考える上で、重要となる情報を収集するのが目的であり、ノヴァルナが陣頭指揮を執っていた事からも、その本気度が窺い知れる。
全長約七百メートルの巨体を虚空に浮かべる、ウォーダ軍総旗艦『ヒテン』。その視界の下方には、青い海と白い雲が幾何学模様を描く、皇都惑星キヨウのなだらかな球面が広がっていた。
艦を覆うエネルギーシールドが真空状態を防いでいる、開放状態の『ヒテン』のシャトルベイでは、宇宙空間に停泊する戦闘輸送艦『クォルガルード』を視界の隅に置き、出迎えのメンバーがシャトルから降りて来たノヴァルナに頭を下げる。
「お帰りなさいませ」
メンバーを代表して声を掛けたのは、仮面の武将ヴァルミス・ナベラ=ウォーダだった。他にナルガヒルデ=ニーワス、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータ、リーンテーツ=イナルヴァ、ミディルツ・ヒュウム=アルケティの姿がある。
「おう。出迎えご苦労」
右手を挙げ、軽い口調で言葉を返すノヴァルナは、背後にラン・マリュウ=フォレスタとジークザルト・トルティア=ガモフを従えていた。勝手知ったる自分の総旗艦であるから、すぐに自分が先頭に立って艦橋へ向かい始めるノヴァルナ。そのやや斜め後ろについたヴァルミスが問い掛ける。
「イチ姫様はお元気でしたか?」
「おお、それな」
オウ・ルミル宙域巡察に出た際、ノヴァルナの第1特務艦隊には、同盟関係にあるオウ・ルミル宙域ノーザ恒星群星大名アーザイル家の艦隊と、ミ・ガーワ宙域星大名トクルガル家の艦隊が随伴していた。ウォーダ軍のキヨウ上洛に同調して、ヤヴァルト宙域まで遠征していた両家の宇宙艦隊は、任を終えてそれぞれの領域への帰途へつき、途中まで同行していたのだ。
そしてその過程でノヴァルナは、アーザイル家のナギ・マーサス=アーザイルの招待を受け、本拠地のオルダニカ城を訪問。ナギの妻となっていた妹のフェアン・イチ=ウォーダとの、再会を果たしていた。
「フェアンのやつ、おめでただってよ」
「ほほう」
フェアンの懐妊の報を聞いて、ヴァルミスも珍しく声のトーンを上げる。その仮面の下にある人物の思いが伝わり、ノヴァルナも自然と穏やかな笑顔になった。
“こういうのも、いいもんだぜ…”
…と、ノヴァルナにしては珍しく、感傷的な気分になる。兄と弟が揃って、妹に子が出来た事を慶ぶ日が来るとは、思ってもみなかったからだ。ただヴァルミスの正体はごく一部の者しか知らず、今ここに居るメンバーの中でも、ミディルツやイナルヴァは知っていない。
そういう事もあってこの場ではヴァルミスは、それ以上フェアンの話題を伸ばす事無く、すぐに話を次へ移した。
「それで如何でした? 新たな拠点の候補はございましたか?」
さらりと話題を変えたヴァルミスだったが、口にした言葉は重要である。新たな拠点とはつまり、オウ・ルミル宙域内に新たな城を有する、植民星系を建設するという事を示唆していた。これは先日、新星帥皇ジョシュアに要求した、超空間ゲートの使用権分与とも関係しており、皇都惑星キヨウを含むヤヴァルト宙域防衛を考えた場合、現在の本拠地であるミノネリラ宙域の惑星バサラナルムからでは、距離があり過ぎるためだ。
「うーん…幾つかは見つかったが、一番いいのはアデューティス星系だな」
問い掛けに答えたノヴァルナは歩きながら、右の手の平を肘の高さで返してNNLを使い、小さなホログラムスクリーンを立ち上げた。そしてそれを上へ軽く放り投げる仕草をすると、ランやミディルツの眼前にも、同様のホログラムスクリーンが配布される。
「アデューティス星系…ビティ・ワン・コー沿いの、新興植民星系ですか」
ホログラムスクリーンに映されたデータを読み取り、ナルガヒルデ=ニーワスが評価を述べる。
「ここはビティ・ワン・コーの暗黒ガス密度が、かなり数値の高い場所となっていますね。ここなら侵攻エリアが限定され、防衛も楽でしょう。距離的にもバサラナルムとキヨウとの、ほぼ中間にあり、利便性は高いと思われます」
「だろ?」
ノヴァルナはナルガヒルデの見識に軽い口調で応じた。ビティ・ワン・コーは、このオウ・ルミル宙域の中央に存在する、超巨大暗黒星雲である。この星雲を構成する暗黒ガスは、濃度の高さによっては宇宙艦の航行を困難にするため、濃度の高い箇所近郊に位置するアデューティス星系に、新たな城を建設するのは防衛の観点からも理に適っている。
「…て事で、ナルガ。アデューティス城の建設をおまえに任せる。ウォーダ家の新しい本拠地だ。これまでにないデカい城を造れ!」
事のついでのように、あっさりと命じるノヴァルナ。だがこれは途方もない大役である。普段は冷静沈着が売り物のナルガヒルデも、流石に顔を緊張させた。
▶#11につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
保健室の秘密...
とんすけ
大衆娯楽
僕のクラスには、保健室に登校している「吉田さん」という女の子がいた。
吉田さんは目が大きくてとても可愛らしく、いつも艶々な髪をなびかせていた。
吉田さんはクラスにあまりなじめておらず、朝のHRが終わると帰りの時間まで保健室で過ごしていた。
僕は吉田さんと話したことはなかったけれど、大人っぽさと綺麗な容姿を持つ吉田さんに密かに惹かれていた。
そんな吉田さんには、ある噂があった。
「授業中に保健室に行けば、性処理をしてくれる子がいる」
それが吉田さんだと、男子の間で噂になっていた。
関白の息子!
アイム
SF
天下一の出世人、豊臣秀吉の子―豊臣秀頼。
それが俺だ。
産まれて直ぐに父上(豊臣秀吉)が母上(茶々)に覆いかぶさり、アンアンしているのを見たショックで、なんと前世の記憶(平成の日本)を取り戻してしまった!
関白の息子である俺は、なんでもかんでもやりたい放題。
絶世の美少女・千姫とのラブラブイチャイチャや、大阪城ハーレム化計画など、全ては思い通り!
でも、忘れてはいけない。
その日は確実に近づいているのだから。
※こちらはR18作品になります。18歳未満の方は「小説家になろう」投稿中の全年齢対応版「だって天下人だもん! ー豊臣秀頼の世界征服ー」をご覧ください。
大分歴史改変が進んでおります。
苦手な方は読まれないことをお勧めします。
特に中国・韓国に思い入れのある方はご遠慮ください。
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる