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第12話:天下の駆け引き

#06

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 そこからひとしきり、P1-0号とフジッガの間で、“サード”の話題が行き交う。何度も頷き、時には頬を緩めるフジッガの様子に、改めて会話機能をはじめとするP1-0号の能力が、一般の汎用アンドロイドとは全くの別物だと知れる。

 茶道具や作法について、二人の話す内容がちんぷんかんぷんだったキノッサは、愛想笑いを浮かべたまま放置状態となっていたが、会話が途切れたところで「恐れ入りますがフジッガ殿、そろそろ本題に…」と切り出す。

「おお、そうでした。これはご無礼」

 一旦苦笑いを浮かべたフジッガは、すぐに口元を引き締めた。

「それで、お話はアイオウリス=ベイカーの、『レミナス海にて』でしたな?…今どこにあるかを、ご存じだとか?」

「可能性は高い…といったところですが」

 そう答えるキノッサだが、『レミナス海にて』に関する情報は全て、ここに来るまでに聴いたP1-0号からの受け売りである。ただこの場でのウォーダ側の代表はキノッサであり、この本題に関しては、キノッサが進めるべき仕事だった。

「では、どこにある可能性が高いと?」

「このヤヴァルト宙域の外れ…タンバール宙域との境界付近に位置する、ブライデン星系ではないかと」

「ブライデン星系…」

 その名を聞いて、フジッガは眉をひそめ、次いで表情を曇らせる。

「メーヘンバイム公の荘園星系…ですな」

 アロンゾ・バラン=メーヘンバイム…銀河皇国の上級貴族の一人だが、現在の皇国貴族院議員筆頭を務める、バルガット・ヅカーザ=セッツァーとは昔から政治的対立関係にあり、ミョルジ家が事実上キヨウを支配下に置いていた頃は、ミョルジ側についていた男であった。
 ミョルジ家がキヨウを撤収して以降、現在まで自領のブライデン星系に逼塞し、ジョシュア・キーラレイ=アスルーガを星帥皇とした、新たな皇国への恭順の意は示していない。上級貴族相手であるから、明白な敵対行為を行っていないという事もあって、ウォーダ家も討伐を保留している状態だ。

「メーヘンバイム公をご存じですか?」

 キノッサが問うと、フジッガは「はい」と応じるが、表情は曇ったままだ。天井を見上げて独り言のように言う。

「なるほど…メーヘンバイム公が『レミナス海にて』を所持していたのなら、公式には所在不明となっていても、おかしくはない…」

「と言いますと?」とキノッサ。

「上級貴族には各々、NNLシステムへの一定直接介入権が与えられています。それを使えば、『レミナス海にて』の公式記録を所在不明にするのも可能でしょう」
 
 P1-0号が説明するところによると、およそ百年前に起きた“オーニン・ノーラ戦役”で、上級貴族のヤーマナ家とホルソミカ家の争いが皇都キヨウにまで戦火が及んだ際、キヨウの中央美術館にいずれかの上級貴族に属する軍の部隊が侵入。収蔵されていた大半の美術品が、奪い去られるという事件が発生したらしい。
 そしてこの時、アイオウリス=ベイカーの対になった二枚の絵画も、いずこかへ運び出されてしまったのである。

 このうち『鼈甲蜂のブローチの女性』の方は、巡り巡って今では皇国中央から締め出され、タージ・マール宙域の星大名となっていた、ヤーマナ家の末裔が所持していたのを、ザーカ・イー星系のソークン=イーマイアが買い取ったもので、こちらはその筋では比較的有名な話であった。

 しかし対の絵画のもう一方である『レミナス海にて』は、奪い去られた直後から今日まで、公式記録で行方不明のままとなっており、戦火に巻かれて焼失したという説が有力となっていたのだ。
 だが実は上級貴族のメーヘンバイム家がこの絵画を入手しており、現在の当主のアロンゾの祖父ベンメロ・ブレグ=メーヘンバイムが、極秘裏に荘園星系のブライデンに隠匿、NNLシステムの干渉権限を悪用して、公式情報を行方不明と改竄したようである。

 ただこれを聞いたフジッガは、少々怪訝な顔になってP1-0号に問い質した。

「ふぅむ、なるほど…。しかしP1-0号殿はどのようにして、今まで誰も知り得なかったその話を、入手したのです?」

 淡々と応じるP1-0号。

「私が実際は、およそ百年前に造られたアンドロイドだという事を、フジッガ様はご存じですか?」

「多少は聞き及んでおります」

「当時の私は、人間同様の感情を保有するための実証実験機として、上級貴族レベルのNNLシステム深々度アクセス権を、特別に与えられていました」

「ほう…」

「無論、実際の上級貴族のような、NNLシステムそのものに干渉する事は不可能でしたが、システムの運用状況に加え、データ修正や変更が行われた場合、その内容を確認する事は出来ました」

 それは奇しくも、P1-0号が“スノン・マーダーの一夜城”作戦でキノッサに協力した際、昆虫型機械生命体との機能融合が発生。この時に、過去の封印された記憶―――感情プログラムが復活した事が関わっていた。アーカイブに残されていた百年前のNNLシステムデータも、同時に復元されたのだ。



▶#07につづく
 
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