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第11話:我、其を求めたり
#25
しおりを挟む意識が朦朧としつつある中、テルーザとの戦いを後悔していたエルヴィスは、ノヴァルナとの戦いに、その代価を求めていた事を告げた。
「星帥皇の座を手に入れた余は、NNLのコアブロックの中で、我が兄テルーザの意識の残滓と遭遇した―――」
テルーザの意識の残滓…それは、NNLの一番深部にある、コアブロックとリンクしながらテルーザが特に強く想い描いていた、記憶の一部の事だ。“ミョルジ家の傀儡でしかない自分への不満”…“今の銀河皇国のありようへの嘆き”…“自己の保身ばかり図っている上級貴族達に対する憤り”…様々な意識が漂う中でも、最も強くテルーザが願っていたのが、友人のノヴァルナとの再会と…BSHOの模擬戦で再び戦う事であったのだ。
「我が兄は卿と、“トランサー”を発動させる事無く、心ゆくまで互いの技を競う事を願っていた…卿がそれほどの武人ならば、きっと余の渇望も満たしてくれるに違いないと考えたのだ…」
そしてエルヴィスは、血を吐いた唇で「ハ…ハハハハ…」と、弱々しく笑い声を漏らす。
「…し、しかし…余は所詮、模造品でしかなかったようじゃ。免許皆伝を授かってもおらぬ見様見真似の技では、卿に勝てるはずも無かった…」
これに対しノヴァルナは「恐れながら…」と言葉を返した。
「わたくしが観るところ、エルヴィス陛下の技量はテルーザ陛下と御同格…違うのは、経験の差だけにございましょう」
ノヴァルナの言葉は幾分は慰めの要素はあるものの、間違いでは無かった。星帥皇となってからもテルーザは日々、BSIパイロットとしての技量の研鑽を続けており、実戦も幾度となく経験していたのだ。
「そうか…それを聞けば、気も休まるというもの…か…感謝する、ウォーダ卿。よく余の命懸けのわがままに…付きおうてくれた」
そう言ったところで、エルヴィスは再び口から吐血した。しかしその表情は満足げに見える。
「うむ…命が尽きる前に…余に付きおうてくれた、礼をしてやらねばな…」
「………」
「ノヴァルナ・ダン=ウォーダ…」
「はっ」
「卿…は、“双極宇宙論”を…知って…おるか?…」
それは初めて聞く言葉であった。ノヴァルナが「いいえ」と返答すると、「余も詳しい事は…分からぬ」とエルヴィスは応じる。
「…余は…余を作り出し…た…傭兵団の目的を…探ろうとした…そ…して、何度か遭遇した言葉が…この…“双極宇宙論”だったのだ」
エルヴィスは残る力を振り絞り、コクピットのコンピューターパネルを操作すると、自分が収集した“双極宇宙論”に関するデータを呼び出し、『センクウ・カイFX』へ転送した。そしてノヴァルナへ言い残す言葉を発する。
「ウォーダ卿…『アクレイド…傭兵団』と、それを…統べる“五賢聖”に気を…付けよ。余は彼等…の…手駒の一つ…に…過ぎなかった。そし…て…彼等は、卿を利用して…この銀河全体に…関わる…何かを…しようと…して…いる………」
「陛下…」
呼び掛けるノヴァルナに、僅かな苦笑いを浮かべるエルヴィス。
「卿に…この…ような…事を…言えた義理では…ない…の…だが……ノヴァルナ…ダン=ウォーダよ……銀河を…頼む………」
最期にエルヴィスは、聞き取れないほどの声で「さらばじゃ…」と、別れの言葉を告げて事切れた………
棺代わりとなった『メイオウSX-1』の機体を見詰め、ノヴァルナは『センクウ・カイFX』のコクピットで、大きく息をついた。その表情には敵を斃した喜びも、自分が生き残った安堵もない。あるのは憐憫だ。腹立たしさもある。このような憐れなバイオノイドを作り出した、『アクレイド傭兵団』に対する腹立たしさである。
「くそったれ…」
ノヴァルナは操縦桿を握り締めて、小さく悪態をつく。そこで初めてコクピット内のあらゆるモニターが、損害情報で赤く埋め尽くされている事に気付いた。とても『センクウ・カイFX』を、動かせる状態ではなくなっている。『メイオウSX-1』の連撃で、ダメージが蓄積していたのだ。紙一重の勝利であった。
「ノヴァルナ…大丈夫?」
通信を入れて来たのは、ノアである。カレンガミノ姉妹を両肩に座らせた『サイウンCN』で、ゆっくりと降下して来る。
「まあな。ただ『センクウ・カイ』は、動けそうもねぇ」
すると第十五惑星付近で傭兵団の宙雷艇部隊を撃退し、待機していたモルタナ船団から連絡が入る。このアルワジ宙域の領主であり、ウォーダ側に寝返る意志を示している、ブラグ・ジルダン=アターグの宇宙艦隊が姿を現したらしい。こちらへ向けて接近中のようだ。
「これでアターグの連中が、“やっぱり寝返りは嘘だぴょーん”とか言って来たりしたら、目も当てられねーな」
これが事実であった場合、『センクウ・カイFX』はもう戦えない。下手な冗談を口にするノヴァルナに、ただ一機、戦闘可能な『サイウンCN』に乗るノアは、あっけらかんと冗談を返した。
「その時は、私が全部やっつけてあげるから、安心しなさい」
▶#26につづく
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