銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第11話:我、其を求めたり

#21

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 “秘剣・一つの大刀”は、生涯無敗の伝説のパイロットで剣豪の、ヴォクスデン=トゥ・カラーバの奥義である。ヴォクスデンの弟子として修業を積み、認められたものだけに免許皆伝が為されるという、クァンタムブレードの技の極意だ。一見すると、その太刀筋はとても遅く見えるのだが、実は無数の斬撃が一点に向けて集中的に放たれ、その残像が集まって動きが遅いような錯覚を与えているのである。

 ノヴァルナが咄嗟に引き離したノアの『サイウンCN』は、一瞬尻餅をついたものの、反転重力子を背中側から放出してバック転。ノヴァルナの後方に降り立つ。その胸部には『メイオウSX-1』の長刀による、複数の亀裂が発生していた。ノヴァルナが引き離さなければ、裂傷はノアが居る腹部のコクピットにまで、及んでいたのは想像に難くない。

「ノア。無事か!?」

「な…なに? 今のは」

 ノヴァルナの問いに、何が起きたか分からないといった表情をするノア。長刀を下方にひと振りして向き直った『メイオウSX-1』の、切れ長のセンサーアイが緑色に光る。

「ほう。“秘剣・一つの大刀”を、知っておったか…」

 ノアへの対応を見て、全周波数帯通信で届くエルヴィスの言葉に、ノヴァルナは奥歯を噛みしめた。相手の機体から感じるこの“気”…、どうやらエルヴィスが、BSIパイロットとして真の力を発揮するのは、あの長刀を手にした時であるらしい。

“ふん。こっからが本当の、果し合いって事か…”

 指先に熱を帯び始めるのを感じたノヴァルナの『センクウ・カイFX』は、クァンタムブレードの柄に右手を置いて腰を落とす。『メイオウSX-1』を真っ直ぐ見据えたまま、斜め背後に庇ったノアへ通信を入れるノヴァルナ。

「ノア。メイアとマイアを回収して下がれ」

「!?」

 ノヴァルナの言葉の意味に気付き、表情を硬くするノア。この先は一対一で決着をつける…夫はそう言っているのだ。

「そ…」

 そんなこと出来ない…と言おうとして、ノアは続く言葉を飲み込んだ。今のエルヴィスの技を全く見切れなかった以上、自分が加わっても、足手まといになるだけだと理解できるからだ。ノヴァルナの指示に従って、両脚を切断されて第三衛星の地表に倒れている、メイアとマイアの『ライカSS』に通信を入れる。

「メイア、マイア。二人とも機体を放棄して脱出し、『サイウン』の手に乗ってください」

 コクピットのハッチが開き、メイアとマイアが中から姿を現すと、ノアは『サイウンCN』で歩み寄り、二人の前で片膝をつく。
 
 エルヴィスの目的もノヴァルナとの決着であるから、ノアがカレンガミノ姉妹を回収するのを邪魔はしなかった。そして『サイウンCN』が右の手の平にメイア、左の手の平にマイアを乗せて立ち上がると、『メイオウSX-1』は正対する『センクウ・カイFX』に向け、長刀をゆっくりと構えてゆく。

 こういった形の果し合いは初めてだな…と思いながら、ノヴァルナも鞘からクァンタムブレードをすらりと抜き放った。呼吸を整えながら正眼に構える。そこへ呼び掛けるノアの声。

「ノヴァルナ」

「おう」と短く応じるノヴァルナ。

「知ってると思うけど…」

 語尾を濁したノアの言いたい事を、ノヴァルナは聞かずとも分かる。それはかつてギィゲルト・ジヴ=イマーガラが大軍を率い、オ・ワーリ宙域へ侵攻してきた時のこと…絶体絶命の状況で決戦を挑むノヴァルナに、ノアも『サイウンCN』で宇宙に上がった。ノヴァルナが討ち死にし、首都惑星ラゴンにイマーガラ軍が迫ったなら、自ら陣頭に立って突撃し、散華するつもりであったのと同じだ。

「知ってるさ―――」

 だがノヴァルナはどこまでもノヴァルナだった。悲壮な決意を示すノアに振り返り、いつもの不敵な笑みではぐらかす。

「おまえが今でも、俺にベタ惚れだって事はな」

 その言い草に僅かに頬を赤らめたノアは、同時に奇妙な安心感を得た。死神の振るう鎌をも、高笑いしながら蹴り返す…今も昔もそれが我が夫なのだ。

「それについては、議論の余地ありだからね!」

 口調こそ強めだが、言外に一緒に生きて帰りましょうとの願いを込めたノアは、反転重力子で『サイウンCN』をふわりと宙に浮かせ、低重力の第三衛星地表から離れて行った。
 それを一瞥で見送ったノヴァルナは、息を一つ深く吸い込んで、正面の『メイオウSX-1』を睨みつける。そこに届く、エルヴィスからの通信。

「奥方との別れの挨拶は済んだであろうか?」

「立ち聞きは、些か礼を失しているのでは?」

「ふ…心配要らぬ。通信装置は切っておった」

 互いにブレードを構え、ジリジリ…と時計に回りでタイミングを計る、ノヴァルナとエルヴィス。ノヴァルナが「そいつはどーも」と応じた瞬間、二機のBSHOは瞬時に前進。刃を打ち合わせ、激しく火花を散らした。返す刀で第二撃。これも刃同士の打ち合いだ。機体を後退させながらノヴァルナは、ここまで温存していた『センクウ・カイFX』の、“高機動戦闘モード”を起動させた。“トランサー”を発動させていないノヴァルナだが、これで短時間ながら、“トランサー”の発動に準じた能力を発揮できる。

まさに勝負はこれからだった。




▶#22につづく
 
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