287 / 386
第11話:我、其を求めたり
#21
しおりを挟む“秘剣・一つの大刀”は、生涯無敗の伝説のパイロットで剣豪の、ヴォクスデン=トゥ・カラーバの奥義である。ヴォクスデンの弟子として修業を積み、認められたものだけに免許皆伝が為されるという、クァンタムブレードの技の極意だ。一見すると、その太刀筋はとても遅く見えるのだが、実は無数の斬撃が一点に向けて集中的に放たれ、その残像が集まって動きが遅いような錯覚を与えているのである。
ノヴァルナが咄嗟に引き離したノアの『サイウンCN』は、一瞬尻餅をついたものの、反転重力子を背中側から放出してバック転。ノヴァルナの後方に降り立つ。その胸部には『メイオウSX-1』の長刀による、複数の亀裂が発生していた。ノヴァルナが引き離さなければ、裂傷はノアが居る腹部のコクピットにまで、及んでいたのは想像に難くない。
「ノア。無事か!?」
「な…なに? 今のは」
ノヴァルナの問いに、何が起きたか分からないといった表情をするノア。長刀を下方にひと振りして向き直った『メイオウSX-1』の、切れ長のセンサーアイが緑色に光る。
「ほう。“秘剣・一つの大刀”を、知っておったか…」
ノアへの対応を見て、全周波数帯通信で届くエルヴィスの言葉に、ノヴァルナは奥歯を噛みしめた。相手の機体から感じるこの“気”…、どうやらエルヴィスが、BSIパイロットとして真の力を発揮するのは、あの長刀を手にした時であるらしい。
“ふん。こっからが本当の、果し合いって事か…”
指先に熱を帯び始めるのを感じたノヴァルナの『センクウ・カイFX』は、クァンタムブレードの柄に右手を置いて腰を落とす。『メイオウSX-1』を真っ直ぐ見据えたまま、斜め背後に庇ったノアへ通信を入れるノヴァルナ。
「ノア。メイアとマイアを回収して下がれ」
「!?」
ノヴァルナの言葉の意味に気付き、表情を硬くするノア。この先は一対一で決着をつける…夫はそう言っているのだ。
「そ…」
そんなこと出来ない…と言おうとして、ノアは続く言葉を飲み込んだ。今のエルヴィスの技を全く見切れなかった以上、自分が加わっても、足手まといになるだけだと理解できるからだ。ノヴァルナの指示に従って、両脚を切断されて第三衛星の地表に倒れている、メイアとマイアの『ライカSS』に通信を入れる。
「メイア、マイア。二人とも機体を放棄して脱出し、『サイウン』の手に乗ってください」
コクピットのハッチが開き、メイアとマイアが中から姿を現すと、ノアは『サイウンCN』で歩み寄り、二人の前で片膝をつく。
エルヴィスの目的もノヴァルナとの決着であるから、ノアがカレンガミノ姉妹を回収するのを邪魔はしなかった。そして『サイウンCN』が右の手の平にメイア、左の手の平にマイアを乗せて立ち上がると、『メイオウSX-1』は正対する『センクウ・カイFX』に向け、長刀をゆっくりと構えてゆく。
こういった形の果し合いは初めてだな…と思いながら、ノヴァルナも鞘からクァンタムブレードをすらりと抜き放った。呼吸を整えながら正眼に構える。そこへ呼び掛けるノアの声。
「ノヴァルナ」
「おう」と短く応じるノヴァルナ。
「知ってると思うけど…」
語尾を濁したノアの言いたい事を、ノヴァルナは聞かずとも分かる。それはかつてギィゲルト・ジヴ=イマーガラが大軍を率い、オ・ワーリ宙域へ侵攻してきた時のこと…絶体絶命の状況で決戦を挑むノヴァルナに、ノアも『サイウンCN』で宇宙に上がった。ノヴァルナが討ち死にし、首都惑星ラゴンにイマーガラ軍が迫ったなら、自ら陣頭に立って突撃し、散華するつもりであったのと同じだ。
「知ってるさ―――」
だがノヴァルナはどこまでもノヴァルナだった。悲壮な決意を示すノアに振り返り、いつもの不敵な笑みではぐらかす。
「おまえが今でも、俺にベタ惚れだって事はな」
その言い草に僅かに頬を赤らめたノアは、同時に奇妙な安心感を得た。死神の振るう鎌をも、高笑いしながら蹴り返す…今も昔もそれが我が夫なのだ。
「それについては、議論の余地ありだからね!」
口調こそ強めだが、言外に一緒に生きて帰りましょうとの願いを込めたノアは、反転重力子で『サイウンCN』をふわりと宙に浮かせ、低重力の第三衛星地表から離れて行った。
それを一瞥で見送ったノヴァルナは、息を一つ深く吸い込んで、正面の『メイオウSX-1』を睨みつける。そこに届く、エルヴィスからの通信。
「奥方との別れの挨拶は済んだであろうか?」
「立ち聞きは、些か礼を失しているのでは?」
「ふ…心配要らぬ。通信装置は切っておった」
互いにブレードを構え、ジリジリ…と時計に回りでタイミングを計る、ノヴァルナとエルヴィス。ノヴァルナが「そいつはどーも」と応じた瞬間、二機のBSHOは瞬時に前進。刃を打ち合わせ、激しく火花を散らした。返す刀で第二撃。これも刃同士の打ち合いだ。機体を後退させながらノヴァルナは、ここまで温存していた『センクウ・カイFX』の、“高機動戦闘モード”を起動させた。“トランサー”を発動させていないノヴァルナだが、これで短時間ながら、“トランサー”の発動に準じた能力を発揮できる。
まさに勝負はこれからだった。
▶#22につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者
潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。

四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
母の城 ~若き日の信長とその母・土田御前をめぐる物語
くまいくまきち
歴史・時代
愛知県名古屋市千種区にある末森城跡。戦国末期、この地に築かれた城には信長の母・土田御前が弟・勘十郎とともに住まいしていた。信長にとってこの末森城は「母の城」であった。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
猿の内政官 ~天下統一のお助けのお助け~
橋本洋一
歴史・時代
この世が乱れ、国同士が戦う、戦国乱世。
記憶を失くした優しいだけの少年、雲之介(くものすけ)と元今川家の陪々臣(ばいばいしん)で浪人の木下藤吉郎が出会い、二人は尾張の大うつけ、織田信長の元へと足を運ぶ。織田家に仕官した雲之介はやがて内政の才を発揮し、二人の主君にとって無くてはならぬ存在へとなる。
これは、優しさを武器に二人の主君を天下人へと導いた少年の物語
※架空戦記です。史実で死ぬはずの人物が生存したり、歴史が早く進む可能性があります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる