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第11話:我、其を求めたり

#20

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 ノアやノヴァルナより先に動いたのは当然、マイアの一番近くにいた姉のメイアである。

「マイア。早く離脱を!」

 メイアはマイアに撤退を促して、ポジトロンパイクを右手一本に持ち替え、さらにクァンタムブレードを左の逆手さかてに握ると、単機で『メイオウSX-1』に仕掛けた。マイアが離脱する時間を稼ぐためだ。
 するとその直後、メイアのヘルメット内に響く近接被弾警報音。だが奇妙だ。眼の前にいる『メイオウSX-1』は、腰を落として長刀を掲げたまま、動いていないのだ。ところが一瞬後、大きな衝撃がメイアの『ライカSS』を飲み込む。

「く! 何が!!??」

 その直後、メイアが座るコクピットを包んだ、全周囲モニターの左半分が真っ暗となって、画像表示結晶体が粉々に砕け散った。いつの間にか受けていた『メイオウSX-1』の長刀による斬撃が、コクピットの寸前まで『ライカSS』の機体を切り裂いたのである。
 『メイオウSX-1』が右手に持つ長刀を下段に下げ、ゆらり…と背筋を伸ばすと、操縦桿を握るエルヴィスは、ぼそりと呟く。

「ふん。浅かった…か」

 全周囲モニターの左半分が見えないとなると、覚醒したエルヴィスに対してメイアだけでは戦いようがない。だが妹のマイアが離脱する時間は稼げた。右腕を失ったマイアの『ライカSS』は、左腕一本でクァンタムブレードを鞘から抜き、メイアの死角をカバーする位置をとる。だが大きなダメージを受けた親衛隊仕様機が二機では、今のエルヴィスに敵うはずもない。そこへ駆けつけて来る、ノアの『サイウンCN』。

「メイア、マイア! 下がりなさい、ここは私が!!」

 マーメイド小隊の呼出符牒も使わずに呼び掛け、超電磁ライフルを放つノア。その銃撃を最小限の機動で、スルスルと難無く回避する『メイオウSX-1』。だがこのノアの行動に対する、メイアとマイアの反応は困惑でしかない。ノア姫を守るために命を投げ打つのが、この二人の使命であり揺るがぬ想いだからだ。

「お、おやめください、ノア姫様!!」

 メイアとマイアは表情を強張らせて、ノアに翻意を促す。命を賭して守るべき自分達の主君が、自分達を守るため命を懸けるなど、本末転倒の極みだった。その通信を傍受したエルヴィスが、僅かながら興味を持った様子で言う。

「ノア姫?…ほほう、ノヴァルナ殿の奥方か」

 エルヴィスの言葉の響きに不吉なものを感じたメイアとマイアは、強引であるのを承知で二機揃って加速。ノアを守るため自分達から先に仕掛けようとした。
 
「無粋な真似は、よしにせい…」

 前を向いたまま感情の無い言葉で、さりげなく長刀を後方へ一閃させるエルヴィスの『メイオウSX-1』。振り抜いた長刀の斬撃は、今まさに背後から斬りかかろうとしていた、メイアとマイアの機体の大腿部を断裂させた。両脚を失い第三衛星の地表に転がる姉妹の機体を背後に、エルヴィス自身もノアの『サイウンCN』に向けて、『メイオウSX-1』の足を前へゆっくりと踏み出す。

「奥方の才能はノヴァルナ殿と互角以上と聞く。試させてもらうとしよう」

 その時にはノアの『サイウンCN』はすでに、『メイオウSX-1』をポジトロンパイクの間合いに捉えようとしていた。格闘距離まで五秒も無い。

“まともに突っ込むのは危険…だけど今のメイアとマイアへの斬撃で、向こうの剣の速度は把握したわ!”

 瞬時に戦法を構築したノアは、『サイウンCN』の左手で腰のクァンタムブレードを鞘から抜いて、右腕でポジトロンパイクを『メイオウSX-1』へ投擲した。

“見え見えの牽制でいい! 欲しいのは侮りから来る、コンマ数秒の油断!”

 歯を喰いしばるノア。投げ放ったパイクを、『メイオウSX-1』は難無く長刀で弾き飛ばす。ノアが狙ったのは、その無意味そうに剣を振るった一瞬だ。ここから返す刀で放つはずの、エルヴィスの長刀の速度は把握している。ならばそれより速く、クァンタムブレードの斬撃を浴びせるのだ。自分の後ろにはノヴァルナがいるから、勝負を決めてくれるはずだ。

 するとノアの予想通り『メイオウSX-1』は、ノアが投擲したポジトロンパイクを、煩わしげに振るった長刀で弾き飛ばす。そして返す刀で放とうとする、長刀の第二撃。口許を歪めて僅かに笑みを零すエルヴィス。ノアの狙い通りだ。コンマ数秒単位でのカウンターが勝負の分かれ目となる。

「ここ!!」

 互いに相手より速い斬撃が必要となるこの場面。ところがノアは、『メイオウSX-1』が繰り出した斬撃が、“圧倒的に遅い”のを見た。

“太刀筋がはっきりと!…これなら”

 しかしノアがそう思った直後、追いついて来たノヴァルナの『センクウ・カイFX』が、右手でポジトロンパイクを突き出して、左手で『サイウンCN』のバックパックを掴み、力任せに引き戻す。

「よせ、ノア!!」

 そして次の瞬間、ノヴァルナが突き出したポジトロンパイクの柄は、八か所で切断され、第三衛星の低重力の中で、クルリクルリと宙を舞った。これが何を示すのか、ノヴァルナは知っている。

「く!…秘剣、“一つの太刀”かよ!」




▶#21につづく
 
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