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第11話:我、其を求めたり

#19

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 ポジトロンパイクの刃は砕けたが、『センクウ・カイFX』が撃った銃弾も角度が変わり、『メイオウSX-1』の機体に損傷はない。
 すかさず次弾を放つノヴァルナだが、すでにその位置に『メイオウSX-1』の姿は無かった。エルヴィスは瞬時に機体を降下させ、回避行動を取ろうとする。ただ虚を突いて追い込んだ事は確かだ。下方には第十六惑星の第三衛星―――『アクレイド傭兵団』のBSD基地があり、『メイオウSX-1』の回避範囲を狭めている。

「俺が仕掛ける!」

 強い口調で告げたノヴァルナが、『メイオウSX-1』の頭上から逆落としに襲撃行動を開始した。超電磁ライフルで牽制射撃を行い、ポジトロンパイクの斬撃を放つつもりだ。ノアが間髪入れずそれに呼応し、メイアとマイアに指示を出す。

「ゼロツ―は右方向。ゼロスリーは左方向から支援。急いで!」

「イエス、マム!」

 そしてノア自身は『サイウンCN』を、ノヴァルナの『センクウ・カイFX』の背後に付けた。『メイオウSX-1』のポジトロンパイクを破壊した今、ここで一気に畳み掛けるのが上策だ。左右斜め上空から、ライフルを放つカレンガミノ姉妹の『ライカSS』。さらに真上からも『センクウ・カイFX』の銃弾。NNLを支配する“トランサー”を発動させているエルヴィスは、これらの射撃の照準も把握している。だが把握はしていても、逃げ場が無くては対応のしようがない。

 すると遂にノヴァルナの放った銃弾の一発が、ほとんど直進しかできない『メイオウSX-1』の、バックパックに命中したかに見えた。しかしその銃弾は角度を変えて、BSD基地の本体をカバーする小惑星外殻部に命中。大きな土煙を上げただけに留まる。蜘蛛の脚のような八本のAESを折り畳み、ビームを放出する事によって、傘状のバリアを形成していたのだ。

 ただ『メイオウSX-1』が機体に、初めて命中弾を喰らった事は事実であり、エルヴィスに「おのれ、当ておったな!」と、怒りの感情を抱かせる。そしてこういった場合の怒りの感情は、大小の個人差はあるものの、概して誤った判断を生じるものだ。操縦桿を前方へ倒したエルヴィスは、機体前面に反転重力子の力場を発生させて急停止。鋭角的な方向転換を行って、上空から迫るノヴァルナの『センクウ・カイFX』へライフルを向ける。

 だがこの急停止はノヴァルナ達にとって、むしろ好都合であった。「ノア!」と合図の言葉を発したノヴァルナが、機体をスクロールさせる。渦を巻いた『センクウ・カイFX』はエルヴィスの銃弾を回避。そして『メイオウSX-1』との間に出来た直線空間で、『センクウ・カイFX』の背後から、ノアの『サイウンCN』が狙撃モードでライフルを放った。
 
「ぬあっ!!」

 反射的に機体を翻したエルヴィスだが、ノアの狙撃は紙一重で躱したものの、機体のバランスを大きく崩して、ノヴァルナに背中を見せてしまう。ノヴァルナがそのような隙を見逃すはずはない。瞬息の間合いで突き出した、ポジトロンパイクの刃先が、『メイオウSX-1』のバックパックを貫いた。しかしダメージを与えられたのは、対消滅反応炉ではなくAESの基部だ。

「チィ!」

 『メイオウSX-1』のコクピットに誘爆警報が鳴り、エルヴィスは舌打ちと共に、即座にパージレバーを引いてAESブロックを分離、急加速で離脱する。その直後、AESブロックは爆発を起こした。
 『メイオウSX-1』はそのままBSD基地の外殻である、第三衛星の地表へ降り立つ。AESを失って完全に脚を止めた今を好機と、すでにエルヴィスの動きを追っていたメイアとマイアも地表に降り、ポジトロンパイクを構えてホバリングで左右から挟撃を仕掛ける。持ち前の連携攻撃のチャンスだ。間合いが詰まり、立ち上った砂煙の中、姉妹が放つポジトロンパイクの刃が煌めく。

 ところが次の瞬間、パイクの刃のものとは違う煌めきが刹那、8の字に輝いた。刃同士が合する火花の束が二つ弾け飛ぶ。斬撃を跳ね返されたメイアとマイアは、自分の機体を後退させた。砂煙が晴れて中から姿を現したのは、腰を落とし、長刀を両手持ちで構えた『メイオウSX-1』だ。一枚絵のように動かない。

「…!!」

 その姿から発散される“気”を感じ取り、ノヴァルナは相手の危険度が、大幅に増した事を見抜いた。ひりつく感覚に、僅かに舌を出して上唇を舐める。

“こいつはヤバい…”

 『メイオウSX-1』が握る長刀―――クァンタムブレードは、『センクウ・カイFX』や『サイウンCN』が装備しているものより、1.3倍ほど長い。そうなると必然的に取り回しも難しくなる。つまり上級者向けだ。
 そしてノヴァルナは今の『メイオウSX-1』が放つ“気”と、同じものを知っている。かつての模擬戦で一瞬だけ垣間見た、『ライオウXX』に乗るテルーザ・シスラウェラ=アスルーガの“本気”である。

 するとさらに驚くべき事が起こった。後退してエルヴィスとの距離を置いたメイアとマイアだったが、マイアの『ライカSS』の右肩が突如、真っ赤なプラズマを噴き出して、腕を落下させた。今の一瞬で『メイオウSX-1』に、右腕を切断されていたのだ。

「マイア!」

 叫んだノアが、『サイウンCN』を前進させる。それを見てノヴァルナも「やめろ、ノア!」と『センクウ・カイFX』を加速した。




▶#20につづく
 
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