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第11話:我、其を求めたり
#18
しおりを挟むそしてそのノヴァルナは、“トランサー”を発動したエルヴィスに苦戦を続けていた。
ポジトロンパイクを左手に掴み、右手の超電磁ライフルを連射する『センクウ・カイFX』。無論、命中しないのを知った上での射撃だ。その射撃を難なく回避するエルヴィスの『メイオウSX-1』は、さらにノアの『サイウンCN』と、カレンガミノ姉妹の二機の『ライカSS』からの、射撃も合わせて回避。まるで銃弾のコースが、予め見えているかのような動きだ。いや実際、“トランサー”を発動した状態では、NNLを通じてノヴァルナ達の機体の照準が、完全ではないものの、エルヴィスには感覚的に伝わっているのである。完全ではないというのは、ノヴァルナ達がNNLを、仲間内のローカルネットワークにしているからだ。
「素晴らしい! 素晴らしいぞ! 余にはこの戦場のあらゆるものが、手に取るようじゃ!!」
嬉々として叫び、反撃の超電磁ライフルを四方向に、素早く撃つエルヴィス。その銃弾はどれも、目標の未来位置予測が正確で、ノヴァルナ達の機体は全て緊急回避を行う。
高速機動戦闘を繰り返し、戦場はアヴァージ星系第十六惑星第三衛星…つまり、傭兵団のBSD基地付近まで戻って来ていた。これがまた、エルヴィスの『メイオウSX-1』のトランサー機能を、高めているのだ。
「ハハハハハ! 素晴らしい。全てが見える! 見えておるぞ!」
大きく笑いながらエルヴィスは、『メイオウSX-1』の超電磁ライフルを四方に向けて数発ずつ、立て続けに撃つ。それはまるでライフルを持った腕が、四本存在しているかのような素早さだ。ノヴァルナとノアとカレンガミノ姉妹の四機は、その的確な照準に、紙一重でギリギリに回避する。
よく正確な照準は上級技量者にとっては、かえって予測がつき易いと言うが、エルヴィスの射撃は、その回避先を含む二手先、三手先までを読んでの射撃であるから、大きな脅威であった。
「ノヴァルナ!」
「無理に反撃しようとすんな。逃げる時は逃げに徹しろ!」
次々に飛来する銃弾に、『センクウ・カイFX』と『サイウンCN』は激しく翻弄され、ノヴァルナとノアは攻撃の機会を見い出せない。それは以心伝心のカレンガミノ双子姉妹であっても同じであった。得意の連携攻撃を仕掛けたいと思うのだが、分断された状況を回復できない。高速機動を繰り返しながら、どうにか連携のタイミングを作ろうとするものの、『ライカSS』を向けた先々に、エルヴィスからの銃撃が行われる。
「く…私達の連携を!」
「阻むなんて!」
機体を旋回させながら言葉を繋ぐメイアとマイア。そこへ今度は、エルヴィスの方から仕掛けて来た。一気に最大加速。まずメイアの『ライカSS』へ、ポジトロンパイクで斬りかかる。突然瞬間移動して来たような間合いの詰めから、横一閃の斬撃だ。さしものメイアも、エルヴィスのあまりの素早さに、機体を引くのが精一杯であり、『ライカSS』が手にしていた超電磁ライフルの銃身を、真っ二つに切り離される。ただ機体そのものにダメージを受けなかったのは、メイアの卓越した反射神経のおかげであろう。
しかしエルヴィスの攻撃は終わっていない。メイアが機体を引いたところに、身を翻した『メイオウSX-1』が、返す刀で斬撃を放って来た。その速度は最初の斬撃以上だ。
「!!!!」
近接戦闘用のパイクやブレードを構える余裕も与えられず、メイアの『ライカSS』は、銃身を切り落とされた超電磁ライフルで、エルヴィスの繰り出す斬撃を防ぐしかない。一回、二回とライフルが輪切りにされ、遂にはトリガーに掛けた人差し指の直前までしか無くなった。そこからさらに斬撃を浴びせようとする、『メイオウSX-1』。
「メイア!!」
窮地に陥ったメイアに、ノアとマイアが援護のため駆け付ける。
両側背後から超高速で『メイオウSX-1』に迫る、ノアの『サイウンCN』とマイアの『ライカSS』。これに対し『メイオウSX-1』は、バックパックから生やした蜘蛛の脚のような、AES(アサルト・エクステンデット・システム)を四本ずつ向けて、ビームを放った。
しかしノアもマイアも、機体を加速させたまま大きなスクロールで、全てのビームを回避。ポジトロンパイクで『メイオウSX-1』へ斬りかかろうとする。だがこの空間のNNLを支配するエルヴィスは動じない。
「ふん。猪口才な!」
半ばせせら笑うように言い、前方のメイアの『ライカSS』の胸部を強く蹴りつけて、瞬時に間合いをずらしたエルヴィスは、同時に『メイオウSX-1』の機体を回転させマイアの『ライカSS』、ノアの『サイウンCN』の順にポジトロンパイクの斬撃を素早く浴びせる。
「くあっ!」
機先を制されて、思わず叫び声を上げたノアは、咄嗟にポジトロンパイクで打ち防ごうとした。だが、“トランサー”を発動させている『メイオウSX-1』の斬撃は、圧倒的に速度を増していて、間に合わない。『サイウンCN』の左のショルダーアーマーが切り裂かれて、二の腕にも裂傷を受ける。
そしてもう一方のマイアの『ライカSS』も、『メイオウSX-1』の斬撃を防ぎきれず、胸部装甲板に斜めの裂傷を受けた。それでもノアもマイアも、機体への致命傷を回避したのは、さすがと言える。
そして『メイオウSX-1』への攻め手は、まだ終わっていない。
『メイオウSX-1』の前面にいたメイアの『ライカSS』が、蹴られた反動で機体を上下回転させたその背後から、ノヴァルナの『センクウ・カイFX』が飛び出して来た。猛然と突進すると左手に握ったポジトロンパイクを、掬い上げるように振るう。
「むぅ!!」
これにはエルヴィスも不意を突かれたのか、余裕ぶっていた口元を引き締めて、機体を瞬時に下がらせ、バックパックの八本のAESから、ビームを集中発射させた。しかしノヴァルナは怯まない。陽電子を帯びたパイクの刃で、AESの放ったビームを受け止め、機体を右へ半回転。そこには背中側へ回した右手に握る、超電磁ライフルがあった。エルヴィスの死角に潜めていたのだ。
「こいつはどうだ!!」
反射的にエルヴィスは、ノヴァルナがしたようにパイクの刃を盾代わりにする。ところがAESのビームと違い、超電磁ライフルが発射するのは、亜光速の実体弾であった。それを至近距離で受けて、『メイオウSX-1』のポジトロンパイクの刃は粉々に砕ける。
▶#19につづく
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