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第11話:我、其を求めたり
#17
しおりを挟む『ラブリードーター』一隻に対し、十九本もの宇宙魚雷が放たれたとなれば、それが牽制だったとしても、全力で迎撃しなければならない。数はそう多くないが、迎撃誘導弾を発射し、連射の利く主砲が砲口を向け、直掩のASGULが攻撃態勢をとる。『ラブリードーター』が目的地としている第十五惑星のガスの海は、目前まで接近していた。宙雷艇指揮官が命じる。
「よし。この隙に一気に距離を詰め、魚雷の射点を確保せよ!」
『ラブリードーター』の火器と直掩機が全て、十九本の宇宙魚雷への迎撃に向いた隙を突き、宙雷艇隊は一直線に距離を詰めて来た。さらにもう一人の指揮官も、命令を発する。
「射点到達と同時に、全宙雷艇は散開。飽和雷撃で仕留めろ!」
宙雷艇の魚雷発射管は一隻あたり二本。飽和雷撃で全艇が一斉発射すれば、三十八本の宇宙魚雷が『ラブリードーター』を襲う事になる。それだけの数となれば、宇宙戦艦でも助からないだろう。
だが万事休すかち思われたその時、『ラブリードーター』前方の第十五惑星を覆う琥珀色の雲海から、六本の宇宙魚雷が飛び出した。サイズと形状から見て、傭兵団の宇宙魚雷などではない。
その六本の宇宙魚雷は『ラブリードーター』の両脇をすり抜け、今まさに自分達も宇宙魚雷を発射しようとしていた、傭兵団の宙雷艇へ突進した。
「ぜっ! 前方から魚雷!!!!」
蒼白になって声を上げる指揮宙雷艇の航宙士。咄嗟の回避行動に入るが、双方が最高速度を出していて合算速度が途方もなく、到底間に合わない。上昇し掛けたところの底部に魚雷が直撃し大爆発を起こす。
するとその後方に続く別の宙雷艇にも、左舷方向へ舵を切ったところへ、魚雷が命中。まばゆい閃光に包まれて砕け散る。元来は大型艦を撃破するための宇宙魚雷であるから、それを宙雷艇に放つなど、コストパフォーマンスで言えば、輸送艦を狙うどころの話ではない。残りの宙雷艇は突然の雷撃に慌てふためき、『ラブリードーター』への射点云々など、考えている場合ではなくなった。個々の宙雷艇が独自の針路で、バラバラに回避行動をとり始める。
「まさか! 潜宙艦か!?」
生き残った方の宙雷艇指揮官が、狼狽した声で言う。その言葉の通り、第十五惑星の雲海の中に、ウォーダ軍の潜宙艦『セルタルス3』が潜んでいたのだ。『セルタルス3』は指揮官の驚愕を嘲笑うかのように、さらに六本の宇宙魚雷を発射した。
「迎撃だ! いや逃げろ! ブラストキャノンで迎撃しながら回避!」
宇宙魚雷を使いこそすれ、自分に撃たれた事はないであろう指揮官の、混乱した命令が飛ぶ。
不規則なコース変更を繰り返して逃げる宙雷艇だが、自律思考機能を持つ宇宙魚雷は執拗だ。宙雷艇が二基装備している小口径三連装ブラストキャノンが、激しくビームを放つが、その悉くを回避して追い縋る。
「もっと小回りを利かせろ! 追いつかれるぞ!」
宇宙魚雷に狙われた一隻の宙雷艇で、艇長が必死の形相で叫ぶ。それに応じる操舵担当の航宙士も必死だ。
「精一杯やってるって!」
第三階層の傭兵では、追い詰められれば上下関係などに構ってはいられない。左舷側の重力子放射を一瞬、最大限まで厚くしてブレーキ効果を発生させ、自動車のドリフト走行のような旋回を見せる。その横を通過する宇宙魚雷。
「今だ!」
するとこの機を逃すまいと、砲術士がブラストキャノンを操作して、通過途中の宇宙魚雷に向けてビームを浴びせた。たとえここでやり過ごしても、宇宙魚雷は旋回して戻って来るからだ。連射されたビームが宇宙魚雷の横腹を捉え、線状に穴を開ける。
ところが相手は自律思考兵器だった。宙雷艇の真横を至近距離で航過したのは、別の理由があった。一番距離が縮まった位置で、魚雷は自爆したのだ。そしてその弾頭部分から、複数の小型弾子が飛び出す。そしてそれらは宙雷艇の外殻に接触すると、白熱化して爆発。宙雷艇を巻き込んだ。潜宙艦『セルタルス3』の艦長は、小回りの利く宙雷艇相手の戦いに、魚雷の弾頭を小型弾を詰めた、クラスター弾頭に交換していたのである。似たような光景があちこちで広がり、宙雷艇は半数以下の八隻までにまで減った。
そこで潜宙艦『セルタルス3』は支援攻撃を終えて、退避行動に入る。『セルタルス3』こそが主君ノヴァルナを、故郷まで連れ帰る母艦であったからだ。ここから皇都キヨウへ向かう間に、万が一の事が起きた場合のために、魚雷を撃ち尽くすわけにはいかない。
しかし宙雷艇が本命の魚雷を撃てずに、八隻にまで減った事で形勢は逆転した。牽制の宇宙魚雷を、全て排除する事に成功した『ラブリードーター』と、直掩隊のASGULが反撃に移る。中でも効果的であったのは、ジークザルトが第十五惑星へ先行させた、五機のASGULだった。
こちらの五機は、傭兵団の宙雷艇が事態の立て直しを図ろうとしたところで、第十五惑星の雲海の中から出現。後方から回り込んで、『ラブリードーター』を直掩していた五機と、宙雷艇の残存部隊を挟撃したのである。結果としてはじめは十九隻あった宙雷艇はほぼ全滅。三隻だけが生き残って全速で逃走して行った。
「ふぅ。どうやら助かったようだね」
一目散に逃げていく三隻の宙雷艇の後姿を映像で眺めながら、モルタナは安堵の息を吐き出した。すると隣に立っていたジークザルトも淡々と言う。
「ええ。上手くいって良かったです」
そんなジークザルトに、称賛の声をかけるモルタナ。
「あんた。若いのに、やるじゃないのさ」
これに対してジークザルトは「いえ。これもみなクーギス様をはじめ、皆さんのご協力のおかげです」とそつの無い返事をした。それを聞いてモルタナは「ははははっ…」と笑い声を上げ、興味深げな眼を向ける。
“なるほど…ノヴァルナのヤツが、鳴り物入りで連れて来たって話は、嘘じゃないみたいだね”
ジークザルト・トルティア=ガモフは十四歳だと聞く。それは八年前、ノヴァルナと初めて出逢った時に連れていた、当時のトゥ・キーツ=キノッサと同じ歳だった。そのキノッサはノヴァルナ付きの事務補佐官となり、今では若くして城持ち武将にまで出世した。そしてノヴァルナによると、このジークザルトは才覚的には、キノッサ以上だという。モルタナは今の戦いで、その片鱗を見た気がした。
しかし敵の宙雷艇部隊を撃退したからと言って、安心するのはまだ早い。結局のところ、エルヴィスと戦っているノヴァルナが勝利しなけれな、全ては水泡に帰すのだ。
▶#18につづく
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