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第11話:我、其を求めたり
#15
しおりを挟むノアとカレンガミノ姉妹が、ノヴァルナとの合流を果たし、“トランサー”を発動したエルヴィスの『メイオウSX-1』と、交戦しようとしている一方、モルタナ=クーギスの偽装船団にも、『アクレイド傭兵団』の十九隻の宙雷艇が迫っていた。
偽装船団は旧ロッガ家の輸送艦を改造した、『ラブリードーター』と『プリティドーター』に、民間用貨物船が四隻。この四隻は武装しておらず、『ラブリードーター』と『プリティドーター』が駆逐艦クラスの主砲を幾つかと、CIWS(近接迎撃火器システム)の軽度なものを、装備している程度である。
あとは『プリティドーター』が搭載していた、ウォーダ軍の簡易型BSIユニットのASGUL『ルーン・ゴート』が十機。これが防衛戦力の全て、圧倒的不利なのは否定できない。そして傭兵側からすれば、このような所にノヴァルナが現れた事によって、もはや使い捨て状態のエルヴィスの生死より、こちらの船団を壊滅させて、ノヴァルナをキヨウに帰られなくする方が、上策の面も出て来ていた。
傭兵団の宙雷艇隊は十隻編成と九隻編成の二個。二列縦隊でモルタナ船団の前方へ、高速で回り込もうとしている。
対する船団は十機の『ルーン・ゴート』を周囲へ張り付けて、アヴァージ星系の第十五惑星へ向かっていた。第十五惑星はエルヴィスがいた基地のある、第十六惑星と同じくガス惑星だが、青いガスの第十六惑星とは違い、こちらは全体が琥珀色で、その中にオレンジ色の斑紋が点在している。そこへ向かっているのは、惑星を包むガスの海を戦闘に利用するためだ。
この雲海を利用する事をモルタナに提案したのが、今度の旅にノヴァルナの事務補佐官としてついて来ていた、ジークザルト・トルティア=ガモフである。以前はオウ・ルミル宙域星大名のロッガ家に従う、ヒーノス星系の独立管領だったガモフ家だが、星帥皇ジョシュアの上洛戦の際にノヴァルナの味方となった。そしてまだ十四歳ながら、ジークザルトの才覚に大きな可能性を感じたノヴァルナが、出世したトゥ・キーツ=キノッサの後釜に、事務補佐官として迎えたのである。
船団旗艦『ラブリードーター』の艦橋で、モルタナの隣に立つジークザルトは、穏やかな口調で進言した。
「クーギス様。この船だけでも速度を上げ、第十五惑星へ急ぎましょう」
「どういう事さ?」
確かに改造を施して高速化を図った『ラブリードーター』であれば、今以上の速度を出すのは容易い。しかしそれをすると、『プリティドーター』や一般の貨物船は、ついて来られなくなる。敵の宙雷艇の餌食になる可能性も高くなる。
不納得そうに眉をひそめるモルタナに、ジークザルトは冷静に応じる。温厚そうな少年のジークザルトだが、倍以上歳の離れた鉄火肌のモルタナにも、気圧される事は無く平然としたものだ。
「他の船を見捨てて逃げるように、思われておられるのでしょう? でもご心配なく。むしろその逆に、敵をこの艦に引き付ける事ができます」
「逆?」
「はい。彼等の心理を突くのです」
数分後、船団から『ラブリードーター』だけが、直掩のASGUL隊と共に加速率を上げて突出し始めた。それは傭兵団の宙雷艇部隊から見ると、『ラブリードーター』だけが仲間を見捨てて、逃走を図っているようだ。宙雷艇に乗る傭兵達が、思った事を口にする。
「なんだァ、あの船。自分一人で逃げるつもりか?」
「仲間を置いて逃げるってのか?」
「ヘッ! とんだ腰抜け野郎だぜ!」
そう言っている間にも『ラブリードーター』は、ぐんぐん速度を上げて離れて行く。改造によって、二隻分の推進システムを搭載しているため、巡航艦並みの速さだ。船団の前へ回り込もうとしている宙雷艇隊だが、振り切られる可能性まで出て来た。その一方で、残された『プリティードーター』と四隻の貨物船は、星系最外縁部に向けて針路を変更してゆく。
するとこれを見た二つの宙雷艇隊の指揮官は、交信を行いながら『ラブリードーター』だけの離脱の理由を考え始めた。
「あの加速した一隻…たぶん旗艦だろうが、ノヴァルナを待つつもりか」
「ああ、そうに違いない。五隻を囮にして、その間に第十五惑星の雲海へ、潜り込むつもりだろう」
「やはりそう思うか?」
「奴等は俺達と違って、主君のためが全てだからな。五隻分の人間を餌にする事なんて、当たり前の事だ」
カネ目当てで動く傭兵の彼等からすれば、武家連中は主君のために、命をも投げうつ奇異な存在であった。ただ『アクレイド傭兵団』の第三階層であっても、隊の指揮官クラスであれば、星大名家に仕えていた経験がある者が大半で、そういった考え方も、ある程度は理解している。
そしてこの“理解できる”点が、ジークザルトの意図したところだ。二つの隊の指揮官は、逃走を始めた五隻は放置しても、直掩機まで付けている『ラブリードーター』に、攻撃を集中すべきだと考えた。対BSIユニットでは分が悪いASGULだが、宙雷艇にとっては手強い相手であり、戦力を分散すべきではない。
「全艇であの一隻を、追うべきだな」
「そうだ。母艦を破壊すれば、ノヴァルナは逃げられないからな」
二人の指揮官は、ジークザルトの思惑通りの結論に達した。
▶#16につづく
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