銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第11話:我、其を求めたり

#13

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「もはや容赦はせぬぞ、ノヴァルナ・ダン=ウォーダ!!」

 怒気を孕んだ声を向けて来るエルヴィス。その気迫がオーラのように『メイオウSX-1』から放たれるのを、ノヴァルナもコクピットの全周囲モニター越しに感じ取る。反応が極端なようにも思えるエルヴィスだが、この辺りが報告にあった、精神的な平衡を欠いている部分なのだろう。

“チッ…虎の尾を踏んじまったか。だが俺もこれを、超えなきゃなんねぇからな”

 エルヴィスと決着をつけるのであれば、相手が“トランサー”を発動した状況でも、勝たなければならない。つまりここからが本番で、待ち受けている困難のレベルは、桁違いという事だ。そしてこういった局面にこそ、不敵な笑みを一層大きくするのが、ノヴァルナという人間であった。倍速をかけたかのように加速し、超電磁ライフルを撃って来る『メイオウSX-1』。咄嗟に操縦桿を引くノヴァルナ。回避は出来たが、銃弾が機体の右大腿部を掠め、外側の外殻装甲に亀裂が入る。しかもロックオン警報はなっていない。“トランサー”のNNLネットワーク制御能力を応用したのだ。

「面倒なこった!」

 銃撃に対する回避機動からの流れで、ノヴァルナはポジトロンパイクを真横に一閃する。ただその一閃は、何もない空間を薙ぎ払おうとしているように見えた。ところがその直後、まるで瞬間移動して来たかのように、突然姿を現した『メイオウSX-1』が振るったクァンタムブレードと、刃同士が打ちあう。エルヴィスの動きが読めていなければ、まともに喰らっていたであろう、急加速からの斬撃だ。

さかしい奴め!!」

 そう言い放ち、さらなる斬撃を次々と繰り出すエルヴィス。これまでとは比較にならない速さに、ノヴァルナは防戦一方にならざるを得ない。深手には至らないものの、機体の外部装甲に幾つもの裂傷が生じる。ノヴァルナからすれば少し距離を取りたいが、間合いが変わるのは今はかえって危険にも思う。

“どうする。前に出るか!?”

 珍しく迷いを見せるノヴァルナ。本能に任せて前へ出て、逆に間合いを詰めるのも、エルヴィスの術中に嵌る予感がある。

 その時であった。ノアの声がノヴァルナのヘルメットの、スピーカーから飛び込んで来た。

「下がって。ノヴァルナ!」

 反射的に機体を後退させるノヴァルナ。一瞬追撃を仕掛けかけたエルヴィスは、すぐに機体を回避機動に入れる。両機の間を貫いていく銃弾。後方のノアからの援護射撃だ。
 
 この場で戦っているのは無論、ノヴァルナだけではない。

 ノヴァルナに傭兵団の他のBSI部隊を近寄らせないための、カレンガミノ姉妹の奮戦も当然の出来事だ。

 時間は少し遡り、メイアとマイアの『ライカSS』はまず、互いに背中合わせになり、ノヴァルナの『センクウ・カイFX』を半包囲しようとしていた、敵のBSI部隊に向けてライフルの猛射撃を加えた。
 ミョルジ製ASGULの『ラシェラム』が主力の傭兵団BSI部隊は、この猛射に次々と撃破される。なまじエルヴィスの煽りを受けて、“ノヴァルナを討ち取れば褒美は思いのままだ”という欲に眼が眩んだ心理で、操縦のコース取りが単調になったのもその要因だ。

 そして金目当ての傭兵であるから、心が折れるのも早い。十六機いた『ラシェラム』が八機に半減したところで、ASGUL隊は勝手に撤退を始めた。
 しかしヴェルターと三人の親衛隊仕様BSIを除いた、七機の量産型BSIはメイアとマイアに果敢に挑んで来る。多少は腕に覚えがあるようだ。カレンガミノ姉妹を撃破してから、エルヴィスの助太刀に向かうつもりなのだろう。

 だがメイアとマイアは、“多少は腕に覚えがある”程度で、どうにかできる相手ではない。距離を詰めながら散開した七機は、別々の方向から双子姉妹への襲撃行動に入るが、その直後、二手に分かれたメイアとマイアを見失ってしまった。一気に最大戦速まで加速した姉妹を、捕捉できなかったのだ。いや、実際には乗っているBSIユニットのセンサーが、捕捉はしていたのだが、その表示を肉眼で追えなかったのである。

「なにっ! どこへ―――」

 照準センサーから反応が消え、戸惑う量産型『サギリ』のパイロットが、言葉を言い終わらぬうちに、近接警戒警報が鳴る。そして僚機のパイロットが、「うしろだ―――」と、こちらも警告を発し終える前にその『サギリ』は、背後に回り込んだメイアの『ライカSS』に、クァンタムブレードですれ違いざま、バックパックを袈裟掛けに斬り裂かれた。何が起きたかも分からぬうちに、爆炎に包まれる『サギリ』のパイロット。そして僚機に警告していた方も、マイアから至近距離で銃撃を受けて機体ごと爆散する。

「くそっ! ふざけるな!」

 皇国製の量産型『ミツルギ』に乗るパイロットが、銃撃を終えたばかりのマイアの『ライカSS』を、照準センサーに捉える。ところがそれは罠だった。トリガーを引くより先、動きを止めたその機体をメイアの放った銃弾が貫く。姉が撃つと信じての、マイアの囮役だった。




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