銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第11話:我、其を求めたり

#12

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 エルヴィスの罠に気付いたのは、ノヴァルナの実戦経験の差であった。『メイオウSXー1』のバインドアームの動きから、ノヴァルナはエルヴィスに何らかの意図があるに違いないと考えたのだ。そしてバインドアームだけが動いて、『メイオウSXー1』自体が同じ位置に居続けている事から、攻撃の本命がライフルによる狙撃だと読んだ。そこで自分も狙撃ポイントを割り出し、到達と同時にカウンターで銃撃を行ったのである。エルヴィスにとっては妙案であったようだが、自ら戦場へ出て戦い慣れしているノヴァルナには通用しなかった。

 そこへ急加速で接近して来るヴェルターの『ミツルギCC』。目的は無論、エルヴィスの援護だ。

「エルヴィス陛下!」

 間合いを詰めながらライフルを撃って来るヴェルター。操縦の腕は悪くなく、照準も正確だ。しかし正確な射撃は予測がつき易い。そして機体の未来位置も…だ。素早く機体を旋回させたノヴァルナは、銃弾を悉く躱してポジトロンパイクを素早く振るった。そのパイクの一閃はヴェルターに対するものではない。背後から恐るべき瞬発力で迫って来ていた、『メイオウSXー1』のパイクによる斬撃を受け止めるためだ。打ち合わされたパイクの刃が、ジリジリと火花を散らす。

「うぬ。小賢しや!」

 歯噛みするエルヴィス。『メイオウSXー1』のバックパックから伸びるバインドアームが、『センクウ・カイFX』に掴みかかろうとした。ノヴァルナはポジトロンパイクを大きく振り回し、その全てをひとまとめに弾き返す。
 するとヴェルターの『ミツルギCC』が、クァンタムブレードを右手に、ノヴァルナ目掛けて斬り込んで来た。銃撃は『メイオウSXー1』にも、命中する恐れがあるためだ。その斬撃をヒラリと回避した『センクウ・カイFX』は、そのまま機体をスクロールさせ、ヴェルターの『ミツルギCC』に、背後から体当たりを喰らわせた。

「踏み込みがあめぇんだよ!」

 ここで言う宇宙空間での“踏み込みの甘さ”とは、間合いの詰め方だ。エルヴィスの『メイオウSXー1』と同士討ちになる事を懸念したため、斬撃を出すのが僅かだが早かったのだ。だからノヴァルナに躱された上に、体当たりを許す結果になる。『センクウ・カイFX』の体当たりに、バランスを崩したヴェルターの『ミツルギCC』は、『メイオウSXー1』と激突した。

「おのれ!!」

 構わず超電磁ライフルを向ける『メイオウSXー1』。対する『センクウ・カイFX』も、超電磁ライフルの銃口を『ミツルギCC』の背中に押し当てた。
 
「うわわわわッ!! 助けてくれっ!!!!」

 狼狽の声を上げたヴェルターは、コクピットの座席横にある、脱出装置のレバーを慌てて引いた。球状のコクピットがそのまま脱出ポッドとなって、『ミツルギCC』の腹部から放出される。ノヴァルナとエルヴィスが超電磁ライフルのトリガーを引いたのは、その一瞬後だ。『ミツルギCC』の機体を貫通した銃弾は、『センクウ・カイFX』と『メイオウSX-1』双方の、左のショルダーアーマーを叩き割った。
 そして双方の銃弾が機体を貫通した、ヴェルターの『ミツルギCC』は、その場で爆発を起こす。これに怯むエルヴィス、怯まないノヴァルナ。『センクウ・カイFX』が眼の前の爆発にも動じる事無く、前へ進み出てポジトロンパイクを降り抜いた。エルヴィスにとっては、虚を突かれた一撃だ。万事休すか!


だが―――


 エルヴィスの座るコクピットが白い光い満たされた次の瞬間、『メイオウSX-1』のバックパックから伸びた八本のバインドアームが、傘上のエネルギーシールドを張って、ノヴァルナの斬撃を防いだ。エルヴィスの意志ではない。緊急発動した“トランサー”が、自動的かつ反射的にシールドを張ったのだ。
 ノヴァルナの斬撃を防いだバインドアームは、八つの方向から『センクウ・カイFX』にビームを放って来た。「クソッタレ!」と悪罵を吐いたノヴァルナは、操縦桿を引き、四肢を制御するサイバーリンクで、ポジトロンパイクの刃を盾代わりにする。
 バインドアームの放つビームを、ポジトロンパイクの刃で打ち防いだノヴァルナは、機体を複雑な回避機動に入れながら、端整な顔をしかめた。

“トランサーを発動させちまうとはな…”

 ノヴァルナの戦術は速攻に速攻を重ねて、エルヴィスに“トランサー”で本体使われる前に、勝利するつもりであったのだ。ところがエルヴィスはエルヴィスで、自身に不満があったらしい。怒りに満ちた顔で唸るように言う。

「おっ!…おのれぇーー!!!!」

 そこで座席の肘掛けを、荒々しく殴りつけたエルヴィスは、立腹の理由を口にした。

「余に“トランサー”を使わせるとは!!」

 エルヴィスは自身でコントロールできる“トランサー”の発動を、今しがたの命の危機に際して、自動的に機体が“トランサー”を発動させた事が、気に入らないようである。それはつまりノヴァルナとの一騎打ちで、模擬戦とはいえ最後の最後まで“トランサー”発動を控えていた、自分のオリジナルであるテルーザを、超えられていない証拠となるからだ。



▶#13につづく
 
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