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第11話:我、其を求めたり
#07
しおりを挟む「よくぞ参った。待っておったぞ」
両眼の黄緑色のランプを明滅させて、ノヴァルナ達を出迎えたのは、一体の汎用アンドロイドであった。電子音声のその口調に高圧的な部分がある事から、ただのアンドロイドではないのは確実だ。テン=カイが素性を問う。
「これはエルヴィス陛下であらせられますか?」
汎用アンドロイドはコクリと頷いて返答する。
「いかにも。このアンドロイドの電子脳と、NNLをリンクして使役している。余がエルヴィス・サーマッド=アスルーガである」
これを聞いてノヴァルナ達は全員が、エルヴィスの臨時筐体となっている汎用アンドロイドに片膝をついた。事情を知らなければ星大名一行が、何の変哲もない汎用アンドロイドに、みんな揃って敬意を表している、奇異な情景に見える。
「もう間も無く、直に対面する事が出来るな…楽しみにしておるぞ、ノヴァルナ・ダン=ウォーダ」
バイオノイド:エルヴィスならぬアンドロイド:エルヴィスに声をかけられ、ノヴァルナは「はっ!」と応じ、さらに一段頭を下げる。
「基地の人間どもが、乗員に扮した其方らを怪しみ始めたようだ。余の居場所までの別の道を案内するゆえ、ついて参れ」
この基地のNNLシステムを、完全に掌握しているエルヴィスであるから、ヴェルターやゼーダッカ達の動きも逐一掴んでいた。したがって、ヴェルターが高速クルーザーの乗員を探し始めた事を知るなど、雑作も無かったのだ。
ついて来い…と言った汎用アンドロイドは、エルヴィスが居るバイオ・シンフォナイザーまでの主通路から外れ、この巨大施設を維持するための、メンテナンス用通路へ向かった。
この通路を使用するのは、整備作業目的のアンドロイドだけで、人間はいない。その代わり、移動の快適さは求められておらず、機器の間を縫うように繋げられた通路や梯子は幅が狭く、武装した陸戦隊員だと二人横並びでは歩けなかった。
そのような細い通路を十五分ほど進むと、やがて高さが五十メートルはあるであろう長いパイプの中を、梯子を伝ってひたすら降り、着いた先にあった小部屋に設けられた縦長の扉を、アンドロイドが開く。
扉の向こうは星空であった―――
いや…何かの比喩ではなく、巨大な半球状のドームの内部に、ホログラムによる宇宙空間が映し出されている、いわば“プラネタリウム”である。そしてエルヴィスは、その星空の中にいた。
「あらためて膝をつくなどはせずともよい。そのまま進め」
アンドロイドに指示され、ノヴァルナ達はドームの中央部まで進む。
エルヴィス・サーマッド=アスルーガがいたのは、ある意味味気ない場所であった。高さ五メートルほどの円柱形の黒い台。それがエルヴィスの今の玉座である。実際には暗青色の台なのだが、照明が少ないドームの中では黒色でしかない。
座る椅子も星帥皇を名乗った人物でありながら、豪奢なものではなく、悪趣味な言い方だが、処刑用の電気椅子を思わせる機械的なものだ。事実、椅子の背面からは無数のケーブルが伸び、台座上の後ろ半分にズラリと並んだ端子に繋げられている。そして頭上からは一条の白い光が椅子を照らす。その光の中にエルヴィスの姿があった。
エルヴィスは上半身が裸であった。上から差す白い光に、その肌は異常なまでに白さを増している…病的な白さと言っていい。そして右半身の肌が、僅かにふやけているように見える。そんなエルヴィスだが、やはりテルーザ・シスラウェラ=アスルーガを模したバイオノイドだけあって、顔は瓜二つであった。その顔を見て、ノヴァルナは亡き友人を思い起こす。
「このような非礼な姿で、済まぬ―――」
ここまで案内役を務めたアンドロイドではなく、エルヴィス自身の発した声だ。こちらもやはり、テルーザと全く同じである。ただテルーザにはなかった、気だるさのような響きが混じっていた。
「卿らが届けてくれた生体組織を、先程合成し終えたばかりでな。おかげでまた少し、生きながらえる事が出来る…」
なるほど、椅子に座ったエルヴィスの右半身がふやけたように見えるのは、バイオ・マトリクサーで生成した組織を、移植したばかりであるかららしい。おそらく専用ポートからここまで歩いて来る間に、組織が搬入されて即座に処理が行われたのだろう。エルヴィスは口元に笑みを浮かべて、ノヴァルナに呼び掛ける。
「遠路はるばる、ご苦労であったウォーダ卿。僅かな供回りで本当にここまで乗り込んで来るとは、噂にたがわぬ豪気さか…もしくは“大うつけ”ぶりであるな」
対するノヴァルナは、不敵な笑みで応じた。
「陛下もわたくしめとの会見をご所望だったとは、話しが早い。そういったところも、テルーザ陛下と同じですな」
このノヴァルナの物言いに、顔の見えないテン=カイだが、緊張で身じろぎしたのが感じられた。まさかエルヴィスに面と向かって、いきなりテルーザの名前を出して来るとは思わなかったのだろう。するとエルヴィスは不意に笑い声を上げた。
「アハハハハハハハ!」
▶#08につづく
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