銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第11話:我、其を求めたり

#06

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 偵察船が送って来た映像は、太古に出来た巨大クレーターの壁面内部の、秘密施設から突き出ていた宇宙船離着陸床が文字通り、とてつもなく強大な力で押し潰されたように、グシャグシャになっている光景であった。これは途絶前の通信にあった侵入者云々の問題だけでは済まない話だ。

「何が起きたというのだ…」

 スクリーンを見詰めたまま、茫然と言うゼーダッカ。

「ジュマには、巨大なバケモノが棲息しています。それに襲われたのかも、知れませんが…」

「それは私も知っている。しかし基地には近付けないよう、エネルギーシールドで囲んでいたんだろう」

「それはそうですが…」

 聞きようによっては、互いに知っている事だけを述べ合う。なんとも間の抜けた会話である。しかしそのような会話になってしまうほど、二人にとって衝撃的な光景なのも確かであった。

「偵察船より連絡。ジュマ基地からの通常通信を受信。生存者がいる模様」

 通信士の新たな報告に、ヴェルターとゼーダッカは声を揃えて「なにっ!」と、小さく叫んだ。秘密施設の超空間通信機能は破壊されたが、幾つかある通常空間用の通信機は使えるようだ。

「通信の内容は!? なんと言っている!?」とヴェルター。

「お待ちください。通常通信のため基地と偵察船の交信に、タイムラグが発生しています」

「ぬう…」

 眉間に皺を寄せて低く唸るゼーダッカ。偵察船は惑星ジュマに近づいただけで、秘密施設の上空に到着したわけではない。惑星間航行速度で接近しているが、まだそれなりの距離があり、光の速度しか出せない通常通信では数分のタイムラグが生じる。

 腕組みをしたヴェルターが、人差し指で二の腕を小刻みに押さえ、苛立ちを紛らわせていると、数分後に続報が入った。それによるとやはり巨大生物の襲撃によって、施設は破壊されたらしいのだが、一体ではなく三体の巨大生物に、同時に襲われたのだという。破壊の規模が大きかったのはそのせいだ。
 しかも巨大生物の襲撃は夜間、傭兵達が侵入者の追跡を行っている最中に起こり、襲撃直前にエネルギーシールドが停止したという。そして秘密施設からの通信は、奇妙な事をヴェルター達に伝えた。最重要任務であるエルヴィスの生体組織を積んだ高速クルーザーは、幸いにも巨大生物の襲撃直前に発進させる事が出来た…というのだ。

 怪訝そうな表情になったヴェルターは、通信士に問い質した。

「ここへ到着する際、クルーザーの乗員達は、何も知らないと言っていたのではないのか?」
 
 ヴェルターの問いに、通信士は「そうです」と応じ、さらに続ける。

「先程確認した時、ジュマ基地を通常体制で発進したと、言ってきました」

 それを聞いてヴェルターは「妙だな…」と、首を捻った。巨大生物の襲撃直前に秘密施設を発進したのであれば、高速クルーザーの乗員も何かを、知っているはずである。ヴェルターは港湾主任に向き直って問う。

「“E検体”運搬船はどこにある」

 “E検体”とは言うまでも無く、バイオノイド:エルヴィスに移植される、生体組織の事を指している。つまり高速クルーザーの居場所の確認だ。

「すぐにメインコンピューターにアクセスして、航行データの確認を行え」

 強い口調で命じるヴェルターに、港湾主任の男は「はっ!」と表情を緊張させ、コンソールを操作し始める。すぐにデータがモニターにロードされ、複数並んで座るオペレーターが内容を精査した。

「まだか!?」

 急かせるゼーダッカ。このミョルジ家の家老にすれば、ジュマ基地が破壊されただけでも、身体に関わる一大事だ。エルヴィスの生体組織を合成する、バイオ・マトリクサーの状態も分からない。

 オペレーターの報告を取りまとめた港湾主任は、困惑した表情で告げた。

「データとしては“問題ナシ”です。現地時間0855にジュマ基地を発進した、と記録されております」

 それを聞いて「うーむ…」と唸るゼーダッカ。だがヴェルターの方は、部下への暴力沙汰で星大名家を追い出されたとはいえ、一線級の指揮官であったのは間違いなく、すぐに矛盾点を探し出す。

「ちょっと待て、“0855に基地を発進”だと?」

 0855まるはちごーごーとは軍隊式の言い方だが、つまり朝の8時55分に発進したという事である。ところが偵察船に届いた、ジュマ基地の生存者からの報告では、高速クルーザーは夜の間に緊急発進した事になっている。明らかに矛盾が生じているのだ。

「辻褄が合わんぞ」

 吐き捨てるように言ったヴェルターは、再び港湾主任に問う。

「クルーザーの乗員は、今どこだ?」

「時間的に船を降りて、居住区画にいるはずですが…」

 港湾主任の返答に、ヴェルターは間髪入れずに命じた。

「すぐに連絡を取れ。兵を遣ってここへ連れて来い」

 これを受けて港湾主任は、オペレーターに乗員名簿を確認させ、居住区画へ内線連絡をとる。ところが一向に居場所は掴めない。それもそのはず、本来の乗員の代わりに基地へ乗り込んだノヴァルナ達は、エルヴィスのもとへ辿り着こうとしていたからだ………




▶#07につづく
 
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