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第11話:我、其を求めたり
#04
しおりを挟むキノッサがイーマイア造船本社を辞して、用意されたホテルへ向かっている頃、ノヴァルナを乗せた高速クルーザーは、目的地のアヴァージ星系第十六惑星へ近づいていた。正確には第十六惑星第三衛星である。
第三衛星にあるBSD(バイオノイド・シンセサイジング・デヴァイス)基地は、直径約二キロの小さな岩石質の衛星の内部をくり抜き、金属球の基地本体が埋め込まれた、特異な形状をしている。
怪しまれないためにも、高速クルーザーは基地からの自動誘導信号を、受けるがままに接近した。
眼下に広がる第十六惑星は、メタンガスで覆われたガス惑星だ。その表面は遠くから見れば青みが強いが、近くまで来ると青灰色に変わる。前方に浮かぶ第三衛星の向こうには第五衛星があり、こちらは凍結した白い衛星で、大きさも直径が第三衛星の千倍はある。
「ふーん…なんか秘密基地って感じで、いいじゃねーか」
コントロールルームの窓から見えるBSD基地の光景に、ノヴァルナはどこか呑気に言う。確かに内部をくり抜いた“月”の中に、隠されるように金属球体の本体が覗く姿は、秘密基地感がある。
視界の先、基地の上空には三隻の宙雷艇が、ルーティンの哨戒行動を行い、ゆっくりと旋回している。やがて航宙士役の陸戦隊員が、報告して来た。
「基地からの誘導信号が、接舷モードに変更されました。コードクリア、このままドッキングシークェンスに入ります」
頷くノヴァルナ。ここまでは順調だ。宙雷艇が一隻、接近して来るものの、その動きは緩慢であった。形だけの警護態勢という事だろう。こういう時は変に反応せずに、堂々としていればいい。するとクルーザーのコントロールルームに、テン=カイがやって来る。依然として謎の多いこの人物は、ノヴァルナに基地に関するさらなる情報を開示した。
「基地の主要部分は警備システムを含め、ほとんどが自動化されております。コードをクリアした以上、接舷までは問題は無いでしょう。エルヴィス陛下の生体組織の搬入作業も、アンドロイド達が行います。あとは『アクレイド傭兵団』の警備兵の、巡回だけ注意が必要かと」
「となると万が一の場合は、カーズマルス達の出番だな」
油断は禁物だが、前述の通り基地を守備する『アクレイド傭兵団』第三階層は、それほどレベルは高くはない。カーズマルスの部隊は三十六名の小隊規模だが、全員がプロの特殊陸戦隊員である。戦闘力の差は圧倒的だろう。
「基地の人員の数は、どれぐらいだ?」とノヴァルナ。
「八百人…ほどだったと思います」とテン=カイ。
「確かに少ないな…そのうち、戦える人数は?」
「宙雷艇クルーやBSIパイロットも合わせると、三百人ぐらいでしょうか」
直径約二キロの球体基地に居る人数が八百人は少ない。しかもそのうち約三百人が戦闘要員だとは、異常な比率のようにも思える。戦闘要員ではなくとも、整備兵や管制官の数を百人ほどと考えると、バイオノイド:エルヴィスの生体維持に関わる人数は、半数の四百ほどになり比率はさらに下がる。それだけこの基地が自動化されているという事であろう。
さらにその戦闘要員三百人の内訳を推察した場合、先にテン=カイから得た情報である、BSI二個中隊と宙雷戦隊二個戦隊のパイロットや乗組員を差し引いて、残りは百八十人。この中から司令官や幹部士官その他主計関係が、四十人含まれていると試算すれば、百四十人が警備やその他の予備要員。これが仮に三交代で稼働しているなら、一つのシフトに四十人程度が割り振られる事になる。
これらの試算を瞬時に済ませたノヴァルナは、コントロールルームに居合わせたカーズマルス=タ・キーガーに問い掛けた。
「カーズマルス」
「はっ!」
「最悪の場合、あの基地を制圧や破壊する事は可能か?」
有能なカーズマルスは、すでにノヴァルナと同様の試算を、自分でも終えていたらしく、ノヴァルナの問いに即答する。
「二つ、三つ条件を整える事が出来れば、充分に」
これを聞いて「お待ちください」と、割って入ったのはテン=カイだ。僅かながら動揺を感じさせる口調で、ノヴァルナに訴える。
「初めに申し上げました通り、基地を制圧や破壊するというような、目立つ事はお控え下さい。ここは首都星系ですので、何かあってはアターグ家も、見て見ぬ振りはできません」
将来的にウォーダ家への寝返りを望んでいる、このアルワジ宙域の星大名アターグ家だが、今は支配宙域がミョルジ家の勢力圏の真っ只中にあるため、今回の件では“見て見ぬふりをする”という、消極的支援を行うに留まっている。
だが新興植民星系だったユラン星系ではなく、宙域首都星系であるこのアヴァージで、大々的な破壊行為を行われては、見て見ぬふりなど出来なくなる。
これに対しノヴァルナは、きっぱりと言い放つ。
「悪ぃがテン=カイさんよ。そいつは俺の知ったこっちゃねーな」
▶#05につづく
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