270 / 383
第11話:我、其を求めたり
#04
しおりを挟むキノッサがイーマイア造船本社を辞して、用意されたホテルへ向かっている頃、ノヴァルナを乗せた高速クルーザーは、目的地のアヴァージ星系第十六惑星へ近づいていた。正確には第十六惑星第三衛星である。
第三衛星にあるBSD(バイオノイド・シンセサイジング・デヴァイス)基地は、直径約二キロの小さな岩石質の衛星の内部をくり抜き、金属球の基地本体が埋め込まれた、特異な形状をしている。
怪しまれないためにも、高速クルーザーは基地からの自動誘導信号を、受けるがままに接近した。
眼下に広がる第十六惑星は、メタンガスで覆われたガス惑星だ。その表面は遠くから見れば青みが強いが、近くまで来ると青灰色に変わる。前方に浮かぶ第三衛星の向こうには第五衛星があり、こちらは凍結した白い衛星で、大きさも直径が第三衛星の千倍はある。
「ふーん…なんか秘密基地って感じで、いいじゃねーか」
コントロールルームの窓から見えるBSD基地の光景に、ノヴァルナはどこか呑気に言う。確かに内部をくり抜いた“月”の中に、隠されるように金属球体の本体が覗く姿は、秘密基地感がある。
視界の先、基地の上空には三隻の宙雷艇が、ルーティンの哨戒行動を行い、ゆっくりと旋回している。やがて航宙士役の陸戦隊員が、報告して来た。
「基地からの誘導信号が、接舷モードに変更されました。コードクリア、このままドッキングシークェンスに入ります」
頷くノヴァルナ。ここまでは順調だ。宙雷艇が一隻、接近して来るものの、その動きは緩慢であった。形だけの警護態勢という事だろう。こういう時は変に反応せずに、堂々としていればいい。するとクルーザーのコントロールルームに、テン=カイがやって来る。依然として謎の多いこの人物は、ノヴァルナに基地に関するさらなる情報を開示した。
「基地の主要部分は警備システムを含め、ほとんどが自動化されております。コードをクリアした以上、接舷までは問題は無いでしょう。エルヴィス陛下の生体組織の搬入作業も、アンドロイド達が行います。あとは『アクレイド傭兵団』の警備兵の、巡回だけ注意が必要かと」
「となると万が一の場合は、カーズマルス達の出番だな」
油断は禁物だが、前述の通り基地を守備する『アクレイド傭兵団』第三階層は、それほどレベルは高くはない。カーズマルスの部隊は三十六名の小隊規模だが、全員がプロの特殊陸戦隊員である。戦闘力の差は圧倒的だろう。
「基地の人員の数は、どれぐらいだ?」とノヴァルナ。
「八百人…ほどだったと思います」とテン=カイ。
「確かに少ないな…そのうち、戦える人数は?」
「宙雷艇クルーやBSIパイロットも合わせると、三百人ぐらいでしょうか」
直径約二キロの球体基地に居る人数が八百人は少ない。しかもそのうち約三百人が戦闘要員だとは、異常な比率のようにも思える。戦闘要員ではなくとも、整備兵や管制官の数を百人ほどと考えると、バイオノイド:エルヴィスの生体維持に関わる人数は、半数の四百ほどになり比率はさらに下がる。それだけこの基地が自動化されているという事であろう。
さらにその戦闘要員三百人の内訳を推察した場合、先にテン=カイから得た情報である、BSI二個中隊と宙雷戦隊二個戦隊のパイロットや乗組員を差し引いて、残りは百八十人。この中から司令官や幹部士官その他主計関係が、四十人含まれていると試算すれば、百四十人が警備やその他の予備要員。これが仮に三交代で稼働しているなら、一つのシフトに四十人程度が割り振られる事になる。
これらの試算を瞬時に済ませたノヴァルナは、コントロールルームに居合わせたカーズマルス=タ・キーガーに問い掛けた。
「カーズマルス」
「はっ!」
「最悪の場合、あの基地を制圧や破壊する事は可能か?」
有能なカーズマルスは、すでにノヴァルナと同様の試算を、自分でも終えていたらしく、ノヴァルナの問いに即答する。
「二つ、三つ条件を整える事が出来れば、充分に」
これを聞いて「お待ちください」と、割って入ったのはテン=カイだ。僅かながら動揺を感じさせる口調で、ノヴァルナに訴える。
「初めに申し上げました通り、基地を制圧や破壊するというような、目立つ事はお控え下さい。ここは首都星系ですので、何かあってはアターグ家も、見て見ぬ振りはできません」
将来的にウォーダ家への寝返りを望んでいる、このアルワジ宙域の星大名アターグ家だが、今は支配宙域がミョルジ家の勢力圏の真っ只中にあるため、今回の件では“見て見ぬふりをする”という、消極的支援を行うに留まっている。
だが新興植民星系だったユラン星系ではなく、宙域首都星系であるこのアヴァージで、大々的な破壊行為を行われては、見て見ぬふりなど出来なくなる。
これに対しノヴァルナは、きっぱりと言い放つ。
「悪ぃがテン=カイさんよ。そいつは俺の知ったこっちゃねーな」
▶#05につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者
潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
沈まぬ大陸の世界史(UKW)「初期設定案と今後の取り組み等について」
Sigure cou
SF
0.はじめに
本作品は、実在するいかなる組織・団体・個人とも関係が無い。フィクション作品となっております。
私は皆様と一緒に、スターウォーズのレジェンズ(正史ではない方)やSCP財団のように、皆様と一緒に作っていく。仮想世界を想定して作っております。
勿論ですが、骨がなければ肉の形を保つのが難しいように、軸がなければ皆様が少しでもこの作品に興味を持ってくださって関連作品等を作ってくださろうと思っても。作品を作るのが難しくなってしまうと思われるため。
この世界線での軸(正史)を作る為にも主である私も頑張っていこうと思います。ぜひ、この作品「沈まぬ大陸の世界史(UKW)」を応援してくださると有り難いです。これからよろしくお願いいたします。少しでも興味や好感を持って頂けたら有り難いです。関連作品を作ってくださるような心優しい方が居ましたら。コメントやご連絡下さい。大変長くなりましたが、何卒これから宜しくお願いいたします。m(_ _)m
またこちらのものは私がかなり前に一年近く考えた「初期案」であり。現在までで歴史や兵器、軍隊の仕組み等に対する価値観等に少々の解釈の変更や設定の変更等が行われる可能性がありますので、あくまでもスタート0の状態であると思って頂けると幸いです。またこの下書きは一年近くかけてちょびちょび付け足していった為。文章等に多少気になるとこらがあると思います。それと同時にこちら大雑把なあらすじと言っておきながら3万字程とまぁまぁ読むと長いものとなっております。そちらの程、御理解の元読んで頂けると幸いです。
あらすじ
ムー大陸と呼ばれる現代では幻の大陸とされる太平洋に存在したと想定されている巨大な大陸。そこには古代に高度に進んだ技術を持った文明があったとされ。大規模な自然災害により。古代に1日で滅び海底に沈んでしまったとされる大陸。この大陸が沈まなかった世界線では、どのような世界線が描かれるのか。皆様と一緒に作っていく。IF世界史です。興味や好感を持てて頂けると幸いです。興味を持って下さり関連作品を作ってくださる方等が居ましたらご連絡貰えると有り難いです(コメントでも有り難いです)
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
蒼海のシグルーン
田柄満
SF
深海に眠っていた謎のカプセル。その中から現れたのは、機械の体を持つ銀髪の少女。彼女は、一万年前に滅びた文明の遺産『ルミノイド』だった――。古代海洋遺跡調査団とルミノイドのカーラが巡る、海と過去を繋ぐ壮大な冒険が、今始まる。
毎週金曜日に更新予定です。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる