銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
上 下
259 / 375
第10話:シンギュラリティ・プラネット

#16

しおりを挟む
 
“お!…か、帰るのか!?”

  二体のゴーデュラスの様子に、メッツァは期待を込めた眼を向ける。ところがそこに空気を読まない者が出現する。宇宙マフィアのボス、ドン・マグードだ。
 
  空洞内のハンガーデッキに通じる斜面を登って来たドン・マグードは、ノアに途中で停止させられたエレベーターに積まれていたコンテナから、“改良ボヌリスマオウ”の種子が梱包されたケースを大量に取り出し、手下達と共に担いで斜面を上がって来たのだった。出来るだけ貨物船に種子を積み込もうという、執念の発露である。
 
「“おおい、オーガー!! 全員ここへ来て、手を貸せぇえええーー!!!!”」
 
 静寂のプラットフォーム上に響く、ピーグル語の大音響。ブゴッ!…と豚の鼻を鳴らして振り返ったオーク=オーガーが、慌てて両腕を突き出し、止めさせようとするが止まらない。

「“どうした!! 早くこっちへ来て手伝え! ボヌリスマオウの―――”」

 ドン・マグードはそこまで言って、ようやく巨大怪獣の後姿に気付いた。ただ背中を向けてはいても、ドン・マグードの大声を聞いて、頭はこちらを振り返っている。さらに大声で驚きを口にするドン・マグード。ここまでの事が台無しだ。

「“なんだぁ、この馬鹿デカいバケモノはぁ!!!!”

 とその直後、ブラスターライフルの銃声が二度、三度と鳴った。小さな爆発が二体のゴーデュラスの背中に起こる。大きな口を開けて咆哮を轟かせ、怒りの反応を見せた二体はぐるりと向きを変えた。プラットフォームに向かって、ボヌリスマオウ農園を踏みにじりながら、秘密施設へ向けての前進を再開する。

「だっ! 誰だ! 勝手に撃ったのは!!!!」

 愕然として体をのけぞらせるメッツァ。台無しと言うなら、ドン・マグードの大声どころではない。だがゴーデュラスを撃ったのは、メッツァの部下でもオーク=オーガーの仲間でもなかった。犯人は彼等の足元、秘密施設の離着陸床の下の地表にいた、テン=カイとガンザザ、カーズマルス配下の五人の陸戦隊員だ。こちらも偵察用プローブが破壊される可能性は、考慮済みだったのである。

「ええい。仕方ない、攻撃だ! 攻撃開始!!」

 止まりそうもない巨大怪獣に、メッツァは攻撃を命令する。プラットフォーム上に並ぶ傭兵達にピーグル星人も加わり、ブラスターライフルの火箭が開かれる。しかし対人用のブラスターライフルでは効果は薄く、さらに猛り狂っただけの二体のゴーデュラスは、秘密施設へ突進した。
 
 一方、メッツァの判断で間一髪、怪獣の襲撃から免れ宇宙へ上がる事が出来た、アヴァージ星系行きの高速クルーザーだが、こちらに対してもノヴァルナの罠には抜かりはなかった。

 第三惑星ジュマの衛星軌道を周回する、細かな岩のリングを越えて、惑星間航路を光速の28%の速度で設定した高速クルーザーは、星系外縁部に向けて加速を開始する。針路は第四惑星ラジェの脇を航過し、第八惑星の重力場を利用した重力子スイング・バイで、さらに加速するコースだ。しかしその設定が完了した直後、船に異変が発生した。航宙士が硬い表情でコンソールを繰り返し操作し、諦めたような口調で報告する。

「大変です船長。第八惑星からの誘導ビーコンが、受信出来なくなりました。何者かによるジャミングだと思われます」

「なに!? ジャミングだと?」

 施設への脅威を感じた、司令官のメッツァ大佐から命令を受けての、前倒し発進であったため、高速クルーザーでも警戒はしていた。だが市販のクルーザーを一部改造しただけのこの船では、警戒するにも限界がある。さらに電探士からも異変が報告された。

「長距離センサーがダウン! 電子攻撃を受けている模様!」

 このままではマズいと判断した船長は、航宙士に命じる。

「コース変更。258マイナス38。速力最大!」

 するとその直後、不意に出現した宇宙魚雷が高速クルーザーの前方で爆発する。猛烈な閃光に乗員達は、驚愕の声と共に全員が眼を眩ませた。そしてさらにもう一発。今度は右舷側だ。威嚇目的の自爆である。すかさずクルーザーに送られてくる停船命令。

「至近距離からの通信を受信。“停船せよ。従わぬ場合は撃破する”と言っています!」

 通信士が表情を強張らせて報告する。だが至近距離と言ってもセンサーには、なんの反応もない。「どういう事だ…」と困惑する船長。そこへ機関士が身を乗り出して、窓の外を指さした。

「船長! あれを…あそこに!」

 指さす先にあったのは、いびつな形をした惑星ジュマの月。いや、それだけではない。その白灰色をした月を背景に浮かぶ、のっぺりとした宇宙船の黒い影―――高々度ステルス艦、いわゆる“潜宙艦”だ。ノヴァルナ指揮下の『セルタルス3』であった。民間宇宙船のセンサーでは、まず発見できない潜宙艦であるから、わざと目につくように、白灰色に光る月を背景に入れたのだ。
 抵抗するすべを持たない高速クルーザーは、生き残るために『セルタルス3』に降伏する以外の選択肢はなかった………




▶#17につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

絶世のディプロマット

一陣茜
SF
惑星連合平和維持局調停課に所属するスペース・ディプロマット(宇宙外交官)レイ・アウダークス。彼女の業務は、惑星同士の衝突を防ぐべく、双方の間に介入し、円満に和解させる。 レイの初仕事は、軍事アンドロイド産業の発展を望む惑星ストリゴイと、墓石が土地を圧迫し、財政難に陥っている惑星レムレスの星間戦争を未然に防ぐーーという任務。 レイは自身の護衛官に任じた凄腕の青年剣士、円城九太郎とともに惑星間の調停に赴く。 ※本作はフィクションであり、実際の人物、団体、事件、地名などとは一切関係ありません。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

身体交換

廣瀬純一
SF
男と女の身体を交換する話

戦国記 因幡に転移した男

山根丸
SF
今作は、歴史上の人物が登場したりしなかったり、あるいは登場年数がはやかったりおそかったり、食文化が違ったり、言語が違ったりします。つまりは全然史実にのっとっていません。歴史に詳しい方は歯がゆく思われることも多いかと存じます。そんなときは「異世界の話だからしょうがないな。」と受け止めていただけると幸いです。 カクヨムにも載せていますが、内容は同じものになります。

処理中です...