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第10話:シンギュラリティ・プラネット

#12

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 ドン・マグードの言葉を聞いても、メッツァは戸惑ったままだった。今一つ事態が飲み込めていない表情で、「誰が子供を取り返しに来ただって?」と問う。

「よくは知らねぇ。拘束された手下どもの話だと、傭兵の恰好をした二人組だという事だ! 急げ!」

「分かった。とにかくすぐに、態勢を整える!」

 メッツァ大佐との通話を切り、ドン・マグードは幹部達に振り向いて、ピーグル語で確認する。

「“アヴァージ行きのクルーザーは、もう離着陸床へ上がってるんだな?”」

 これに幹部の一人が「“上がってます”」と応じた。それに対しドン・マグードは、すぐに“改良ボヌリスマオウ”の種子が入ったコンテナの残りの、積み込みを再開するように命じる。

「“侵入者の方はメッツァに任せときゃいい。すぐにコンテナを倉庫から出して、積み込みを始めろ!”」

「“い…いいんですかい? 勝手に始めちまって”」

 別のピーグル星人の幹部が、躊躇いがちにドン・マグードに尋ねる。本来の予定では、アヴァージ星系行きの高速クルーザーが出発した後で、コンテナの積み込みの続きを始める事になっていた。それをドン・マグードは独断で早め、離着陸床上にまだクルーザーが居る状態で、作業を行うつもりらしい。

「“構う事はねぇ。それより念のためだ。急がせろ”」

 この辺りはドン・マグードの、マフィアのボスならではの勘の良さと用心深さであろう。侵入して来たノヴァルナ達の、規模や目的までは知る由もないが、捕らえた子供を救出に来た手際の良さに、いわゆる“虫の知らせ”を感じ取ったのだ。

 そしてドン・マグードの“虫の知らせ”は、逆に最悪の形で的中する。

 倉庫から引き出した種子入りコンテナを、高速クルーザーがいたハンガーデッキのエレベーターに乗せ、離着陸床のプラットフォームへ上げ始めた時に、それは起きた。空洞内の数か所で爆発が発生。それに伴って、ハンガーデッキからプラットフォームへ昇る斜面の途中で、エレベーターが停止したのである。無論これらはノヴァルナと、カーズマルスによる工作だった。救出したヤスークをノアに預け、破壊活動を始めたのだ。

「バクシェ・ハス・モッシュ!!」

「クソッ! どうなってやがる!!」

 コンテナと共にエレベーターに乗っていた、ドン・マグードの手下や傭兵が、突然の出来事に表情を強張らせる。「“何をやってる。早く修理させろ!”」とピーグル語で怒鳴るドン・マグード。
 地下空洞内での騒ぎは、複数の断続的な爆発音とともに、プラットフォーム上のメッツァ大佐にも伝わる。ドン・マグードからの侵入者の連絡を受け、最大レベルでの警戒態勢を部下達に取らせ、様子を見始めたタイミングでの発生であった。

「どうなっている!? 侵入者はまだ発見できんのか!?」

 メッツァが連絡を取っているのは、侵入者への対応を命じられた現場指揮官だ。少佐の階級章をつけた、イカのような頭を持つスキュラ星人の現場指揮官は、爆発音に、片方の耳の穴を指で塞ぎながら報告している。

「時間差で爆発するようにセットされた、複数のタイマー付手榴弾が、あちこちにばら撒かれており、発見は困難となっています。侵入者の人数も不明」

 これを聞いたメッツァは、「クソッ!」と悪態をつき、「一刻も早く探し出せ。発見次第射撃。尋問はそのあとだ!」と命じて、通信回線を切った。

 警戒態勢を整えたところでの、いきなりの爆発が出鼻を挫いた形となって、傭兵達が浮足立ち、混乱が拡大してしまっている。第三階層の傭兵はほとんどが、半ば素人。第四階層に至っては全員がほぼゴロツキで、こういう事態ではろくに役に立たない。
 ここでメッツァが恐れたのは、アヴァージ星系行きの高速クルーザーが破壊される事であった。第三階層に属してはいるが、大佐の地位を与えられているだけあって、その地位に値するだけの責任感は有している。
 高速クルーザーに振り向いたメッツァは、最終チェックの場に来ていた運航責任者に指示を出した。

「クルーザーの発進を前倒しする。すぐに準備に掛かれ。乗員を呼べ!」

 そしてクルーザーと同じプラットフォーム上に置かれている、三隻の貨物宇宙船の周りにいた、ピーグル星人の一団にも声を掛ける。

「おい、オーク=オーガー! クルーザーの近くに、コンテナを置いておくな。発進の邪魔になる!」

 ドン・マグードの命令で、コンテナの積み込みが終わった一隻の最終チェックを監督していたオーガーは、固定装置に不具合が見つかったため、コンテナの一つをプラットフォーム上に置いていた。ただその置き方が無造作で、クルーザーに近すぎたのだ。メッツァから高圧的に言われ、オーク=オーガーは猪のような顔を、さらに厳つくしかめ、ピーグル語で言い放つ。

「ムハシャック・ペッサ!」

「なんだ? なんと言った?」

 ピーグル語が分からないメッツァが尋ねると、オーク=オーガーは実際に口にした“うるせぇ。クソ野郎”とは、違う言葉を公用語で返した。

「“わかりました”を、丁寧に言ったんですよ。メッツァの旦那」
 




▶#13につづく
 
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