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第10話:シンギュラリティ・プラネット
#10
しおりを挟む「おい。このガキを押さえつけろ。爪を剥いでやる」
ナイフを手にしたピーグル星人の言葉で、傭兵達は床に転がったままのヤスークの体を押さえつけた。
「なんで!? やめて!! やめてよっ!!!!」
本当の事を言っているのに振るわれる理不尽な暴力に、ヤスークは怯えた声を上げる。
その時であった―――
バン!…と勢いよく警備室の扉が開いた。部屋の中にいた傭兵とピーグル星人が一斉に振り向く。その視線にいたのはヘルメットを目深に被った、二人の傭兵。顔が分からず、部屋の中にいた男達が、誰何しようとした矢先、入って来た傭兵の一人が、ヘルメットを片手で後ろへ跳ね上げた。ノヴァルナだ。
「よ! 俺だよ」
あっけらかんと知り合いっぽく、軽く言ったノヴァルナの言葉に、傭兵達は“誰だっけ?”と隙を見せた。その隙を逃さず、一番近くにいた傭兵の顔面をまず拳でぶん殴る。ノヴァルナの背後にいたのはカーズマルス=タ・キーガー。こちらは麻痺モードにしてあるブラスターライフルで、通信装置の前に座っていた傭兵を仕留めると、間髪入れず警備室の扉を閉めた。
するとその時にはもうノヴァルナは、二人目の傭兵をノックアウトしており、さらにヤスークの爪を剥がそうとしていたピーグル星人が、挑み掛かって来たところを、ナイフを持った手を捻り上げ、足払いを掛けて床に倒す。
あとはヤスークを床に押さえつけていた連中で、しゃがんでいたために初動が遅く、カーズマルスに次々と麻痺させられた。
ノヴァルナとカーズマルスはここへ来る途中、二人の傭兵を捕えて着衣を奪い、変装していたのである。
「ヤスーク。大丈夫か?」
傭兵達の拘束をカーズマルスに任せ、ノヴァルナはヤスークのもとへ向かった。サバイバルナイフを取り出し、拘束具を切断していく。
「ノヴァルナ様。僕、何も悪い事してないのに…」
「ああ。そうだな…立てるか? 立てるな? よし。立て、ヤスーク」
拘束具から解放したヤスークを、ノヴァルナはすぐに起き上がらせる。可哀相だとは思うが、今はヤスークをゆっくり休ませている場合では無い。
「カーズマルス」
声を掛けるノヴァルナに、カーズマルスは「はっ!」と応じ、通信装置の前で意識を失っている傭兵を指し示した。
「この者が身に着けている防具や装備ならば、ヤスークの体のサイズに、合うように思われます」
ノヴァルナがカーズマルスと突入前に打ち合わせたのは、救出後のヤスークにも傭兵の衣服を着せるという事であった。程なくして保安警備室が開き、傭兵姿の三人が出て来る。
保安警備室を出た三人は、ノヴァルナとヤスークが両側を隠し、その間でカーズマルスが、連射モードにしたハンドブラスターで扉のロックを焼き付けた。中には拘束した傭兵やピーグル星人らを、閉じ込めてある。機械類に細工をすると、指令室に警報が出る可能性もあるため、警備システムには手を付けていない。
「終わったか?」
ノヴァルナの問いに、カーズマルスが「はい」と応じる。ノヴァルナは「おし。行くぞ」と告げておいて「その前に…」と言葉を挟み、ヤスークに振り向いた。そして傭兵から奪い取って被らせていたヘルメットをポカリと殴り、倉庫での勝手な行動を叱りつける。
「…たく、このバカ。ムチャしやがって!」
しかし無茶をどうのと言える立場のノヴァルナではない。すぐにいつもの不敵な笑みを浮かべて、ヤスークに親指を立てて見せた。
「だが、悪くねぇ」
このノヴァルナの、男ならではの荒っぽい褒め方が嬉しかったのか、ヤスークは緊張が解けた表情で笑顔になる。この光景に謹厳なカーズマルスも、僅かに笑みを見せると、「急げ」というノヴァルナの号令で、三人は通路を進み始めた。
同じ頃、ノアはメイアとマイアと共に、動力炉制御室の制圧を完了していた。ただ完了と言っても、制御室には作業員が二人詰めていただけで、メイアとマイアにかかればものの数ではない。
意識を奪った二人の作業員をマイアに見張らせて、ノアはメイアと動力炉のコンピューターにアクセスし、並行処理で作戦に沿ったプログラム変更を行っていた。
「こちらは完了しました」
メイアが報告すると、隣でコンソールに向き合っているノアが、「私の方はもう終わっています」と応じる。ただキーボードを叩く指の動きは続いていた。これを疑問に思うメイアの出す空気を察し、ノアは答えた。
「少し調べたい事があるの」
ノアが調べたいと言ったのは倉庫で見た、コンテナに貼ってあったシールに描かれていた、『ラグネリス・ニューワールド社』のロゴについてである。動力炉のコンピューターから、管理システムへアクセスしたノアは、以前にノヴァルナがやったように、会計記録に侵入した。
「やっぱり…」
モニター画面に出て来たデータを見てノアは呟く。帳簿を見ると、この第三惑星ジュマだけでなく、植民惑星の第四惑星ラジェまで『ラグネリス・ニューワールド社』が開拓した事になっている。つまりは両方の惑星とも、実際には『アクレイド傭兵団』の息が掛かっている事を示していた。
▶#11につづく
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