銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第10話:シンギュラリティ・プラネット

#08

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 ドン・マグードのピーグル語の命令を、ノアが翻訳して伝えると、ノヴァルナはひとまず胸を撫で下ろし、即座に倉庫から出た。少なくともヤスークは、すぐに殺される事は無さそうであり、まずは自分達の移動が先だからだ。すると案の定、静かに閉めた倉庫の非常用扉の向こうで、公用語を話す男の声が聞こえて来る。

「周辺を探せ! 誰かいるかも知れねぇぞ!!」

 やがて非常用扉が中から開き、二人のヒト種と一人のピーグル星人が、手に銃を持って出て来た。しかしその時にはすでに、ノヴァルナ達の姿は消えている。三人の男は一応、辺りを調べて回ったが、誰もいないと判断し、短時間で倉庫内へ戻って行った。



 それから程なくして、ノヴァルナ達の姿は、動力炉区画内の片隅の小部屋にあった。そこは整備用機器の保管庫で、様々な機材が乱雑に放り込まれており、狭い。座って息抜きできるようなスペースは無く、みな立ったまま話し合いをしている。

「思ったほど、警備の強化がされてないわね」

 とノア。ヤスークが見つかった事で、侵入者に気付いた敵が、警戒レベルを高くするだろうと予想したのだが、あまりそういった実感がない。要所に人員は配置されているのかも知れないが、目立って警備兵の数が増えたようには見えなかった。

「人手が足りてねぇんじゃね?」

 ノヴァルナが意見を言うと、カーズマルスが一つ頷いて「それもあるでしょう」と応じ、自分の考えを述べる。

「捕らえられたヤスークが、まだ子供で、一般人に見えるのが幸いした可能性が、高いと思われます」

 確かにそうであった。ヤスークは身体能力の高い“強化奴隷”ではあるが、見た目は黒人の少年で、立ち居振る舞いも一般人だった。
 捕らえられたのが兵士であったなら、敵も一気に警戒態勢を敷くであろうが、子供であったため、侵入者の素性の判断を、保留していてもおかしくはない。そこに再びノアの言葉。

「でも、早くヤスークを助け出さないと、いけないのも確かよ」

「分かってる」と頷くノヴァルナ。

 ノアの言葉も正しい。敵がヤスークを生かして捕らえたのは、彼の身元と仲間の有無。仲間がいた場合の素性。どうやってここへ来て、なんのために施設へ進入したかなどを、聞き出すために他ならない。そして『アクレイド傭兵団』の第三・第四階層や、ピーグル星人といった凶暴な連中なら、相手が少年であろうと、拷問も辞さないはずであった。ノヴァルナはそれぞれの顔を見ながら指示を出す。

「俺とカーズマルスでヤスークを救出する。ノアはメイアとマイアを連れ、動力炉制御室の方を頼むぜ」
 
 ノヴァルナはカーズマルスに、小部屋にあったコンピューター端末にデータパッドをアクセスさせ、手元のセキュリティ情報を最新の状態に更新した。

 それによるとヤスークは、管理指令棟三階の保安警備室へ連行されたようだ。場所は円形の空洞内部の反対側。ノヴァルナとカーズマルスには、来た道を引き返す事になる。だがヤスークの命が掛かっているのだから、勿体ないと思うような話ではない。さらに話を詰めたノヴァルナは、強い口調で告げる。

「時間が来たら今までの分も、派手に行くからな。よし、状況開始!」



 ノヴァルナからの信号は、施設の外部で待機していた別動隊にも送られた。離着陸床の最下部、洞窟との境界近くに潜むテン=カイら七人は、消音モードにした偵察用プローブを起動。四基のプローブを、夜陰に紛れて飛び立たせる。四基は操縦者の思い思いの方向へ、静かに消えていった………



「子供? 子供がここへ、忍び込んでいたのか?」

 管理指令棟の保安警備室の中で、そう言って小首を傾げたのは、少し前にプラットフォームでドン・マグードと話をしていた、筋肉質で金髪角刈り、大きな鷲鼻の男であった。男の眼の前には、椅子に拘束されたまま頭を垂れ、気を失っているヤスークの姿がある。
 鷲鼻の男の名はバシッド・ラク=メッツァ。『アクレイド傭兵団』の大佐で、この秘密施設の司令官であった。大佐は傭兵団の第三階層では、最高階級である。

「どういう事だ?…この惑星には我々以外、人間は居ないはずだぞ」

 不時着した『バノピア』号の事を知らないメッツァ大佐が、理解に苦しむのも無理はない。非合法移民だとしても、わざわざ巨大生物―――怪獣が跋扈ばっこするこんな惑星に、移民などしないだろう。

「ムクマッハ・シア・ラジェ・フシュ・メック・ラサシュ!?」

 ヤスークの傍らに立つドン・マグードが、愛用の金属棍を体の前で立て、両手を乗せてピーグル語で告げる。それを通訳の男がメッツァ大佐に、皇国公用語で伝えた。

「我々の船に潜り込んで、ラジェから密航したのかも知れない、と言ってます」

「何のために?…好奇心でか?」

 メッツァが訝しげな表情で問い質すと、ドン・マグードは豚のような鼻から、ひとかたまりに息を吹いて、“さぁな”とばかりに肩をすくめる。そして黒い六角金属棍を持ち上げて、その先端を気を失ったままのヤスークの顔に近付け、今度は通訳を介さずに自ら公用語で言い放った。

「なぁに。このガキに直接訊けば、いいだけだ」




▶#09につづく
 
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