240 / 379
第9話:魔境の星
#27
しおりを挟む「やったぜ!」
ヤスークの跳躍成功に、ノヴァルナはガッツポーズを見せる。屈強な陸戦隊員からも、控え目な「おお…」という感嘆の声が漏れた。当然ながら自己流で無駄が多く、棒高跳びとしては決して綺麗とは言い難いフォームであったが、ここは成功すれば何でもいい場面だ。
感情こそ口調には乗せないがテン=カイも、顔を隠す黒いホログラムスクリーンの奥で、ヤスークに対し高い評価を述べる。
「身体能力を人為的に向上させてあるとはいえ、素晴らしいですな。おそらくこの惑星の過酷な環境下で生きる事で、さらに肉体が鍛えられたのでしょう」
しかしヤスークの仕事はまだ終わってはいない。バックパックを肩から外しながら起き上がり、その横側にあるサイドポケットに入れられていた、小型カメラを取り出す。偵察用プローブから取り外したものだ。それを手にしてヤスークは、フェンスの制御盤に向かった。一方ノヴァルナらも、フェンスに設けられた扉の前へと移動する。
制御盤の前に辿り着いたヤスークは、小型カメラのレンズを向けた。その映像をデータパッドの画面に映し出した、カーズマルスが指示を出す。
「…そうだ。その左から二つ目と三つ目のスイッチを切って、右端にあるレバーを三つとも、下に下げるんだ」
ヤスークが指示に従って制御盤を操作すると、陸戦隊員の一人が手にしていたスキャナーが、フェンスの高圧電流の停止を知らせた。その隊員の「電流停止」の報告に、すぐさまカーズマルスが合図をし、別の隊員が扉に取り付いて、アナログ式の鍵をピッキングする。アナログ式であるのは、高圧電流が流れるフェンスに、電子錠は取り付け難いからだ。手際よくピッキングされた鍵は瞬時に開く。
「急げ!」
声量を抑えて促すカーズマルスの言葉に、まず二人の陸戦隊員がライフルを構えたまま、扉をくぐった。それに駆け足で続くノヴァルナ達。動体センサーは無効化してあるが、さすがにフェンスの電流が停止すれば、中にいる施設の者達に、何らかの信号が送られるはずだ。
ガンザザに続いて最後に入った陸戦隊員が、扉を閉めて鍵をかけ直すと、制御盤の前まで来ていたカーズマルスが、ヤスークに代わってフェンスへの通電を再開させる。ヤスークが電源を切ってから、ここまでおよそ三分の早業である。しかしそれでも警戒は必要だ。ヤスークがクッション代わりに使ったバックパックを回収して分散。離着陸床の支柱の陰に潜んで状況を窺う。
するとやはりフェンスの異変が知らされたのだろう、しばらくすると支柱に囲まれた中心部に、上からエレベーターが降りて来た。
到着したエレベーターが開き、中から三人の男がアサルトマシンガンを手にして出て来る。二人はヒト種で、一人はモグラのような頭を持つクロウラ星人だ。三人とも作業着に簡易型のボディアーマーを装着しているが、仕様はバラバラだった。
“ありゃあ、『アクレイド傭兵団』の第三か、第四階層だな…”
現れた男達の身なりから、ノヴァルナはそう判断した。ならず者同然の第四階層と、一応は兵士の体を成している第三階層は、どちらも武器以外の装備品は自前で調達しているため、見掛けで判断するのが難しい。
カーズマルスの陸戦隊が支柱の陰から、いつでもライフルを撃てるよう構える前で、三人の男達は急ぐでもなく、フェンスの制御盤の確認に向かった。そして元の状態に戻されている制御盤を覗き込み、一人が「どこも異常は無さそうだぞ」と言う。別の一人は横側のパネルを開いて、制御盤の中まで見たものの、最初から興味なさげだ。ろくに確認もせずに「壊れてなくないか?」と告げた。
さらにクロウラ星人はフェンスの近くまで進み、地面に落ちていた小枝を拾い上げて、フェンスに向かって投げつける。その小枝が触れた瞬間、バチン!…という音と共に火花が飛び散り、黒焦げになった小枝は、白煙を上げて落下した。これに驚いた二人のヒト種が抗議の声を上げるが、クロウラ星人の男は意に介さない様子で、「電流も通ってるぜ」と応じる。
クロウラ星人の粗忽さに批判的な眼を向けながら、一人の男が通信機を手にして電源を入れる。
「監視室。こっちは異常無さそうだぞ。フェンスも電流が通っている」
少しの間を置いて通信機から、面倒臭げな男の声で返答があった。
「了解した。どうせまたエラーだろ。ったく、このまえ修理したとこだってのに。いいぞ、三人とも引き上げてくれ」
これに「わかった」と応じて通信を切った男は、あとの二人に振り向いて“というワケだ”と、無言で両肩を大きくすくめさせる。やれやれ…といった様子で引き上げる三人が、エレベーターに乗り込んで上へ上がって行くのを見届け、ノヴァルナ達は支柱の陰から出た。油断していい場面ではないが、全員が少し息をつく。
「よくやった。ヤスーク」
ノヴァルナがそう褒めると、ヤスークは嬉しそうに相好を崩した。これまで他の人間に逢った事が無かったため、直接誰かに褒められるという経験が、なかったのだろう。
さらにノアも「ありがとう」と礼を言うと、ヤスークは頬を染めて目を輝かせ、カレンガミノ姉妹にも褒めてもらいたそうに振り向く。表情こそほとんど変えないものの、優しげな眼で二人揃って頷くメイアとマイアに、ヤスークは小躍りせんばかりの反応である。まぁこの辺りは、初めて女性を見る“年頃の少年”としては、無理のない反応といったところだ。自分も褒めた事を、一瞬で忘れ去られた感のあるノヴァルナは、傍らで少々不満そうであったが………
▶#28につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~
こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。
人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。
それに対抗する術は、今は無い。
平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。
しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。
さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。
普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。
そして、やがて一つの真実に辿り着く。
それは大きな選択を迫られるものだった。
bio defence
※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。
マスターブルー~完全版~
しんたろう
SF
この作品はエースコンバットシリーズをベースに作った作品です。
お試し小説投稿で人気のあった作品のリメイク版です。
ウスティオ内戦を時代背景に弟はジャーナリストと教育者として、
兄は軍人として、政府軍で父を墜とした黄色の13を追う兄。そしてウスティオ
の内戦を機にウスティオの独立とベルカ侵攻軍とジャーナリストとして、
反政府軍として戦う事を誓う弟。内戦により国境を分けた兄弟の生き方と
空の戦闘機乗り達の人間模様を描く。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

シーフードミックス
黒はんぺん
SF
ある日あたしはロブスターそっくりの宇宙人と出会いました。出会ったその日にハンバーガーショップで話し込んでしまいました。
以前からあたしに憑依する何者かがいたけれど、それは宇宙人さんとは無関係らしい。でも、その何者かさんはあたしに警告するために、とうとうあたしの内宇宙に乗り込んできたの。
ちょっとびっくりだけど、あたしの内宇宙には天の川銀河やアンドロメダ銀河があります。よかったら見物してってね。
内なる宇宙にもあたしの住むご町内にも、未知の生命体があふれてる。遭遇の日々ですね。

銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者
潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる