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第9話:魔境の星
#17
しおりを挟む惑星調査のセオリーとして、その日一日を充分に使用するため、着陸の時間が朝となるよう調整したノヴァルナ達であった。着陸地点は目的地である『アクレイド傭兵団』秘密施設から直線距離で約二十キロの位置。徒歩での接近は密林である事を考慮し、目的地到着は余裕を見て翌日朝を予定していた。
ところが特殊巨大生物―――“怪獣”の襲撃が、到着直後から複数回発生した事により、予定は大幅に遅れてしまっている。散々密林の中を右往左往したのだが、カーズマルスがレーザー測定したところでは、現在位置から目的地までは、直線距離でまだ半分ほどしか進んでいないらしい。そしてそうこうしているうちに、陽が沈み始めてしまった。夜に移動を続けるのは、あまりにも危険だ。
「仕方ねぇ。きょうはここまでだ。カーズマルス、野営の準備を頼まぁ」
仁王立ちをしたノヴァルナが言う。その背後には垂直に高く切り立った岩盤と、横に深く抉れた洞窟状の裂け目がある。ノヴァルナがここで仁王立ちになっているのは、背後の岩盤の裂け目を、今夜の野営地にするという意思表示だった。
確かにここであれば、警戒の方向を限定する事が出来、万が一逃げ遅れても、裂け目の奥に退避が可能だ。
カーズマルスの指示でヒト種の陸戦隊員三人が、野営の準備を始める。その間にノアの指示でカレンガミノ姉妹が、マーティシア星人とバドリオル星人の陸戦隊員と共に、周辺警戒に入った。ほどなく周囲に、動体感知装置と赤外線感知装置が設置され、野営地が完成する。
先にガンザザとテン=カイ、そして陸戦隊員の半数を休息させたノヴァルナは、焚火代わりのヒ―トランプを挟んで向かい合わせに座り、ウォーダ軍の戦闘糧食を頬張っていた。初めて訪れた惑星だけあって、夜の密林から聞こえて来る様々な生き物の鳴き声は、どれも聞いた事のないものばかりだ。
「どうだ。美味くなったろ?」
戦闘糧食のシチューを口に運んだノヴァルナは、味に頷いてノアに問い掛けた。ノアが「そうね」と同意すると、ノヴァルナは自慢げに言う。
「あれから新しくさせたんだ。けっこう金掛けたんだぜ」
ノヴァルナが言う“あれから”とは、八年前の惑星パグナック・ムシュで二人で過ごした、サバイバル生活の事である。当時の戦闘糧食を口にしたノヴァルナは、その味の悪さに「こんなもの俺の兵に喰わせられるか」と憤慨していた。そしてその時の自分自身への約束通り、帰還後に戦闘糧食の味を刷新させたのだ。そういったところに気を配るのも、ノヴァルナの本質と言える。
ノヴァルナとノアの間に置かれた円柱型ヒ―トランプは、黄色い光を明るく放っている。ただ周囲は密林であるのに、光に群がって来る昆虫はほとんどいない。これはヒ―トランプの放つ光が、昆虫類には認識できない波長のものであるからだ。もっとも惑星によって棲息する昆虫類の生体機能も違うため、通用しない惑星もあるのだが。
「すまねーな。付き合わせちまって」
ノヴァルナが口の中の糧食を飲み下してそう言うと、ノアは口にしつつあったパンプキンシープを、吹き出しそうにして「あなたにしては珍しいこと言うのね」と言葉を返し、そして「いえいえ」と陽気に応じた。
「今回は『ホロウシュ』の人達全員を囮に使って、あなたの居場所を秘匿する作戦だもの。護衛は私達にまっかせなさーい」
ノアが言う“私達”とは、彼女自身とカレンガミノ姉妹の事である。だがノアをこの旅に連れて来たのは、バイオノイド:エルヴィスとの邂逅において、『アクレイド傭兵団』の中核部分に触れる機会を得る可能性も高く、その場合、ノアの知識があった方が、即応し易いからであった。
そしてそこにはノヴァルナの『アクレイド傭兵団』に対する、強い警戒感があるのは言うまでも無い。
イガスター宙域の特殊傭兵や、元モルンゴール帝国の兵を中心とする傭兵惑星サイガンなど、他にも傭兵組織は幾つかあるが、そのどれもが営利目的であるのに対して、『アクレイド傭兵団』は探れば探るほど謎が深まり、最終的に何を目的に動いているのか見当もつかないままだった。
「いやいや。俺を護衛してくれって、話じゃねーだろよ」
ノアの物言いに苦笑いするノヴァルナ。それでもカレンガミノ姉妹は、地上戦でもBSIパイロットでも、『ホロウシュ』に引けを取らない一線級レベルであり、BSHO『サイウンCN』に乗ったノアは、ノヴァルナが“トランサー”を発動しない限り互角以上の技量を見せて来る、天才的才能を有しているのは確かだ。そんなノアは「ふふっ」と笑みをこぼして、少しはにかんで告げる。
「でも、ありがとう。またこうしてあなたと冒険できて、ちょっと楽しいかも」
「ったく、いつまでたっても、じゃじゃ馬姫のままだな。おめーは」
「あなただって、“オ・ワーリの大うつけ”のままじゃない」
苦笑いしながら言い合うノヴァルナとノア。とその時、警備に立っていたメイアから連絡が入る。
「こちらメイア=カレンガミノ。動体センサーが、こちらへ向かって来る反応を、検出しました。距離約二百五十」
▶#18につづく
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