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第9話:魔境の星
#16
しおりを挟むキーズ城を巡る戦いは、二日前にデュバル・ハーヴェン=ティカナックが予想した通り、結果的に短時間―――三時間ほどで終了した。ミョルジ軍の唯一の勝機であった、敵将ノヴァルナに対する集中攻撃の芽を潰された以上、当初の戦略に沿って、セッツー宙域アクターヴァン星系での決戦態勢を整えるための、足止め作戦に切り替えざるを得なくなったからだ。
そしてここでも前回のナグオーク・キヨウ星系同様、ミョルジ側司令官の早期離脱が起こった。ウォーダ艦隊がキーズ城のある第三惑星ヘレデバイトを、戦艦主砲の遠距離射撃圏内に捉えた時にはすでに、敵将ソーン=ミョルジはキーズ城を脱出して、直卒の小艦隊で星系の反対側外縁へ向かっていたのである。
司令官を失ったキーズ星系防衛軍はウォーダ艦隊到着後、一定の抗戦は試みたものの、損害が大きくなる前に降伏を申し出て来た。ここでも防衛軍の主力は元皇国軍の集団であり、戦意に乏しい兵ばかりであったためだ。
ただそれでも、このキーズ星系攻略でウォーダ軍が消費した日数を数えれば、安穏とはしていられない。戦力を再編し決戦地のアクターヴァン星系へ向かうには、最低でも五日は掛かる。
情報によればナグオーク・キヨウ星系や、このキーズ星系の残存戦力だけではなく、タンバールなど周辺宙域に駐屯していたミョルジ軍も、アクターヴァン星系へ集結しつつあるらしい。最終的にアクターヴァン星系では、ミョルジ側の方が戦力的に優位に立っている可能性もある。それに何より、アクターヴァン星系が位置するセッツー宙域は、いまだにエルヴィス・サーマッド=アスルーガが、NNLシステムを掌握しており、圧倒的不利な状況に置かれるだろう。
そこでこの状況打開の要となるのが、ノヴァルナとエルヴィスとの邂逅である。
エルヴィスと直接対面し、銀河皇国のNNLシステムの掌握を諦めさせる―――この計画が発動される前、ノヴァルナが集めた重臣達に告げた言葉であった。無論その言葉の中には、“力づくでも”という選択肢も含まれている。
親衛隊の『ホロウシュ』まで含めて、ウォーダ軍の全てを陽動に使用し、なおかつ配下の兵の損耗を避けるために、ノヴァルナは僅かな仲間と共にアルワジ宙域に向かったのだ。
そしてそのノヴァルナは今も、新たな脅威の出現に、第三惑星ジュマの密林の中を、叫びながら駆けていた。
「みんな、逃げろ逃げろ! ヤベぇって!!!!」
密林の中を逃げるノヴァルナ達を追っているのは、首がダチョウのように長く伸びた、四足歩行の怪物が二頭。平らな形の尾の先までは二十メートルほど。大きく開いた口に並ぶ尖った歯は、明らかに肉食である事を示していた。
約三時間前に遭遇した“地底怪獣”より、胴体そのものは遥かに小型だが動きは俊敏で、密集した樹木の幹や太い枝の中を、まるで泳ぐように追跡して来る。背後を走るカーズマルス=タ・キーガーが、大声で進言する。
「ノヴァルナ様! すぐに追いつかれます、迎撃しましょう!」
今度の“首長怪獣”は、偵察用プローブの誘導や通信装置に使用する、電波に反応したのではなく、純粋にノヴァルナ達を捕食対象と認識しての追跡のようであった。偵察用プローブを囮にするために飛ばしたのに、“首長怪獣”は見向きもせずに、ノヴァルナ達を追って来たのだ。
「仕方ねぇか…」
ノヴァルナは諦めたような眼をして呟いた。ノヴァルナが言うところの“怪獣”から、ひたすら逃げ回っていたのは、自分達の目的とは無関係な原住生物を、無闇に殺害したくないという思いがあったからだった。しかし危機を回避しようが無いとなると、仲間の命に背に腹は代えられない。
「わかった、カーズマルス。迎撃を許可する!」
ノヴァルナの指示に「御意!」と応じたカーズマルスは、肩に固定した通信機を通じて、部下の特殊陸戦隊員に下令した。
「分隊。ここで迎撃する。火器使用を許可」
カーズマルスはそう告げると、三人のヒト種の陸戦隊員と共に停止。ブラスターライフルの安全装置を外すのと、背後を振り返るのを同時に行う。木々を掻き分けた“首長怪獣”の、長く伸びた首がそこにあった。
次の瞬間、いや彼等がトリガーを引くその直前、“首長怪獣”の頭上、さらに高い木々の間から、二人の陸戦隊員が飛び降りて来た。カマキリのようなマーティシア星人と、鳥から進化したバドリオル星人である。
ヒト種より森林での活動能力に秀でた二人の異星人は、大型アーミーナイフを片手に、“首長怪獣”の首根っこにしがみつくと、鋭く尖った刃を突き刺し、ザクリと引き裂いた。絶叫し、大量に流血しながら転倒する二頭の“首長怪獣”。
二人の異星人陸戦隊員が素早く身を翻したところに、カーズマルスら四人が、ブラスターライフルの一斉射撃を浴びせる。比較的小型であった“首長怪獣”は、これに耐え切れずに絶命した。
「まったく。次から次へと…」
ジュマに着陸してまだ半日ほどでのこの現状。ガンザザは早くも疲労困憊といった口調でぼやいた。
▶#17につづく
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