銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第9話:魔境の星

#09

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 皇国暦1563年6月23日。ユラン星系にいるノヴァルナ達は第四惑星ラジェから、第三惑星ジュマへ向けて出発した。

 船は『クーギス党』の『ラブリードーター』ではなく、『ブローコン』という名の旧式貨物船。ガンザザの持ち船で、イーマイア造船のC‐44『ランブッド』型をベースに、独自の改造が施されている。『クーギス党』が名を騙っている“パリウス宙運”は、ラジェの宇宙運輸管理局に登録されてしまっているため、行動の追跡が可能なユラン星系内では、勝手に隣の第三惑星ジュマに行くなど、迂闊に動けないからだ。ただ潜宙艦の『セルタルス3』は、管理局も存在を知らないため、護衛として『ブローコン』の後方で警戒にあたっている。

 高々度ステルス艦―――潜宙艦は基本的に、航行用の弱出力センサー波を放出しているだけで、戦闘用の高出力センサーは非常時以外使用しない。その代わり、他の宇宙船が発するセンサー波を感知する、高感度パッシブセンサーを常時、全方位に向けて作動させている。

 その『セルタルス3』のパッシブセンサーが、ノヴァルナ達の『ブローコン』号からのもの以外の、航行用センサー波を感知したのは、第四惑星ラジェを離れてしばらくしての事だった。

「艦長。こちらを見て下さい」

 電探長が差し出すデータパッドに、『セルタルス3』の艦長は眼を遣る。潜宙艦は隠密性を高めるために、作戦行動中はNNLシステムを全て、艦内のみのローカルモードで運用する。

「これは…ノヴァルナ様の船に後続しているな」

 データパッドの画面が映し出す、この艦が今しがた感知した、未確認宇宙船からのセンサー波を解析したデータに、艦長は表情を引き締めた。
 顔を見合わせる艦長と電探長。二人が懸念を感じたのは、このセンサー波を放出している未確認宇宙船が、ノヴァルナ達のあとをつけている可能性についてだ。

 第三惑星ジュマは植民惑星ではないため、第四惑星ラジェとの間で宇宙船の往来がある事は、ほとんど無いはずである。あるとすれば『アクレイド傭兵団』の秘密施設絡みの船が、まず考えられる。そうであるならこの未確認宇宙船に尾行の意思の有無を問わず、ジュマへ向かっているノヴァルナの船を、知られるのはまずい。ノヴァルナの乗る『ブローコン』は民間の貨物船であり、後方への探知能力は高くない。おそらくついて来ているこの船を、距離的にまだ探知出来ていないはずである。
 
 潜宙艦『セルタルス3』は、難しい判断を迫られた。ロッガ家の軍用輸送艦を改造した『ラブリードーター』であれば、軍用秘匿回線を使用して、ノヴァルナに尾行している可能性がある未確認宇宙船の存在を通報できるのだが、ガンザザの『ブローコン』号は民間貨物船のため、そのような装備はない。

 考える眼をする艦長に、副長が意見を述べる。

「後続船もセンサー波の出力から、民間船だと思われます。後方へ回り込んで雷撃すれば、気付かれないまま、一撃で撃破は可能ですが…」

 それは艦長も分かっていた。ただここでの未確認宇宙船の撃破が、どのような事態を引き起こすかが不明だ。最悪の場合、ミョルジ家の最大の敵のノヴァルナが、自分達の勢力圏の只中に、全くの手薄な状態で居る事が発覚する恐れがある。

 そこに電探長から“待った”が掛かる。

「艦長。パッシブセンサーに新たな反応です。先に発見した宇宙船の後方に、さらに二隻の宇宙船が発見されました」

「む?」

 『セルタルス3』の指揮を執る、円形の発令室の中央に、戦術状況ホログラムが展開されて、三隻の未確認宇宙船がマーカー表示される。発令所は通常の宇宙艦の艦橋にあたる部署だ。NNLシステムをローカルモードにしているため、戦術状況ホログラムに書き出される情報はかなり少ない。

「未確認宇宙船は互いに、通信を交わしているようです」

 通信長が報告し、スピーカーから傍受した通信の音声が流され始める。耳障りな男の声だが、言語自体は銀河皇国の公用語ではなく、聞いた事がないものだった。発音が荒々しく、口喧嘩でもしているような印象を受ける。

「知らない言語だな。どこの種族だ?」

「分かりません。NNLのアーカイブを開けば、分かるでしょうが…」

 艦長の問いに語尾を濁す副長。NNLのアーカイブを開くという事は、NNLのメインシステムに接続する事になるので、今は出来ない。ただ戦術状況ホログラム上の反応では、三隻は争っているのではなく、合流しようとしているようだ。揃ってジュマに向かうつもりらしい。数が増えた以上、下手に雷撃を仕掛けるのは危険度を増すだけだ。

「よし。今のうちに加速し、ノヴァルナ様の船の前方へ出よう。後続する船がある事を直接お伝えして、一時的に航路を変更されるよう、意見具申するんだ」

 結果的にこの艦長の判断は正しく。『ブローコン』が針路を変えると、三隻の未確認宇宙船はそのまま、ジュマに向かって行った。尾行していたのでは、なかったのだ。


 ところがこの、ノヴァルナ達を追い抜いて行った三隻の未確認宇宙船には、思いも寄らぬ因縁の人物が乗っていたのである………




▶#10につづく
 
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