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第9話:魔境の星
#08
しおりを挟むノヴァルナ達が『アクレイド傭兵団』の秘密施設がある、第三惑星ジュマへ向かう準備を始めた皇国暦1563年6月21日。ミョルジ家のトゥールス=イヴァーネルが守備していた、ナグオーク・キヨウ星系のショーリュジン城を二日前に陥落させたウォーダ軍は、早くも次の攻略目標であるソーン=ミョルジが立て籠もる、キーズ星系へ向け移動を開始していた。
狐を意匠した白い仮面を被るノヴァルナは、総旗艦『ヒテン』と第1特務艦隊旗艦の『クォルガルード』に乗る二人。だがこの二人共が影武者である事は、各基幹艦隊の司令官を務める武将と、一部の兵のみが知る話である。
ショーリュジン城攻略戦を通じてミョルジ家は、『クォルガルード』からBSHOで出撃した方が、本物であったと認識したようだが、こちらも中身は別人だった。
その『クォルガルード』の艦橋に、『ヒテン』のヴァルミスをはじめとする、各基幹艦隊司令官が等身大ホログラムで参集し、仮面のノヴァルナからの指示を受けている。
「会議でも伝えたように、キーズ星系のミョルジ軍も、戦力はそう多くない。戦術も遅滞戦術を取って来るはずだ。したがってこちらは、それを逆手にとって連続速攻を仕掛ける」
司令官席に座ってそう言う仮面のノヴァルナの両側には、『ホロウシュ』のランとフォークゼムが立っていた。だがフォークゼムはショーリュジン城攻略戦で、仮面のノヴァルナを演じて『センクウNX』に乗っていたはずである。ではこのノヴァルナは誰なのか。
そんな中、ナルガヒルデ=ニーワスが確認の問いを行う。ナルガヒルデは基幹艦隊司令官ではないが、副将格であるので参加していた。
「ナグオーク・キヨウ星系と同じく、敵は艦隊と城を分離して、防衛線を引いている場合も考えられますが、我が方もまた戦力を分散させますか?」
「いや。情報によれば、キーズ城にはショーリュジン城のような、ブラストキャノン衛星はないと聞く。今回は優位な戦力差を活かして、力押しでいいだろう」
ノヴァルナを演じる誰かの返答に、ナルガヒルデは「了解致しました」と頭を下げる。他の艦隊司令官達も含め、とんだ茶番劇であるが、どこにミョルジ家の情報部員が入り込んでいるか、分からない状況では致し方ない。
このやり取りを自分の旗艦の艦橋で見ているキノッサは、仮面のノヴァルナの画像に苦笑いを浮かべた。
「演技が下手ッスねぇ。今度は誰が芝居してるんスか?」
キノッサの言いようからして、どうやらヴァルミスとは別の仮面のノヴァルナは、『ホロウシュ』の誰かが持ち回りで演じているようである。彼等の中には本物のノヴァルナと体型が似た者も何人か居るので、衣装と仮面を身に付ければ、判別は難しいはずだ。
「軍師殿。あれが『ホロウシュ』の誰か、賭けないッスか?」
などと不謹慎な冗談を、悪戯っぽい笑顔で言って来るキノッサに、傍らに立つ参謀長のデュバル・ハーヴェン=ティカナックは、「ハハハ…」と苦笑いを返す。
ただおそらく、次のキーズ城攻略戦は楽な戦いになるだろう…と、ハーヴェンは考えていた。ミョルジ家が主戦場に設定しているのは、NNLシステムの掌握を維持している、セッツー宙域のアクターヴァン星系であるはずで、戦力を集中させるためにもキーズ星系での艦隊戦力の不要な損耗は、先のショーリュジン城攻防戦以上に避けたいはずだからだ。
そして問題なのは、そのアクターヴァン城攻略戦である。もう一人の星帥皇エルヴィス・サーマッド=アスルーガによって、NNLシステムが支配されたセッツー宙域での戦いは、部隊間での戦術情報共有システムが遮断されるなど、かなりの苦戦を強いられる事を、覚悟しなければならない。
ここでハーヴェンが驚いたのはノヴァルナの行動だった。『ホロウシュ』達すら残して『クーギス党』と共に、ミョルジ家と手を切らせるため自ら直接エルヴィスに会って来るというのだ。これはウォーダ側についた、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガがもたらした情報に基づいたものなのだが、星大名家当主の行動としては、常識外れもいいところの話しである。
しかもその計画も、ほとんど“行き当たりばったり”であり、もともとノヴァルナを、規格外の人物であるとは認識していたハーヴェンだったが、これほどまでとは思わなかった。さすがにこれは理解できない。
「キノッサ様」
ハーヴェンは茶番劇の打ち合わせ映像を見据えたまま、キノッサに問い掛ける。
「なーんスか?」
「なぜノヴァルナ公は、あのような危険過ぎる事を、わざわざなされるのです? 重臣の方々も、命懸けで御止めすべきでしょう」
これを聞いてキノッサは、“ミノネリラ三連星”などの旧サイドゥ家系の重臣達は、ハーヴェンの言葉通り思い直すよう説得を試みて失敗した事を告げ、続けた。
「言い出したら、聞かないッスからねぇ。俺っち達は“それがノヴァルナ様の生き方”と、言うしかないッス」
▶#09につづく
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