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第9話:魔境の星

#05

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「ようこそ。“住みよい星、ラジェ”へ」

 ノヴァルナ達が会ったその男は、今しがた行政府の広報ホログラムが映し出したキャッチフレーズを、そのまま口にした。

 男の名はガンザザ。苗字はない。皺だらけの大きな頭に大きく裂けたような口。鼻は“八”の字に穴が開いているだけで、何より特徴的なのは青い瞳の眼が四つ、横一直線に並んでいる点である。ノヴァルナもノアも、モルタナも初めて見る異星人だった。

 ダロン・シティの繁華街にある、場末の地下酒場でガンザザは、ノヴァルナ達を待っていた。黒い頭髪は芝生のように全て上に真っ直ぐ伸び、紫色のバンダナがそれらを一括りにしているように見える。ガンザザは自分が言い放った、“住みよい星…”の皮肉の言葉に、自分で「ムハハハハハ!」と笑い声をあげ、豪快な口調で言い放った。

「よく来てくれたな。ここは俺の奢りだ。何でも好きなものを頼んでくれ」

 酒場の片隅、薄明りに包まれた一角に据えられた楕円形のテーブルで、ガンザザは太い両腕を広げて歓迎の意を表す。酒場にはどこかの異星人文明のものと思われる、奇妙な音楽が流れ、ムハマッの葉を使った水タバコの煙が、独特な甘い香りを含んで漂っている。ここでも様々な異星人が集まっており、中にはガンザザと同じ種族が集まったテーブルもあった。

「初対面だってのに、随分と太っ腹じゃないか」

 場馴れしたモルタナが、口調は軽くとも探るような眼で問い掛ける。するとガンザザは再び「ムハハハハハ!」と、笑い声を発して「そりゃあ、ここは俺の店だからな」と応じた。そして店の奥の方を指さして、さらに続ける。

「話が済んだら、向こうで遊ぶのもいいぜ。ローンポールにフシャーザ、マッキラム…なんでも揃ってるからよ」

 話の流れから、酒場の奥はどうやら賭博場となっているらしい。だがローンポールやフシャーザ、マッキラムといった賭け事は聞いた事が無い。おそらくこの周辺宙域のみで、行われているものだろう。

「悪いが、あたいらはこれでも遊びに来てるんじゃないからね。一杯だけ頂戴するとして、早速本題に入ろうじゃないか」

 ガンザザにそう告げたモルタナは、ノヴァルナに振り向いて「それで宜しいですね? ノヴァルナ様」と、急に臣下らしい口調で確認を取りに来た。正式に家臣となったのであるから、当然の態度ではあるのだが、不意を突かれたノヴァルナは眼を見開いて、思わず「うえっ!?」と頓狂な声を発する。
 
「ノヴァルナ様?」

 不用意なノヴァルナの反応にジト目を返すモルタナ。ノアも同様の視線をノヴァルナに注ぐ。ノヴァルナは戸惑いを隠せないまま、「お、おう。良きに計らえ」と些か中途半端な返事をした。

「ムハハ…そうかい? 俺達ゴラルダン人には“せっかちはリーハをひと瓶、損をする”ってことわざがあるんだが、ああ、リーハってのは、あんたらが言うビールみたいなもんだ」

 どうやらガンザザの種族は、ゴラルダン星人というらしい。だがやはり聞いた事も無い種族だ。「まぁ、そう言うなら本題に入るか」と続けたガンザザだが、それでもすぐに話は脱線を繰り返しだした。これがこの男の癖なのか、種族特性なのかは分からない。
 その“無駄話”によるとガンザザはこの界隈の、いわゆる“顔役”であるらしく、いま顔合わせをしている酒場の他にも、幾つもの店を持っているようだ。それにモルタナが偽名を使った、『パリウス宙運』が持ち込んだ積荷の荷受を行っている輸入企業も、ガンザザの持ち会社だという。

 しかし本題においてガンザザは、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガが、このアルワジ宙域に手配した“現地協力者”当人ではないらしい。正確に言えば“現地協力者の協力者”という事であった。理由については、ガンザザは遠い眼をして語ったものである。

「俺は昔、セッツー宙域で、マツァルナルガ様に、命を救われた事があってな。その借りを返す機会を得たってワケさ」

 これを聞いてノヴァルナは、なるほど…と思った。多くの酒場や輸入会社を持った有力者が、どちらかと言えば敵対的なこの宙域で、ノヴァルナに味方しようとするには、理屈以外の理由があるはずだと考えていたからだ。

 するとガンザザは、四つ横並びになった眼を、ノヴァルナの背後の方へ向けて告げた。

「噂をすれば何とやらだ。現地協力者さんがおいでなすった」

 その言葉に、一斉に後ろを振り返るノヴァルナ達。やって来るのは黒づくめの人影。薄暗い酒場の中で、その人影は闇の部分に溶け込むようだ。やがてその人物はゆっくりと一礼して、ガンザザの隣に腰を下ろした。小さな編み笠状のヘルメット前面の縁からは、黒色の半透明なホログラムスクリーンが下ろされて、顔を隠している。

「来たか。待ってたぞ」

 声を掛けるガンザザに黒づくめの人物は「済まない」と応じる。電子音声で加工された声だ。そしてノヴァルナ達に向き直って、名を名乗った。

「お初にお目にかかります。我が名はテン=カイ。ノヴァルナ様と同じく、銀河皇国の行く末を案じる者にございます」




▶#06につづく
 
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