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第9話:魔境の星

#03

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 賄賂を“快く”受け取った管理局の人間は、データパッドを使って入港許可の処理をその場で行った。その証明書を『ラブリードーター』のコンピューターに転送して、彼等が艦橋を立ち去ると、モルタナは「はっ…」と息を吐き捨てる。

「呆れたもんだな」

 色仕掛け交じりの買収劇に、苦笑いを浮かべたノヴァルナが声を掛けると、予めわざとはだけさせていたと思われる、着衣の胸元を整え直したモルタナは、同じ種類の苦笑いを浮かべて振り返った。

「助かったろ? あたいがに詳しい、美人でセクシーなお姉さんで」

「その美人でセクシーなお姉さんが、実は男じゃなくって女好きってのもなぁ…」

「なに言ってんのさ、前にも言ったろ? あたいは九対一で、一割は男も好きなんだって」

「その比率、聞くたびに男の割合減ってね? 前は二割だったろ」

 冗談の掛け合いをしていると、“頂くものは頂いた”とばかりに、運輸管理局の小型船は『ラブリードーター』との接舷をカットして動き始める。先行して惑星ラジェに向かって行く小型船。艦橋から見えるその後ろ姿に顎をしゃくって、モルタナは真面目な口調で忠告した。

「だけど、気を付けた方がいいだろうね。あたいらの経験上、ああいった手合いが役人をしてる星は、ロクなもんじゃないからさ」

「だろうな」

 頷いて同意するノヴァルナ。税関検疫を現場で行う、末端の職員がこのようなレベルとなると、組織全体に腐敗の構造が浸透している可能性が高い。植民惑星がこのような状況に至るのは、開拓が進み過ぎて社会が停滞し始めた古い植民惑星か、植民に失敗しつつある新興植民惑星の二通りだ。惑星ラジェの場合は、まだ二十年ほど前に入植が始まった惑星であるから、後者ということになる。

 そこへ艦橋の扉が開き、カーズマルスが入って来た。彼も船員服を着ていたが、管理局の人間と顔を合わすのは避けていたのだ。このアルワジ宙域には、カーズマルスの種族である陸棲ラペジラル人はほとんど住んでおらず、無闇に港湾職員などに印象を与えたくなかったからである。

「おう、カーズマルス。いいとこに来た。星に降りる前に、おまえんトコの陸戦隊員を四五人見繕って、こっちへ移乗させてくれ。護衛に付けたい」

「かしこまりました」

 カーズマルスの配下として三十六名の陸戦隊員が、随伴している潜宙艦『セルタルス3』に乗り込んでいた。惑星ラジェの治安が良くなかった場合に備え、護衛を増やすのである。
 
 カーズマルスからの連絡を受け、程なくして『ラブリードーター』の左舷後方から、艶の無い黒色で全体を塗装されたウォーダ軍潜宙艦『セルタルス3』が、ひっそりと接近して来る。真空の宇宙空間であるから音がしないのは当然だが、それでも主恒星ユーラの光を、一切反射させずに近づく光景は、やはり“ひっそり”という表現がしっくり来る。

 『セルタルス3』から移って来た護衛役の陸戦隊員は五人。三人はヒト種の男。もう一人は鳥類から進化したと言われるバドリオル星人の男。あとの一人はカマキリに似たマーティシア星人の女性であった。カーズマルスの話では、バドリオル人はこのアルワジ宙域に母星バドリーがあり、種族的に目立たないらしい。またマーティシア人は、隣接するアーワーガ宙域に母星マーティガがあって、こちらもアルワジ宙域でよく見かける種族だという。

 五人とは『ラブリードーター』の艦橋で対面したのであるが、ここで可哀そうであったのはモルタナだった。大の昆虫嫌いのモルタナは、マーティシア星人の隊員が艦橋に現れた瞬間、その場で本当に飛び跳ねるほど驚いたのである。そして着地と同時に、ノヴァルナの腕にひしとしがみついた。
 ノヴァルナの方は、腕に感じるモルタナの豊満な胸の感触に、悪くない…といった表情をしたのだが、あいにくとこの時には、同じく護衛対象となるノアも艦橋にいたため、物凄い眼で睨みつけられるとばっちりを喰らう。

 それでもさすがにあからさまな拒絶反応は、マーティシア星人に申し訳ないと感じたらしく、その後のモルタナはどうにか平静を装い続けた。



 それから一時間ほどして、『パリウス宙運』を名乗る小船団は、惑星ラジェの大気圏に突入した。賄賂と引き換えに手に入れた入港許可証は正しく作動し、赤道上にある宇宙港の一つへの着陸が許可される。

「赤道直下なのに、地表の気温が摂氏十五度…寒い星みたいね」

 惑星ラジェに関する情報が表示された、ホログラムスクリーンを眺めるノアが落ち着いた口調で言う。ノヴァルナも同じスクリーンに顔を向けて応じた。

「気候自体は安定してるようだがな。都市も赤道付近に集中してるみてぇだ」

 雲間を抜けた船団は、高空から見ると円形に見える都市を目指し、高度を下げ続ける。遥か彼方の地平線に向かって、同じような円形都市が、まるで数珠繋ぎのように並んでいたが、ノヴァルナ達が向かっているのは、それらのどの円形都市よりも大きい惑星首都のダロン・シティだった。




▶#04につづく
 
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