上 下
215 / 339
第9話:魔境の星

#02

しおりを挟む
 
 ユラン星系は第三惑星ジュマと第四惑星ラジェが、人類の居住に適した環境にある。このうち二十年ほど前から、銀河皇国の入植が開始されているのが、第四惑星ラジェであった。第三惑星ジュマの方は、環境そのものは前述の通り人類の居住に適してはいるが、別の理由で入植は行われていない。

 旗艦『ラブリードーター』に率いられた『クーギス党』船団六隻は、ユラン星系に到着すると、惑星間巡航速度で第四惑星ラジェへ向かった。主恒星ユーラの光を受けたラジェは、水色をした半月型に見えている。また第三惑星ジュマも公転位置が近くなっており、こちらはラジェの向こう側で、緑色をした色づき始める前のレモンのような姿を、宇宙の闇に浮かべていた。

 あと一時間ほどでラジェへ着くという距離に達した時、『ラブリードーター』のオペレーターの男がモルタナに報告する。

「お嬢。ラジェから、小型船がこちらへ向かって来やす。どうやら交易保安局の船のようですぜ」

「オーケー。このまま進みな。普段通りさ」

 到着前に保安局が船で積荷の検査にやって来る事は、開拓が始まったばかりの植民惑星では、よくある事であった。宇宙港の検疫設備が、まだ充分に稼働していない場合の代替措置である。そして想像通り、直後に小型船から、“自分達はラジェ宇宙運輸管理局で、検閲に来た”という趣旨の通信が入った。受け入れ了解の返信を命じたモルタナは、艦橋に来ていたノヴァルナに向き直って言う。

「ここはあたいに任せてもらうよ」

 頷くノヴァルナは、カーキ色をベースにした船員の衣服に着替えていた。それだけではなく、ナグヤ=ウォーダ時代のように頭髪の一部に、ピンク色のメッシュを入れるのを復活させ、ノアを呆れさせている。

 やがてラジェ宇宙運輸管理局の小型船が、『ラブリードーター』に接舷した。どこか別の植民星系で、使い古されたものを持って来たらしく、な外観をしている。小型船から乗り込んで来たのは十五名。うち五人が軽武装の護衛兵だ。スーツ姿の十名が管理局職員で、データパッドを手に持った小太りの中年男が、彼等のチーフらしい。

「えーと…『パリウス宙運』ですか。聞いた事のない会社ですな」

 チーフの男が片手で側頭部を掻きながら、もう一方の手に持つデータパッドに表示された、船籍登録票を眺めて問う。『パリウス宙運』などという名もそうだが、登録票自体が偽造なのは言うまでもない。ただ応じるモルタナは慣れたものだ。

「市場開拓ってヤツですよ。これからはこっちの方でも、稼がせてもらおうと思いましてね」
 
 小太りの管理局チーフは「ふぅむ、なるほど…」と応じて、積荷リストに眼を遣る。対消滅反応炉内部の中性子吸着エンハンサーに使用する、希少金属のアヴェラル・コゥや、重力子誘導の効率を大幅に上げるアクアダイト。反転水素の不活性化に欠かせないマフター結晶体など、リストに並んだ品目はエネルギー発生関係の、確かに新興植民惑星では自前で調達しにくく、輸入が必要とされる品々ばかりである。

 …いや、それよりも気になるのは管理局チーフの視線だった。顔は積荷リストを見てはいるが、その眼球はモルタナの方と激しく行き来している。なるほどモルタナはいつもながらの、豊かな胸の谷間も露わにしたへそ出しショートパンツの、肌の露出の多い衣服を身に着けていた。男の視線が行く理由も分かるというものだ。
 モルタナ自身も男の視線に気付いたらしく、“ん…?”といった表情をする。しかも彼女に視線を注いでいたのは、チーフだけでなく同行している他の男達もだ。ただそこからがモルタナらしく、わざと男達に自分の体を晒すように向き直った。

「むほん」

 ひとつ咳払いをしたチーフは、相変わらずモルタナの体と視線を行き来させながら、勿体ぶるような口調で告げる。

「リストは確認しましたが、このラジェはご存じの通り新興植民惑星でして、正式な税関通過となると、審査に少々時間が…」

「時間とは?…どれぐらいでしょうか?」

 キャラ違いの丁寧な言葉遣いを続けるモルタナは、傍らでノヴァルナが吹き出しそうになっている姿を睨みつけて、チーフに問い掛けた。

「一週間ほどになりますかな」

 すまし顔で言い放つチーフ。そんなに長く足止めを喰らっていられる、ノヴァルナ達ではない。しかしモルタナに慌てる様子はなかった。こういう展開を予想していたようで、大きくはだけさせた胸の谷間から、小型の細い六角形の透明スティックを指で摘まみだすと、チーフの男に胸が触れる寸前まで歩み寄って囁く。

「私達、急いで積荷を降ろすよう依頼されていますの…これで、何とかして頂けませんか?」

 そう言ってモルタナが差し出した透明スティックを、チーフは受け取って、先端部分をデータパッドの画面隅に触れさせた。すると画面に数字が表示される。乗り込んで来た男達が、三日ほどは飲み代に困らない金額だ。
 チーフの小太りの男は視線を落とし、間近に迫ったモルタナの胸の谷間を堪能しながら、フリーペイジスティックをポケットにしまい込んで告げた。

「それほどお急ぎなら仕方ないですな…なんとか手配して差し上げましょう」




▶#03につづく
 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

性転換マッサージ

廣瀬純一
SF
性転換マッサージに通う人々の話

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

処理中です...