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第8話:皇都への暗夜行路

#18

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 ハーヴェンが言った通り、状況は常に流動的だ。

 双方がBSIユニットなどの小型機動兵器の発進を控えたため、戦闘は純粋な艦隊戦となった。となると機動力を生かして戦場を駆け回るのは、宙雷戦隊の軽巡航艦とそれに従う駆逐艦である。両軍の宙雷戦隊の働きぶりが、戦場を流動的にさせる事になる。

 ヒルザードが告げたように、敵将トゥールス=イヴァーネルは確かに戦巧者ではあった。ウォーダ軍のBSI部隊は練度が高く、特にカーナル・サンザー=フォレスタ率いる空母打撃群の第6艦隊は、おそらく戦闘力でイヴァーネル艦隊のBSI部隊を圧倒するだろう。そこでイヴァーネルは戦場を、小型機動兵器が使い難い主恒星ナグオッグの近郊…電磁波の強力なエリアに選択したのである。

 しかしウォーダ軍の数的優位は揺るがない。そしてその差をさらに広げるのが、士気の高さであった。ここでも元『ホロウシュ』のナルマルザ=ササーラが指揮を執る第2宙雷戦隊、ヨリューダッカ=ハッチが指揮を執る第6宙雷戦隊が、出色の働きを見せる。

「前方より敵宙雷戦隊、急速接近!」

 オペレーターの報告にササーラは、闘志を漲らせた双眸で命じた。

「敵宙雷戦隊との航過間隔をもっと詰めろ。真正面、ぶつけるつもりで行け! いいや、本当にぶつけて構わん!!」

 旗艦を先頭にした十四隻で、一本棒の縦隊となった宙雷戦隊同士が、正面から向き合って突っ込んで行く。まるでチキンレースそのものだ。そして双方の兵の士気が、勝負の行方を決定する場面である。ササーラの2宙戦と正対した、ミョルジ軍宙雷戦隊司令官も旗艦上で叫ぶ。

「突撃。怯むな、突撃だぁ!」

 一気に詰まる双方の距離。眼前に迫る敵の先頭艦。互いに主砲が発射され、艦腹を覆うエネルギーシールドを掠めたビームが、激しくスパークする。次の瞬間、先に舵を切ったのは、ミョルジ軍の旗艦だった。

「駄目だっ、ぶつかる!!!!」

 右へ針路を逸らすミョルジ軍旗艦。そのあとに続く十三隻。ミョルジ軍旗艦がいた位置を、ガロム星人の厳つい笑顔で仁王立ちのササーラを乗せた、第2宙雷戦旗艦『ファム・バンサー』が突き進んで行く。すれ違いざまに、ほぼゼロ距離から叩き込まれる砲撃に、ミョルジ軍宙雷戦隊は大きな損害を出した。

 しかも、ミョルジ軍宙雷戦隊が回避した先に待ち受けていたのが、ヨリューダッカ=ハッチの第6宙雷戦隊だ。ハッチはミョルジ軍の戦隊がササーラ隊との“チキンレース”に敗北する事を予想し、射撃準備を終えて待ち構えていたのである。
 
「ササーラのおっさんなら、チキンレースに勝つと思ったぜ。全艦攻撃開始!」

 ササーラはまだ“おっさん”と呼ばれるには、些か早すぎる歳ではある。この場合、口の悪いハッチにとってはむしろ、ササーラへの友誼を示す言葉であった。
 急速回避と被弾で隊列が乱れたミョルジ軍宙雷戦隊へ、ハッチの6宙戦が襲い掛かる。四隻の軽巡航艦からの猛砲撃に、ミョルジ側の旗艦は大破し、動力も停止して慣性で宇宙を漂い始める。その先にあるのは主恒星ナグオッグだ。これを見た残りの艦は士気の低さが露呈、散り散りに逃走を図った。

 ハッチの6宙戦は、それら個々の敵艦に砲撃を行いながらも、艦列を乱す事無く大きく上昇を開始する。その進行方向ではササーラの第2宙雷戦隊が、新たな敵の宙雷戦隊と左方向に同航戦を行っていた。これの支援に向かおうというのだ。

 ただ実際にはここでもすでに、ササーラの方が優勢に砲撃戦を進めている。

 単縦陣を組んだ二つの宙雷戦隊が、螺旋を描きながら撃ち合いを演じる様子は、まさに“死の円舞”である。軽巡や駆逐艦は主砲の発射間隔も短い。つまり多くの主砲ビームを撃ち込んだ方が勝ちだ。近い性能を持ったウォーダ軍とミョルジ軍の艦ではあるが、士気と練度で優位に立つササーラ戦隊に、ミョルジ軍の宙雷戦隊はエネルギーシールドを撃ち抜かれ、外殻を抉られ、艦上構造物を破壊されてゆく。

 これに耐え切れなくなったミョルジ軍宙雷戦隊が、ササーラ戦隊から離脱しようとしたところへ、ハッチ指揮下の6宙戦が一直線に突撃して来た。

「主砲、全砲門開け。対艦誘導弾も使用を許可!」

 ハッチの命令で仕掛けた第一撃により、二隻の軽巡航艦と四隻の駆逐艦が、甚大な損害を被って撤退を開始する。残る六隻は反撃を試みたが、立ち向かおうとしたところへ多数の対艦誘導弾が殺到。次々に撃破された。

「よし。やったぜ!」

 この光景に、ガッツポーズをするハッチ。そこにササーラから直接通信が入る。

「こら横着者! 俺の獲物を、二度も掠め取りおって!」

「人聞き悪いッスねぇ。連携ってやつッスよぉ!」

 元『ホロウシュ』のよしみで、馴れた口を利き合う二人。

「だったら今度は、貴様が先に仕掛けていけ!」

「へいへい」

 無駄話はともかく、二人の指揮する宙雷戦隊の活躍が、戦況に功を奏したのは確かであった。ミョルジ艦隊の陣形に穴が開いたからである。そしてこの間隙の発生を見逃さなかったのが、キノッサの参謀長ハーヴェンだった。

「キノッサ様。好機到来と見ます」



▶#19につづく
 
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