銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第8話:皇都への暗夜行路

#17

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 主恒星ナグオッグはスペクトル型G2Vの黄色い主系列恒星。それを背後にしたミョルジ軍迎撃部隊は五個艦隊である。
 対するウォーダ軍は七個艦隊。これとは別に七個艦隊が現在、第四惑星のショーリュジン攻略に向かっている。ウォーダ軍から見ると視界の左側には、第一惑星がかなりの大きさで白く光っていた。自転はしておらず、常に主恒星ナグオッグに向いている昼の面では、表面温度が摂氏五百度近くにもなる。

「第四惑星からの遠距離砲撃があるのは、主恒星とあの第一惑星の間からだ。全艦とも、警戒を怠るな」

 ウォーダ軍の各艦隊司令が異口同音に注意を促す中、ミョルジ艦隊からの攻撃が先に始まる。砲戦距離は約三万、敵戦艦部隊からの先制攻撃だ。距離的に命中を期待するものではなく、牽制の意味合いが強い。緑色の曳光粒子を帯びた三本のビームが、前進中の総旗艦『ヒテン』の左舷側を通過していく。

「敵艦射撃、左舷を通過。損害無し」

 静かな『ヒテン』の艦橋に、オペレーターの声にも動揺はない。仮面を被って前を見据えるノヴァルナの傍らで、ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガが参考意見を言う。

「敵将トゥールス=イヴァーネルは、“三人衆”の中では一番の戦巧者…警戒するに、越した事は無いでしょうな」

 すると仮面のノヴァルナは、穏やかな口調で言葉を返す。

「ほう。貴殿と、どちらが戦巧者なのかな?」

「それは…お聞きになるまでも、ありませんな」

 前を向いたまますまし顔で答えるヒルザード。その直後『ヒテン』の砲術長が、主砲射撃の開始を命じた。

「主砲、撃ち方はじめ!」

 次の瞬間、総旗艦『ヒテン』とこれに従う十六隻の戦艦が、一斉に主砲を発射する。さらに両側に展開した他の艦隊の戦艦も火蓋を切った。たちまち始まる光の矢の応酬。ウォーダ軍の青いビームとミョルジ軍の緑色のビームが、宇宙空間に激しく入り乱れる。そしてさらに両軍の距離が詰まると、重巡航艦以下も砲撃を開始、大小の爆発光が、交差するビームの間で広がっていった。そこへ通信参謀からの報告が入る。

「第6艦隊司令フォレスタ様より、艦載機の発艦命令はまだか、との通信です」

 しかしノヴァルナは首を縦に振らない。

「発艦待て、と伝えよ。まだ恒星に近すぎる」

 BSIユニットなどの小型機動兵器に搭載されているセンサー類では、恒星が発する強力な電磁波を近距離で浴びると、精度低下を招くためだ。現時点で艦載機を出撃させて、混戦になるのは避けたいところである。
 
 仮面を被ったノヴァルナが本物なのかどうかはともかく、新たに司令官として第12戦隊を任されたミディルツ・ヒュウム=アルケティと、第13戦隊を任されたトゥ・キーツ=キノッサにとっては、本格的な艦隊指揮の戦場であった。

 そしてこの二人が指揮を執っているのは、共に重巡航艦六隻という重巡戦隊…つまり互いに同じ戦力であって、腕の競いどころでもある。もしかしたらそういう意図もあって、ノヴァルナはこの二人を並べたのかも知れない。
 また同じ第1艦隊の戦隊司令官には、第2戦隊のナルガヒルデ=ニーワスをはじめとして、カッツ・ゴーンロッグ=シルバータやトゥ・シェイ=マーディンといった、ミディルツとキノッサの出世街道の先を行く将もいる。こうなると刺激を受けないはずがない。

 キノッサが座乗する旗艦の名は『ヘイルヴェルン』。全長355メートルで、三連装28センチブラストキャノンを12基備えた、ウォーダ軍では標準的な『ヴォルトガロン』型重巡航艦の十八番艦である。ただ通常の『ヴォルトガロン』型重巡とは違い、通信機能とデータ処理機能を強化した“旗艦仕様”となっている。戦隊は同型艦で編制するセオリー通り、残る五隻も標準仕様の『ヴォルトガロン』型となっていた。この編制はミディルツの第12戦隊も同様だ。



 主恒星ナグオッグ近くで、ミョルジ軍迎撃艦隊との戦端が開かれて十五分。司令官席に座るキノッサは、早くもそわそわとし始めていた。側面ヴュースクリーンに映る、ミディルツの第12戦隊を意識しての事である。

「正確に敵艦を狙うッス。右舷回頭ののち、左舷回頭で敵を―――」

 キノッサがそこまで言った時、斜め背後から総参謀長のデュバル・ハーヴェン=ティカナックの声が掛かった。

「キノッサ様。落ち着きなされませ」

「ぐ、軍師殿」

 振り向いたキノッサには、焦りの表情がある。

「しかし、隣のミディルツ殿の戦隊。動きに凄く統制がとれてるッスよ。ウチもぐずぐずしてらんないッス!」

 言葉を続けるキノッサ。対するハーヴェンは冷静な声で諭した。

「隣の芝生は青く見える…と申します。我が戦隊の動きも第12戦隊に、引けを取らない見事さ。ここは各重巡の艦長の手腕に任せるべきです」

 ロッガ家との戦いで攻城戦は経験しても、敵との正面からの“殴り合い”の指揮は初めてのキノッサであるから、慣れていないのも無理はない。そしてそんな不慣れな司令官のためにハーヴェンがいるのだ。

「状況は必ず変化します。今は潮目を見極める時…と、判断致します」




▶#18につづく
 
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