銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第8話:皇都への暗夜行路

#16

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 かくして皇国暦1563年6月18日。セッツー宙域及び、カウ・アーチ宙域とイズンミ宙域の一部に勢力を維持している、ミョルジ家のを排除するため、ノヴァルナは軍をキヨウから進発させた。
 その戦力は上洛軍のほぼ全てと、味方に付いた周辺の独立管領。ただし万が一の場合に備えて、キヨウ防衛の戦力として、アーザイル家とガモフ家の艦隊を残してある。自軍の部隊ではなく、他家の部隊を皇都防衛に残すあたりは、これもその相手への信頼の証という、ノヴァルナ流と言える判断だろう。

 一方ヤーマト宙域においては、ノヴァルナの重臣に登用されたヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガの子ヒスターミッドが、同宙域に支配地を持ちミョルジ側に付いているトートリス家に攻勢をかけ、ミョルジ家を側面からも圧迫する手筈である。

 名目上の総司令官は正統新星帥皇のジョシュア。これにより一時的なものではあるが、ウォーダ軍は銀河皇国直轄軍扱いとなり、懸案であった超空間ゲートの使用が許される事となった。つまり短時間での部隊の移動が、可能となったのである。


 対する“ミョルジ三人衆”は、三人がそれぞれ三つの防衛拠点に分かれて指揮を執り、ノヴァルナ軍を迎え撃つ態勢をとった。

 主将格のナーガス=ミョルジが入ったのはセッツー宙域の、ヤヴァルト宙域に隣接する位置にあるアクターヴァン星系。その第三惑星ミーズに建てられているアクターヴァン城である。
 またソーン=ミョルジはセッツー宙域との境界にある、ヤヴァルト宙域のキーズ星系第五惑星キージアにあるキーズ城に入城。ここを防衛拠点とした。
 さらに“三人衆”の残る一人トゥールス=イヴァーネルは、位置がよりキヨウに近い、ナグオーク・キヨウ星系(キヨウの南西側の入り口の意)の第四惑星、ショーリュジンのショーリュジン城を拠点に、戦力の終結を行っている。
 そしてこの“三人衆”の後詰めとして、本国であるアーワーガ宙域から呼び寄せた、重臣のナグフェイル=フーザラの部隊が、セッツー宙域のムーゴ星系は第三惑星のコー・サムス城へ入り、本国から連れて来たなけなしの部隊を配備する。

 だがミョルジ側の全ての将兵に共通して言えるのは、士気が高くないという事であった。ある意味主戦力を成していた、『アクレイド傭兵団』第二階層艦隊が離脱したうえに、自分達が新たな星帥皇に据えたエルヴィス・サーマッド=アスルーガの動向が、ここに来て不明な事がその士気低下の主な原因となっている。本来なら陣頭に立って督戦しても然るべきエルヴィスが、全く姿を見せていないのだ。真相は不明だが、体調不良とも言われている。
 
 超空間ゲートの使用が可能となった事により、出陣の翌日19日にはノヴァルナ軍は、最初の攻略目標ショーリュジン城のある、ナグオーク・キヨウ星系星系に到着する。

 超空間ゲートを使用しての恒星系への進入角度から、主恒星ナグオッグを跨いでの第四惑星ショーリュジン接近となるのだが、ノヴァルナはここで軍を二手に分ける事にした。ミョルジ軍の艦隊が、主恒星ナグオッグ付近に展開しているのが発見されたため、一方の部隊でこれに対処すると同時に、もう一方の部隊を第四惑星へ向かわせて、ショーリュジン城を攻略しようというのだ。

 これはノヴァルナの幕僚に加わった、ヒルザードから得た情報を基にした作戦であった。ショーリュジン城は地上城だが、衛星軌道上には要塞主砲級大口径ブラストキャノン衛星が、複数浮かんでいるという。指揮を執るトゥールス=イヴァーネルはおそらく、迎撃艦隊とブラストキャノン衛星の相互支援で、ノヴァルナ軍を叩くつもりだろう。主恒星ナグオッグ越しのブラストキャノン砲撃は、センサーによる察知が難しいという利点がある。

 そして第1艦隊はミョルジ軍迎撃艦隊との会戦に臨むのであるが、一方のショーリュジン城攻略部隊の旗艦は、ノヴァルナの妹マリーナを、嫁ぎ先のサージ家へ送り届け、遅れてキヨウへ到着した、第1特務艦隊の戦闘輸送艦『クォルガルード』が、担う事となっている。つまり攻略部隊司令官は仮面の武将、ヴァルミス・ナベラ=ウォーダという事だ。

 しかも軍を二手に分ける際、ノヴァルナもヴァルミスと同じ、狐を意匠した白い仮面を着用し始めた。仮面に装備された音声変換機能で、声もヴァルミスと同じになり、喋り方も二人で揃えたため、『ヒテン』に座乗しているのと『クォルガルード』に座乗しているのと、どちらが本物のノヴァルナなのか分からなくなる。
 さらに『ホロウシュ』のラン・マリュウ=フォレスタは、『クォルガルード』へ移乗し、ジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムの方は『ヒテン』に残ったため、護衛の配置からも判別は困難となった。これらは新たに自軍に加わった将兵の中に、敵軍に通じている者がいた場合に備えての事である、と通達されている。

 総旗艦『ヒテン』の司令官席に座る仮面のノヴァルナは、戦術状況ホログラムと光学スクリーン映像を交互に眺め、主恒星ナグオッグの強烈な光に照らされているミョルジ艦隊に対し、戦端を開くよう命じた。

「戦闘開始。各艦隊の砲撃タイミングは、個々の司令官に任せる」




▶#17につづく
 
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