銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第8話:皇都への暗夜行路

#13

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 中央行政府『ゴーショ・ウルム』を辞したノヴァルナは、キヨウの月付近を遊弋中の総旗艦『ヒテン』へ戻ると、主だった家臣の前で、新たな武将達の登用を公式に発表した。

 まずかねてからウォーダ軍の中でも噂になっていた、イーセ宙域シズマ恒星群の元独立管領で、現在は宇宙海賊『クーギス党』を名乗っているクーギス家。そしてその協力者で元ロッガ家特殊陸戦隊指揮官にして、陸棲ラペジラル人のカーズマルス=タ・キーガーと、彼の直属の部下の正式な編入。
 さらに新参のミディルツ・ヒュウム=アルケティを、第12戦隊司令官へ就けると共に、第13戦隊司令官にトゥ・キーツ=キノッサを異動させて来る。それまでの第2護衛司令官から降格されたように見えるが、第12戦隊も第13戦隊も、ノヴァルナ直卒の第1艦隊を構成する事になるため、事実上の昇進であった。

 またノヴァルナ軍の上洛に伴い、周辺宙域の星大名や有力独立管領達も、次々とジョシュアの正統新星帥皇室に従属を申し出て来ており、彼等の領地安堵と編入も同時に発表された。
 カウ・アーチ宙域星大名ハダン・グェザン家当主のタクマットと、その弟のアクタック。セッツー宙域独立管領のカティマート=イクダートと、ダティック=イータムなどがその主だった顔ぶれとなっている。

 そしてこれに続いて発表されたのが、エルヴィスとミョルジ家が籠る、セッツー宙域トルダー星系への軍事侵攻だった。
 ヤヴァルト宙域周辺からミョルジ家勢力を排除し、場合によってはトルダー星系に置かれている、NNLシステムのハブステーションである『ハブ・ウルム=トルダー』の、破壊も視野に入れての決定だ。これによりエルヴィスを、NNLシステムから完全に締め出そうという、ノヴァルナの腹積もりである。

「出陣はおよそ二週間後の6月18日だ。それまでは各兵員に、交代で充分な休養を与えてやれ。勿論、おめーらもな」

 ノヴァルナは各司令官にも休養を取っておくように命じ、会議を終えると、副官のランを従えて執務室へ向かった。すると途中で事務補佐官のジークザルトから、メッセージ通信が入る。小振りなホログラムスクリーンを眼前に展開して、内容を黙読したノヴァルナはニタリ…と不敵な笑みを浮かべた。

 その表情を見て訝しげな眼をするランに、ノヴァルナは人の悪い笑みを向けて告げる。


「ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガが、降伏を申し出るために、わざわざここまでやって来たってよ!」


 
 ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガは、ノヴァルナが以前から興味を抱いている武将の一人であった。

 種族はランと同じフォクシア星人。非常に癖の強い人物だと言われている。ミョルジ家が前当主ナーグ・ヨッグ=ミョルジの時代まで、“ミョルジ三人衆”と並ぶ重臣であり、ミョルジ家がキヨウを支配するようになってからは、ヤヴァルト宙域に隣接するヤーマト宙域を制圧。事実上の星大名格となっていた。
 セッツー宙域土着の有力者の家系出身で、ミョルジ家譜代の武将ではなく、いわば一個人から身を起こして今の地位まで上り詰めた辺りは、ノヴァルナの舅であったドゥ・ザン=サイドゥと通じるところがある。

 実利主義者で現実主義者であり、ヤーマト宙域制圧の過程では、とある惑星の攻防戦で、その惑星に遺されていた貴重な古代文明の遺跡を、勝利優先で敵の地上部隊ごと焼き払うという暴挙も行ったと聞く。

 ナーグ・ヨッグが急死し、“三人衆”が実権を握ってからは、ミョルジ家との距離は微妙なものとなり、“三人衆”が星帥皇テルーザを弑逆しいぎゃくした際には、ヤーマト宙域内にいたジョシュアを逃がした。以後、ミョルジ家との関係は完全に破綻。ジョシュアを擁したノヴァルナ軍の上洛で、ミョルジ家からの離反は確実なものとなったのである。


 執務室へ向かうつもりだったノヴァルナだが、ジークザルトからのヒルザード来訪の連絡に予定を変更し、ランを連れたまま応接室へ行き先を変更した。通路を進みながら、ノヴァルナはランに話しかける。

「フォクシア人と会うの、珍しいんじゃね?」

「それはそうですが…」

「なんだ?…乗り気じゃなさそうだな」

「あまり良い評判を、聞いておりませんので」

 ランは同じフォクシア星人として、ヒルザードに良い印象を持ってはいないようであった。主君への忠誠心という部分で、引っ掛かるものがあるのだろう。だがノヴァルナに気にする様子はなく、あっけらかんと言う。

「いいじゃん。曲者の方が面白れーし」

 そうこうするうちに応接室に着き、扉を開けると、ソファーに座っていた初老の男が、音も無く立ち上がった。狐の耳と尻尾を持つ、初老のフォクシア星人だ。その男は軽く会釈し、穏やかな笑顔を見せる。しかしノヴァルナはその笑顔を一目見て、これは噂以上に油断のならない曲者だそ…と自分に警告した。男はゆっくりと口を開いて告げる。

「これはこれはノヴァルナ殿下。ヒルザード・ダーン・ジョウ=マツァルナルガ、殿下に降伏しに参りましたぞ」




▶#14につづく
 
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