銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

文字の大きさ
上 下
202 / 377
第8話:皇都への暗夜行路

#11

しおりを挟む
 
 ジョシュア・キーラレイ=アスルーガの、正統新星帥皇への即位が交付されたその日、ノヴァルナは『ゴーショ・ウルム』を参内していた。自分的に内心では面倒臭い限りなのだが、行事が行事だけに出向かないわけにはいかない。純白の第一種軍装に身を包んだノヴァルナは、玉座に付いたジョシュアの前に片膝をつき、祝いの言葉を述べる。

「この度のジョシュア陛下のご即位。まことにおめでとうございます。我等一同、これに優る慶びはございません。これより先はさらなる力を尽くし、皇国の秩序回復に努める所存にございます」

 ノヴァルナの言葉を受け、ジョシュアは鷹揚に頷いた。キヨウに来るまでに側近や上級貴族達に、星帥皇という地位に相応しい立ち居振る舞いの、レクチャーでも受けたのであろう、初めて会った頃の浮ついた感じはかなり抑制されている。その上級貴族達は玉座の右側。星帥皇室の直臣達は玉座の左側に並んで立っていた。

「ノヴァルナ殿とウォーダ家並びにトクルガル家、アーザイル家のここまでの多大なる支援に、深く感謝する。余にこの日が迎えられたのも、ノヴァルナ殿らの尽力があっての事。この恩は決して仇や疎かにするものではない。この大功に如何なる恩賞を持って報いるべきか…望むものがあれば、遠慮なく申されよ」

 早くも恩賞の話か…と、ノヴァルナは内心で舌打ちする。この辺りもどうせ、上級貴族達が吹き込んだのだろう。NNLのシステムを掌握したと言っても、まだ何も始めていないというのに、いい気なものである。
 するとジョシュアの側近のトーエル=ミッドベルが、ノヴァルナの批判的な気持ちを知る由も無く、むしろ逆なでするような事を言い出した。

「ジョシュア陛下におかれては、まず第一にノヴァルナ殿への摂政もしくは、関白の地位の授与をもって、大恩に報いたいと思っておられる。望まれる方をノヴァルナ殿に選んで頂きたい」

 “関白”という言葉を聞いて、ノヴァルナは反射的に「やなこった!」と、言いそうになるのを堪えた。別に確定した論理的理由があるわけでは無いが、かつてムツルー宙域へ飛ばされた時の出来事から、自分が関白の地位を得る事で、妻のノアの生死が関わって来る気がしてならないからだ。
 ただそのような理由は抜きにしても、今のノヴァルナにそんな地位は、どうでもいいものであった。他にやるべき事は幾らでもある。

「関白か摂政…にございますか」

 ノヴァルナが確認すると、トーエルは「さよう」と、返答を待つ眼をする。それに対しノヴァルナは、あっけらかんと告げた。


「要りませんな」


 ノヴァルナの素っ気ない拒絶の言葉を聞き、ジョシュア以上に呆気にとられたのが、トーエル=ミッドベルをはじめとする側近達と、バルガット・ヅカーザ=セッツァーをはじめとする上級貴族達であった。摂政も関白も、星帥皇の権威を代行する者であって、地方の星大名がその地位を望んだとしても、容易く手に入るようなものではないからだ。

 ノヴァルナがきっと喜ぶはず…と想像していたらしいジョシュアは、困惑気味に左右のバルガットやトーエルに視線を走らせる。

「ご、ご不要と申されるか? 摂政もしくは関白ですぞ?」

 トーエルもノヴァルナのこの反応は、予想外だったのだろう。口ごもりながら問い質す。無論、ノヴァルナもその地位の価値は知っている。だがノアの生死云々の話を抜きにしても、今のノヴァルナはそのような地位を、欲してはいなかった。必要なのは、銀河皇国にとっての実利である。友であったテルーザも、それを望んでいるだろう。

「折角の有難き思し召しなれど、今は時期尚早と考えまする。まだまだ片づけてゆかねばならぬ事多きゆえ、銀河皇国に秩序と安寧を取り戻したそののちに、改めてゆるりと考えさせて頂きとうございます」

 “興味ねーし”という本音を、無意味な言葉で幾重にも重ね着させ、ノヴァルナはやんわりと言い放った。すると上級貴族の一人が提案する。

「では、どこかの植民星系を領されるのは、如何でしょう? 皇国直轄領の中からお望みの星系を幾つか、譲渡させて頂きまするが」

 しかしノヴァルナは、「それも結構にございます」と首を左右に振る。戦国の世で、“飛び地”のような植民星系をもらっても、維持に無用な戦力を裂かねばならないだけだ。「それよりも―――」と、ノヴァルナはこれから自分と、ジョシュア達が為さねばならぬ事を口にした。

「必要なのはまず、この皇都キヨウの復興。皇国の中心たる皇都惑星と、そこに暮らす人々が落ち着いてこそ、皇国再興の基盤となりまする。そして然るのちに各宙域の戦乱を鎮め、銀河に秩序と安寧をもたらす。そのために陛下と星帥皇室におかれましては、不肖このノヴァルナに、ご助力を頂きとうございます」

 そう言うノヴァルナに、ジョシュアは「勿論、協力は惜しまない」と応じる。だが上級貴族筆頭のバルガットは、思う所があるようで太い眉をピクリと震わせた。それでも口には、そのような気配を出しはしない。

「流石はノヴァルナ公ですな。戦勝に奢らず、常に先を見ておられる。我等としても最大限のご支援をさせて頂きますぞ…もっとも、現状で出来る事などは、知れておりますが」



▶#12につづく
 
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児

潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。 その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。 日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。 主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。 史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。 大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑) ※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。

バグった俺と、依存的な引きこもり少女。 ~幼馴染は俺以外のセカイを知りたがらない~

山須ぶじん
SF
 異性に関心はありながらも初恋がまだという高校二年生の少年、赤土正人(あかつちまさと)。  彼は毎日放課後に、一つ年下の引きこもりな幼馴染、伊武翠華(いぶすいか)という名の少女の家に通っていた。毎日訪れた正人のニオイを、密着し顔を埋めてくんくん嗅ぐという変わったクセのある女の子である。  そんな彼女は中学時代イジメを受けて引きこもりになり、さらには両親にも見捨てられて、今や正人だけが世界のすべて。彼に見捨てられないためなら、「なんでもする」と言ってしまうほどだった。  ある日、正人は来栖(くるす)という名のクラスメイトの女子に、愛の告白をされる。しかし告白するだけして彼女は逃げるように去ってしまい、正人は仕方なく返事を明日にしようと思うのだった。  だが翌日――。来栖は姿を消してしまう。しかも誰も彼女のことを覚えていないのだ。  それはまるで、最初から存在しなかったかのように――。 ※タイトルを『人間の中身はバグだらけ。 ~俺依存症な引きこもり少女と、セカイ系恋愛ファンタジー~』から変更しました。 ※第18回講談社ラノベ文庫新人賞の第2次選考通過、最終選考落選作品。 ※『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【おんJ】 彡(゚)(゚)ファッ!?ワイが天下分け目の関ヶ原の戦いに!?

俊也
SF
これまた、かつて私がおーぷん2ちゃんねるに載せ、ご好評頂きました戦国架空戦記SSです。 この他、 「新訳 零戦戦記」 「総統戦記」もよろしくお願いします。

【BIO DEFENSE】 ~終わった世界に作られる都市~

こばん
SF
世界は唐突に終わりを告げる。それはある日突然現れて、平和な日常を過ごす人々に襲い掛かった。それは醜悪な様相に異臭を放ちながら、かつての日常に我が物顔で居座った。 人から人に感染し、感染した人はまだ感染していない人に襲い掛かり、恐るべき加速度で被害は広がって行く。 それに対抗する術は、今は無い。 平和な日常があっという間に非日常の世界に変わり、残った人々は集い、四国でいくつかの都市を形成して反攻の糸口と感染のルーツを探る。 しかしそれに対してか感染者も進化して困難な状況に拍車をかけてくる。 さらにそんな状態のなかでも、権益を求め人の足元をすくうため画策する者、理性をなくし欲望のままに動く者、この状況を利用すらして己の利益のみを求めて動く者らが牙をむき出しにしていきパニックは混迷を極める。 普通の高校生であったカナタもパニックに巻き込まれ、都市の一つに避難した。その都市の守備隊に仲間達と共に入り、第十一番隊として活動していく。様々な人と出会い、別れを繰り返しながら、感染者や都市外の略奪者などと戦い、都市同士の思惑に巻き込まれたりしながら日々を過ごしていた。 そして、やがて一つの真実に辿り着く。 それは大きな選択を迫られるものだった。 bio defence ※物語に出て来るすべての人名及び地名などの固有名詞はすべてフィクションです。作者の頭の中だけに存在するものであり、特定の人物や場所に対して何らかの意味合いを持たせたものではありません。

処理中です...