銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第8話:皇都への暗夜行路

#05

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 『アクレイド傭兵団』本営艦隊は、以前ノヴァルナが入手した情報によれば、普段はセッツー宙域からカウ・アーチ宙域にかけて遊弋しており、そこには総司令部ともいえる最高評議会が置かれているという。それがこのような所に現れるなど、異例中の異例であった。

「本営艦隊だと…」

 全くの想定外の出来事に、さしものノヴァルナも困惑した。正体不明の艦隊出現の報に接した時は、ミョルジ家なり『アクレイド傭兵団』の通常艦隊だろうと、考えていたのだ。しかもこちらとの交信を求めているという。

“律義に交戦の挨拶…て、ワケじゃなさそうだな”

 とりあえずは向こうが何を言いたいのか、知らない事には始まらない。ノヴァルナが考えを巡らせていると、ヴァルカーツが指示を求めて来る。

「こちらはまもなく、第3艦隊と第15艦隊と合流致します。どのようにすればよいでしょう?」

「連中の話を聴く。この本隊までエスコートしろ」

「かしこまりました」

 エスコートを命じられ、ヴァルカーツは緊張を隠せない表情で通信を終えた。やはりこういった反応は、クローンであっても、オリジナルのノヴァルナとは違うところだ。ノヴァルナはさらに“ミノネリラ三連星”の三人の艦隊を、ジョシュアがいる第12艦隊への護衛に加えた。万が一、相手の目的がジョシュアだった場合に備えてである。
 そこから第1・第4・第6艦隊を前衛中央に、トクルガル家の三個艦隊を右翼、アーザイル家の三個艦隊を左翼に置くよう、配置換えを行った。これでもし、『アクレイド傭兵団』本営艦隊と交戦する事になっても、エスコート役をやらせた三個艦隊を合わせて、敵を包囲する事が可能だ。



 ところがその数時間後、光学映像で『ヒテン』の艦橋内に映し出された、『アクレイド傭兵団』本営艦隊の実際の姿に、ノヴァルナは“コイツはヤバい…”と、奥歯を噛みしめた。赤紅色の鮮やかなカーネーションを思わせる、ヒーガスマ星雲を背景に、全てが赤い光のラインが走る黒色の外殻で統一された、無数の宇宙艦が一糸乱れぬ隊列で接近して来る。不気味であると同時に、相当な実力を有しているのを感じる。第14艦隊が確認した艦数は、最終的に四百隻を越えたという。

 初めて見る『アクレイド傭兵団』の本営艦隊の威容に、『ヒテン』の艦橋にいる士官達もざわついた。彼等も戦闘経験が豊富なだけに、相手の力量を感じ取れるのだろう。

「見ろ、総旗艦級の戦艦が何隻もいるぞ」

「まさか、あれで通常の艦隊級戦艦なのか…」
 
 本営艦隊の戦艦の巨大さに、皆が言葉を交わす。やがてその後方に艦隊旗艦と思われる、さらに巨大な戦艦が出現した。全長は確実に千メートルを超えている。

 ただノヴァルナは、このクラスの戦艦を五年前に見た事があった。皇都惑星キヨウへ向かう旅の途中、中立宙域の惑星ガヌーバで『アクレイド傭兵団』との対立が発生した際、その調停に現れたのだ。艦自体の巨大さもそうだが、主砲の撃ち合いでも、ノヴァルナの『ヒテン』を上回るであろうことは確実に思われる。

“艦の数は俺達の方が上だが…”

 相手方の艦隊が放つオーラのようなものを感じ取るに、数では自分達が優勢であるが、戦うのはマズい…と、ノヴァルナは自身の勘が告げる。すると『ヒテン』のオペレーターが何かに驚いたらしく、不意に声を上擦らせて報告した。

「ア、『アクレイド傭兵団』艦隊後方に、さらなる大型艦出現!」

 総旗艦級に等しいサイズや、それ以上の大型艦を中心とした、『アクレイド傭兵団』艦隊。その後方から悠然と姿を現したのは、『ヒテン』などの総旗艦級サイズの戦艦が、ただの巡航艦に見えるほどの巨大艦だった。ノヴァルナ以下、艦橋にいる者全員が息を呑む。

「!!!!」

 巨大艦の基本形は双胴。本営艦隊の他の艦と同様、漆黒の塗装が全体に施されており、所々に赤い光のラインが走っている。おそらく全長は三千メートル以上あるだろう。艦幅も千メートルはあるに違いない。参謀長のメヒル=デッカーが、巨大艦を見据えたままオペレーターに問い質す。

「なぜ、あれほどの巨大艦がいる事を、察知するのが遅れた!?」

 デッカーに問われた電探科の男性オペレーターは、解析情報の映し出されているモニター画面を、再確認しながら硬い口調で答えた。

「センサー反応の解析結果では、あの巨大艦の全長は、1128メートルとなっております」

「なに…他の総旗艦級戦艦と、同じサイズの反応だと?」

 そう言ってデッカーはノヴァルナを振り向く。それに対してノヴァルナは無言で頷いた。前方の巨大艦は相手のセンサーに、欺瞞情報を与える能力を持っているようだ。そこに『アクレイド傭兵団』本営艦隊が、停止したという報告が入る。

「距離は?」とノヴァルナ。

「前方三万メートル」

 宇宙空間においては指呼の距離で対峙する両軍。やがて『アクレイド傭兵団』の方から、交信要請を呼び掛けて来た。無論、ノヴァルナに断る理由―――いや、選択肢はない。

「繋げ」



▶#06につづく
 
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