196 / 383
第8話:皇都への暗夜行路
#05
しおりを挟む『アクレイド傭兵団』本営艦隊は、以前ノヴァルナが入手した情報によれば、普段はセッツー宙域からカウ・アーチ宙域にかけて遊弋しており、そこには総司令部ともいえる最高評議会が置かれているという。それがこのような所に現れるなど、異例中の異例であった。
「本営艦隊だと…」
全くの想定外の出来事に、さしものノヴァルナも困惑した。正体不明の艦隊出現の報に接した時は、ミョルジ家なり『アクレイド傭兵団』の通常艦隊だろうと、考えていたのだ。しかもこちらとの交信を求めているという。
“律義に交戦の挨拶…て、ワケじゃなさそうだな”
とりあえずは向こうが何を言いたいのか、知らない事には始まらない。ノヴァルナが考えを巡らせていると、ヴァルカーツが指示を求めて来る。
「こちらはまもなく、第3艦隊と第15艦隊と合流致します。どのようにすればよいでしょう?」
「連中の話を聴く。この本隊までエスコートしろ」
「かしこまりました」
エスコートを命じられ、ヴァルカーツは緊張を隠せない表情で通信を終えた。やはりこういった反応は、クローンであっても、オリジナルのノヴァルナとは違うところだ。ノヴァルナはさらに“ミノネリラ三連星”の三人の艦隊を、ジョシュアがいる第12艦隊への護衛に加えた。万が一、相手の目的がジョシュアだった場合に備えてである。
そこから第1・第4・第6艦隊を前衛中央に、トクルガル家の三個艦隊を右翼、アーザイル家の三個艦隊を左翼に置くよう、配置換えを行った。これでもし、『アクレイド傭兵団』本営艦隊と交戦する事になっても、エスコート役をやらせた三個艦隊を合わせて、敵を包囲する事が可能だ。
ところがその数時間後、光学映像で『ヒテン』の艦橋内に映し出された、『アクレイド傭兵団』本営艦隊の実際の姿に、ノヴァルナは“コイツはヤバい…”と、奥歯を噛みしめた。赤紅色の鮮やかなカーネーションを思わせる、ヒーガスマ星雲を背景に、全てが赤い光のラインが走る黒色の外殻で統一された、無数の宇宙艦が一糸乱れぬ隊列で接近して来る。不気味であると同時に、相当な実力を有しているのを感じる。第14艦隊が確認した艦数は、最終的に四百隻を越えたという。
初めて見る『アクレイド傭兵団』の本営艦隊の威容に、『ヒテン』の艦橋にいる士官達もざわついた。彼等も戦闘経験が豊富なだけに、相手の力量を感じ取れるのだろう。
「見ろ、総旗艦級の戦艦が何隻もいるぞ」
「まさか、あれで通常の艦隊級戦艦なのか…」
本営艦隊の戦艦の巨大さに、皆が言葉を交わす。やがてその後方に艦隊旗艦と思われる、さらに巨大な戦艦が出現した。全長は確実に千メートルを超えている。
ただノヴァルナは、このクラスの戦艦を五年前に見た事があった。皇都惑星キヨウへ向かう旅の途中、中立宙域の惑星ガヌーバで『アクレイド傭兵団』との対立が発生した際、その調停に現れたのだ。艦自体の巨大さもそうだが、主砲の撃ち合いでも、ノヴァルナの『ヒテン』を上回るであろうことは確実に思われる。
“艦の数は俺達の方が上だが…”
相手方の艦隊が放つオーラのようなものを感じ取るに、数では自分達が優勢であるが、戦うのはマズい…と、ノヴァルナは自身の勘が告げる。すると『ヒテン』のオペレーターが何かに驚いたらしく、不意に声を上擦らせて報告した。
「ア、『アクレイド傭兵団』艦隊後方に、さらなる大型艦出現!」
総旗艦級に等しいサイズや、それ以上の大型艦を中心とした、『アクレイド傭兵団』艦隊。その後方から悠然と姿を現したのは、『ヒテン』などの総旗艦級サイズの戦艦が、ただの巡航艦に見えるほどの巨大艦だった。ノヴァルナ以下、艦橋にいる者全員が息を呑む。
「!!!!」
巨大艦の基本形は双胴。本営艦隊の他の艦と同様、漆黒の塗装が全体に施されており、所々に赤い光のラインが走っている。おそらく全長は三千メートル以上あるだろう。艦幅も千メートルはあるに違いない。参謀長のメヒル=デッカーが、巨大艦を見据えたままオペレーターに問い質す。
「なぜ、あれほどの巨大艦がいる事を、察知するのが遅れた!?」
デッカーに問われた電探科の男性オペレーターは、解析情報の映し出されているモニター画面を、再確認しながら硬い口調で答えた。
「センサー反応の解析結果では、あの巨大艦の全長は、1128メートルとなっております」
「なに…他の総旗艦級戦艦と、同じサイズの反応だと?」
そう言ってデッカーはノヴァルナを振り向く。それに対してノヴァルナは無言で頷いた。前方の巨大艦は相手のセンサーに、欺瞞情報を与える能力を持っているようだ。そこに『アクレイド傭兵団』本営艦隊が、停止したという報告が入る。
「距離は?」とノヴァルナ。
「前方三万メートル」
宇宙空間においては指呼の距離で対峙する両軍。やがて『アクレイド傭兵団』の方から、交信要請を呼び掛けて来た。無論、ノヴァルナに断る理由―――いや、選択肢はない。
「繋げ」
▶#06につづく
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
銀河戦国記ノヴァルナ 第1章:天駆ける風雲児
潮崎 晶
SF
数多の星大名が覇権を目指し、群雄割拠する混迷のシグシーマ銀河系。
その中で、宙域国家オ・ワーリに生まれたノヴァルナ・ダン=ウォーダは、何を思い、何を掴み取る事が出来るのか。
日本の戦国時代をベースにした、架空の銀河が舞台の、宇宙艦隊やら、人型機動兵器やらの宇宙戦記SF、いわゆるスペースオペラです。
主人公は織田信長をモデルにし、その生涯を独自設定でアレンジして、オリジナルストーリーを加えてみました。
史実では男性だったキャラが女性になってたり、世代も改変してたり、そのうえ理系知識が苦手な筆者の書いた適当な作品ですので、歴史的・科学的に真面目なご指摘は勘弁いただいて(笑)、軽い気持ちで読んでやって下さい。
大事なのは勢いとノリ!あと読者さんの脳内補完!(笑)
※本作品は他サイト様にても公開させて頂いております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
銀河戦国記ノヴァルナ 第2章:運命の星、掴む者
潮崎 晶
SF
ヤヴァルト銀河皇国オ・ワーリ宙域星大名、ナグヤ=ウォーダ家の当主となったノヴァルナ・ダン=ウォーダは、争い続けるウォーダ家の内情に終止符を打つべく宙域統一を目指す。そしてその先に待つものは―――戦国スペースオペラ『銀河戦国記ノヴァルナシリーズ』第2章です。

タイムワープ艦隊2024
山本 双六
SF
太平洋を横断する日本機動部隊。この日本があるのは、大東亜(太平洋)戦争に勝利したことである。そんな日本が勝った理由は、ある機動部隊が来たことであるらしい。人呼んで「神の機動部隊」である。
この世界では、太平洋戦争で日本が勝った世界戦で書いています。(毎回、太平洋戦争系が日本ばかり勝っ世界線ですいません)逆ファイナルカウントダウンと考えてもらえればいいかと思います。只今、続編も同時並行で書いています!お楽しみに!
底辺エンジニア、転生したら敵国側だった上に隠しボスのご令嬢にロックオンされる。~モブ×悪女のドール戦記~
阿澄飛鳥
SF
俺ことグレン・ハワードは転生者だ。
転生した先は俺がやっていたゲームの世界。
前世では機械エンジニアをやっていたので、こっちでも祝福の【情報解析】を駆使してゴーレムの技師をやっているモブである。
だがある日、工房に忍び込んできた女――セレスティアを問い詰めたところ、そいつはなんとゲームの隠しボスだった……!
そんなとき、街が魔獣に襲撃される。
迫りくる魔獣、吹き飛ばされるゴーレム、絶体絶命のとき、俺は何とかセレスティアを助けようとする。
だが、俺はセレスティアに誘われ、少女の形をした魔導兵器、ドール【ペルラネラ】に乗ってしまった。
平民で魔法の才能がない俺が乗ったところでドールは動くはずがない。
だが、予想に反して【ペルラネラ】は起動する。
隠しボスとモブ――縁のないはずの男女二人は精神を一つにして【ペルラネラ】での戦いに挑む。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる