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第7話:目指すは皇都惑星

#16

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「艦隊を出すだと? 本気で言っているのか!?」

 怪訝そうな表情で問い質したのは、カートビット=ガモフ―――未だノヴァルナに恭順の意を示していない唯一の支城、ヒーノス星系第二惑星ファドットの衛星軌道を回る、ヒーノス城の城主である。そしてカートビットが問い質した相手は、今回のロッガ家の防衛戦略を、開戦前にこき下ろしていた、例の嫡男ジークザルト・トルティア=ガモフだ。

「無論です。父上」

 あっけらかんと応じるジークザルトに、カートビットは余計に困惑した声で、さらに意見を交えて問う。

「おまえがあまりにもしつこく、ノヴァルナ殿への恭順を伝えるのを、待つように言うものであるから、その通りにしてやったが…それで今度は艦隊を出せとは、この城を捨て、どこかの星系にでも逃げるつもりか?」

 これに対してジークザルトは、苦笑いを浮かべて言い放つ。

「またそのような、とぼけた事を仰せになる…困った父上ですねえ」

「………」

 カートビットは息子の言いように、無言で首を振る。ガモフ家の家臣達は皆、日頃からジークザルトを、才と器に優れた駿馬だともてはやしているが、ガモフ家存亡がかかる危急の今この時、このように訳の分からぬ事ばかり口にされると、家臣達のそのような評価も、ただの陰口を裏返しにしたものではないのか…と、思わざるを得ない。しかもこのような父親の様子を見たジークザルトは、探るような眼で尋ねて来た。

「まさか父上、本当に艦隊を出す意味を、ご理解頂いていない?」

 この問い掛けに、本気で苛立ちを覚えたカートビットは、忌々しそうに軽く右腕を振り、ジークザルトに意図を明かすよう告げる。

「もうよい! 何がしたいのか、早う言え」

 父親が真剣に怒り出しそうになったところで、ジークザルトは軽く肩をすくめて「申し訳ございません」と応じた。ただそれでも表情にはどこか、舌を出しそうな雰囲気すらある。

「艦隊を出すのは勿論、ノヴァルナ様にお会いするためにございます」

 これを聞いたカートビットは、表情を一気に硬くした。“ノヴァルナ会う”と告げたのを、艦隊で一戦交えるという意味にでも取ったのであろう。だがカートビットがその旨を伝えると、ジークザルトは心底、やれやれ…といった表情になり、頭の固い父親に言い聞かせたのであった。

「そのようなつもりはありませんので、ご心配なく。むしろこれは、我がガモフ家をより大きくさせるための好機とお思い下さり、わたくしにお任せを」
 
 クァルノージー城を護る十八の支城は全て、一回のDFドライヴで星系外縁部へ到達できる距離にある。翌日4月27日、ヒーノス星系恒星間打撃艦隊が、オウ・ルミル星系外縁部に出現した事に、ロッガ家本拠地惑星のウェイリスを占領下に置いたウォーダ軍は、即時警戒態勢に入る。戦力的には恒星間打撃艦隊の一個など、大したものではないが、警戒しておくに越した事は無い。

 惑星ウェイリス衛星軌道上の『ヒテン』で、ヒーノス星系艦隊の動きを見ていたノヴァルナは、直卒の第1艦隊と並んで停泊している第4艦隊の、ブルーノ・サルス=ウォーダへ連絡を入れた。

「ブルーノ殿」

「はっ」

 ブルーノはヒディラスの代からの武将であり、ノヴァルナよりかなり年上だが、ウォーダ一族の中では傍流にあたるため、立場的には下位となる。手堅さが持ち味で、ノヴァルナ的には確実にこなして欲しい任務に、使いたい武将である。

「ヒーノス星系艦隊の、出迎えに行って頂きたいのです」

「迎撃、という意味ですか?」

「いいえ。言葉通りの出迎えです」

「はぁ…かしこまりました」

 ノヴァルナは、ヒーノス星系艦隊が真っ直ぐにウェイリスを目指さずに、第九惑星から第八惑星の間を抜ける、緩やかな楕円針路を取り始めた事から、これは交戦するために、この星系に来たのではないと感じたのだった。ただそれならそれで、超空間通信を使って主旨を伝えればよいところを、このような楕円針路を取ってみせる辺り、何かアピールするものがあるのだろう…そう判断したノヴァルナであるから、ブルーノの第4艦隊をわざわざ出迎えに、向かわせる気になったのである。

 即決即断。隣接していた第4艦隊が一斉に動き始めるのを、外部モニターで眺めるノヴァルナは、その視線をヒーノス星系を領有するガモフ家のデータを映す、ホログラムスクリーンに向けた。

“ガモフ家の当主はカートビット…人物評価は、堅物でウチのゴーンロッグに似た感じみてぇだが、艦隊のこの動きはなんだ?…何を考えてる?”

 ノヴァルナは今のガモフ家の主導権を、当主のカートビットではなく嫡男のジークザルトが握っている事を知らない。
 そのジークザルトは、ヒーノス星系恒星間打撃艦隊旗艦の司令官席で、背後にやきもきしている父カートビットを置き、にこやかな表情を浮かべていた。

「ほ…本当に、大丈夫なのであろうな!?」

 背筋に流れる冷たいものを感じながら、問い掛けるカートビットに、ジークザルトはさらりと言う。

「さて、どうでしょう」

「“さてどうでしょう”ではないぞ! 城を出る時は大丈夫だと言ったろう!?」

 嫡男の適当な返事を聞き、カートビットは声を荒げた。




▶#17につづく
 
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