銀河戦国記ノヴァルナ 第3章:銀河布武

潮崎 晶

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第7話:目指すは皇都惑星

#11

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 敵の指揮官集団もノヴァルナ達三機の接近に気付いたらしく、フォーメーションを素早く変えて来た。前衛から四機・三機・三機の三段構えで迎え撃つ。

「ラン、ジョルジュ。前衛は任せる!」

 そう命じ、僅かに速度を緩めるノヴァルナの『センクウ・カイFX』の両脇を、ランとジョルジュの『シデン・カイXS』が、「了解!」と告げて直進してゆく。すぐさま交戦を開始した六機を、ノヴァルナは『センクウ・カイFX』を一旦上昇させるフェイントを入れてから再加速、波に乗るような動きで下から潜り抜ける。

 前方には、三角の相互支援陣形で待ち構える『ミツルギSS』が三機。『センクウ・カイFX』と三機は、ほぼ同時に超電磁ライフルを放つ。互いに牽制目的のため命中弾は無い。ノヴァルナは機体を左斜め下方へ滑らせる。牽制射撃で敵三機の形成する三角形に生じた歪みに向かったのだ。

 しかしその歪みは意図的に三機が作り出したものだった。そこはさらに後方にいる、指揮官機と直掩二機の狙撃ゾーンとなっていたのである。罠に飛び込んだ形となるノヴァルナ。

 ところがノヴァルナの方も、それは承知の上での行動だった。ショウ=イクマの乗る『シデン・カイXS‐SE』によって作り出されたECM力場の影響で、敵の狙撃の照準は完璧ではない。『センクウ・カイFX』が複雑な機体機動による回避を行うと、指揮官機と護衛二機による狙撃は当たる気配も無くなった。
 これに対し罠を張った三機も、『センクウ・カイFX』を取り囲むようにして、後方から追い込みのライフル射撃を繰り返すものの、全く効果はない。そもそも驚異的な回避能力を持つノヴァルナであるから、それに『シデン・カイXS‐SE』によって作り出されたECM力場が加われば、“鬼に金棒”である。

 すると当たらない事に焦ったのか、敵の直掩の一機が狙撃に集中し過ぎて、反撃回避の予備機動を止めた。そのような隙を見逃すノヴァルナではなく、逆に超電磁ライフルの狙撃を行う。たちまち四散する直掩の『ミツルギSS』。罠を張ったつもりが裏をかかれた敵の三機は、慌てて『センクウ・カイFX』と距離を詰めて来た。射撃戦では埒が明かないと思ったのだろう。それぞれがポジトロンパイクを左手に握り、ライフルを片手撃ちにしながら迫る。

「望むところだぜ!」

 ノヴァルナは不敵な笑みで言い放ち、自らも『センクウ・カイFX』にポジトロンパイクを握らせた。分子結合を断ち切る陽電子フィールドの青い光が、銀色のパイクの刃をうっすらと包み込む。
 
 ノヴァルナが率いるBSI部隊は有利に戦闘を進め、第1戦隊を加えたルヴィーロ・オスミ=ウォーダの第2艦隊も、ミーテック星系防衛艦隊を圧倒しつつあったその反面、第五惑星衛星軌道上に浮かぶ、ミーテック星系宇宙城の攻略に向かったキノッサ艦隊は、思わぬ苦戦を強いられていた。
 ミーテック支城の司令官イズモルト=ジョルダーが思いのほか優秀で、城の直掩に残していた五隻の駆逐艦と、三十機あまりのASGUL、そして防衛の主力に据えた五十四隻の宙雷艇部隊を効果的に駆使し、キノッサ艦隊に想定外の出血を強いているのである。

「重巡『バルファーズ』中破! 後退を開始」

「軽巡『カロナヴァ』、爆発します!」

「第1艦隊戦艦『リグレリア』に魚雷命中!」

 次々と伝えられる自軍の損害報告に、旗艦の重巡航艦『スハッド』に座乗するキノッサは、焦りを隠せない。敵の宙雷艇部隊の波状攻撃を見抜けず、第二波までは凌いだものの、第三波の部隊に艦隊内部へ潜り込まれてしまったのだ。

「BSI部隊はどうしたッスか!?」

 こんなはずでは…といった表情のキノッサが、オペレーターに問い質す。

「敵のASGUL部隊及び、駆逐艦と交戦中です」

 これを聞いて奥歯を噛みしめるキノッサ。攻城戦でBSI部隊は、使いどころが難しいのを理解はしていた。そう思って、敵がASGUL部隊を出して来るタイミングを、待っていたのだ。ところが敵の目的は、ASGUL部隊でこちらのBSI部隊を釣り出し、駆逐艦の支援で足止めする事だった。その隙に宙雷艇部隊の突撃を許してしまったのである。

“どうするべきッスか…”

 キノッサは必死に次善策を考えた。逆転の発想として、自軍艦隊の懐に敵の宙雷艇部隊を抱えた今の状態のまま、前方のミーテック宇宙城に接近するのも、一つの手ではあった。味方の宙雷艇部隊まで巻き込む事を懸念して、宇宙城からの大口径ビーム砲撃が慎重なものになる可能性が高いからだ。

 するとその時、別方向から味方のBSIが一個中隊現れた。散開したそれらは、キノッサ艦隊に取り付いている宙雷艇部隊へ攻撃を仕掛ける。

「第1艦隊の直掩隊です」

 オペレーターの報告に息をつくキノッサ。ただその表情には申し訳なさと、不甲斐無さが入り混じっていた。救援に駆け付けて来たのは、ナルガヒルデ=ニーワスの旗艦『ローバルード』以下、第1艦隊を守るためのBSI部隊だったからで、いわば自分の身の危険を冒して、キノッサを援護してくれた事になる。




▶#12につづく
 
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