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第7話:目指すは皇都惑星

#10

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 オウ・ルミル宙域ロッガ家領域への、アーザイル軍とトクルガル軍の進入は、ノヴァルナから両家への呼び掛けに他ならない。特にトクルガル軍はミ・ガーワ宙域から、オ・ワーリ宙域を抜けて来るという、長距離遠征であった。規模はそれぞれ三個艦隊ずつだが、ウォーダ軍を含めて三方向からの領域進入に、ロッガ家の他星系の恒星間防衛艦隊の大半が、オウ・ルミル星系とミーテック星系への救援には、迂闊に動けなくなる。つまりオウ・ルミル星系とミーテック星系は、手持ちの防衛戦力だけで、ウォーダ軍に立ち向かわなければならなくなったという事だ。

 そのミーテック星系ではルヴィーロ・オスミ=ウォーダの第3艦隊と、ノヴァルナの第1戦隊が、ロッガ家の星系防衛艦隊と戦闘を開始しようとしていた。この間にブルーノ・サルス=ウォーダの第4艦隊は、ヴァルカーツ=ウォーダの第14艦隊とヴァルタガ=ウォーダの第15艦隊を従え、周辺の星系から敵艦隊が接近して来た場合の対処と、オウ・ルミル星系の後方遮断へ動いている。

「艦隊指揮は義兄上あにうえにお任せします。俺は『センクウ』で出ます」

 ノヴァルナは第3艦隊司令官で、父ヒディラスのクローン猶子である、ルヴィーロ・オスミ=ウォーダに通信を入れ、司令官席を立つ。通信ホログラムスクリーンに映るルヴィーロは、穏やかな口調で応じた。

「了解した。代わりに僕の第3艦隊の、BSI部隊をきみに預ける。BSI戦の方は任せたよ。気を付けて」

 ルヴィーロ・オスミ=ウォーダは成長過程の違いで、複製主のヒディラスとは対照的に温厚な性格だった。そして手堅い戦い方もまた対照的である。しかし手堅さの中にも見せる強かさは、ヒディラスのクローンである事が知れる。

「敵星系防衛艦隊の数は多くない。第6、第7戦隊の戦艦部隊は、第1戦隊と共に前進し、砲撃戦の壁を形成。その間に宙雷戦隊は敵艦隊後方へ回り込み、統制雷撃の準備。敵のBSI部隊は気にしなくていい。重巡隊は空母隊を護衛しつつ、敵が崩れた機を狙って、突撃に備えよ」

 淀みなく出される指示に各科の参謀が納得顔で頷き、それぞれに命令を伝える。そこでルヴィーロは軽く息をついた。そしてふと、新星帥皇を名乗るエルヴィスに考えを巡らせる。

“ノヴァルナの話では、バイオノイドのエルヴィスは、自分に植え付けられた偽の意識と記憶を、信じ込んで行動しているのだろうという事だが…その事にエルヴィスが気付く日は来るのだろうか…”
 
 ルヴィーロ・オスミ=ウォーダはかつて、イマーガラ家との戦いで囚われの身となり、時のイマーガラ家宰相セッサーラ=タンゲンによって、ノヴァルナとその父ヒディラスを殺害するよう、深層意識まで洗脳処理を施された事がある。
 そして洗脳されたまま、イェルサス=トクルガルとの人質交換でウォーダ家に返されたルヴィーロは、複製主で義父のヒディラスを殺害してしまった。

 その場で逮捕されたルヴィーロは、不在で難を逃れ、新当主となったノヴァルナに許されて洗脳解除の処置の受けたのだが、深層心理にまで施された洗脳は完全に解くことは出来ず、今でも心の奥底では、義弟ノヴァルナの死を望んでいる自分がいるのを、自覚しているのである。それは義父を殺害したという罪の意識と相まって、時折激しい葛藤となりルヴィーロ自身を責め苛むのだが、この葛藤を受け入れる事こそが、自分の償いだと思って日々を生き、ノヴァルナにも穏やかに接していた。

“果たしてエルヴィスは自分が、偽の意識と記憶を与えられた、ただの操り人形だと知った時、どうするのだろう………”

 エルヴィスに同情の念を感じたルヴィーロだったが、オペレーターの「BSI部隊、交戦開始」という報告を聞き、即座に状況把握へ気持ちを切り替えた。こちらも間も無く砲戦距離である。



「第3艦隊BSI部隊は、対艦装備の敵BSI部隊に対処。護衛は俺達が叩く」

 ノヴァルナは第3艦隊のBSI部隊指揮官にそう告げ、自身は『センクウ・カイFX』を、接近中のロッガ家BSI集団の中で、上方に付いている部隊に向かわせた。そこにいるのはウォーダ家のBSI部隊に対抗するための装備を整えた、ロッガ側の対BSI部隊だ。

「ついてこい『ホロウシュ』。バルーク、ナヴァラス、マルサールの三人は、特に遅れんじゃねーぞ!」

「はっ!」
「了解です!」
「かしこまりました!」

 ノヴァルナが名を呼んだバルーク・クルス=バンターとナヴァラス・ゴルバ=カヌモリス、そしてマルサール=ノンノムルは、ミノネリラ宙域平定後に、昇進し転出したナルマルザ=ササーラ、ヨヴェ=カージェス、ヨリューダッカ=ハッチに代わり、新たに『ホロウシュ』に加えられた三名である。
 バルークとナヴァラスは以前にドボラ宇宙城攻略戦で、一時的にノヴァルナの指揮下に入ったスレイヤー中隊から引き抜いた二名。そしてマルサールは“カルミー星系会戦”で、ヴァルキス=ウォーダの弟ヴァルマスを討ち取った、イースキー家の女性パイロットだった。
 
 味方の武将を討ち取った敵兵ともなれば、征服後に意趣返しをされる恐れがあるのは普通である。
 しかしノヴァルナにはそのような思考法は無く、むしろ勇猛な武将であったヴァルマスの乗った艦を、単機で撃破したパイロットとしての腕を、正当かつ高く評価して『ホロウシュ』に抜擢したのだった。

「目標の敵BSI部隊は、二時十時の方向。機数は四十六」」

 ノヴァルナの『センクウ・カイFX』と並走する、ラン・マリュウ=フォレスタが他の『ホロウシュ』に確認の通信を入れる。それに合わせて電子戦特化型『シデン・カイXS‐SE』に乗る、ショウ=イクマが各機に通達した。

「こちらウイザード21。これよりECMフィールドを稼働させる。全機リンク開始に備え」

 そう言ってイクマがレバーを幾つか操作すると、シャンパンゴールドとコバルトブルーのラインが美しい、イクマの『シデン・カイXS‐SE』のバックパックに畳まれていた、風切り羽型をした十枚のECMアンテナが、まるで孔雀が羽を広げるように展開される。二十機の『シデン・カイXS』のECMが強化され、敵部隊のセンサーやスキャナーの精度と、通信能力を低下させる、電子妨害力場が戦場にした。敵のBSIユニットの数は、ノヴァルナ側の倍以上だ。少しでも状況を優位にしておきたい。

「ウイザード中隊、戦闘開始!」

 言うが早いか、ノヴァルナはスロットルを上げて機体を加速させる。コクピットを包む全周囲モニターが映し出す星の光の流れが、一斉に速さを増す。ノヴァルナのウイザード中隊の接近に、ロッガ家のBSI部隊は素早く散開した。相手は星系防衛艦隊のBSIユニットだが、レベルは低くなさそうだ。

「指揮官機を叩く。02、03、援護は任せる」

 ノヴァルナからの通信に“ウイザード02”を操るラン・マリュウ=フォレスタと、“ウイザード03”を操るジョルジュ・ヘルザー=フォークゼムは、声を揃えて「了解」と応答した。“ウイザード03”は以前はナルマルザ=ササーラが務めており、ノヴァルナの直掩機として、比較的新参者のジョルジュが頭角を現した形だ。これも部隊の新陳代謝といったところであろうか。

 その間にも、敵の指揮官機らしき機体を発見したノヴァルナの、『センクウ・カイFX』はさらに速度を上げてゆく。敵指揮官機は親衛隊仕様の『ミツルギSS』である。それが同型機十機で一つのグループを作る、珍しい構成だった。ノヴァルナはランとジョルジュに声を掛ける。

「二人とも抜かるんじゃねーぞ!」




▶#11につづく
 
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